金融機関向け資金繰り表の注意点~自動出力の資金繰り表はトラブルを招く??
何等かの借入が必要になった場合、金融機関に相談すると決算書や試算表などとともに資金繰り表を求められる。自社の資金管理上整備されている資金繰り表であれば、その会社の好みで一向に構わないが、ベンチャーキャピタルや銀行等金融機関へ提出しようとする際には注意が必要だ。実際、私も資金繰り表の提出を受けることがあるが、要領を得ない資金繰り表というものは、ある程度の頻度で目にするものだ。
資金繰り表の技術的な作成方法は検索すれば幾らでも出てくるし、様式もいろいろなものがある。様式自体は、金融機関から指定されていなければ最低限のマナーをもって作る必要がある。
ご自身が普段の会計入力に使用している会計ソフトに資金繰り表のアウトプット機能があればそれを使ってもいいし、作ること自体はそれほど難しくないはず。自力で作りにしても、現預金の入出金記録を資金繰り表の各項目に分類すれば済む。今時のクラウド会計ソフトなら、API を使って自動で資金繰り表を作成する機能も出てきている。
最低限のマナーというのは、資金繰り表の様式はいろいろなものがあるが、様式として設けるべき項目としては、①前月繰越残高 ②経常収入、経常支出、経常収支、③設備投資収支、④財務収入、支出、⑤次月繰越残高で、これらが記載されていれば大体OKだ。要は、①~④がきちんと分類されていないと、読み手としては会社の状況を把握できないのだ。①、⑤は月末、月初時点の残高で、②~④で月中の動きを表現する。②~④においては、②商品等を売った、買った、給料を払ったなどの事業の資金の動き、③設備等購入や売却時の資金の動き、④借入の実行、返済、貸出、出資払込など主に資金貸借や出資に関する資金の動きを記載する。資金繰り表の読み手は、資金の動きが事業活動、投資活動、財務活動に分類されることで、資金需要を掴んだり資金使途の適切性を判断できるようになる。
また、マナーとしてやってはいけないこともいくつかあるのだが、代表的なものは、経常収支がマイナスになっているのを見られることを恐れるあまり、経常収入と経常支出の差額である経常収支を記載しない資金繰り表である。読み手としてはいちいちそこを計算しなくてはならないし、労力をかけた結果経常収支が常に赤字であることが分かった場合は、その時点でかなりモチベーションが下がるし、隠す意図が透けて見えるため不信感を抱いてしまい相当に印象が悪い。以上の点は最低限踏まえるべきことなので抑えておいた方がいいだろう。
さて、銀行等に資金相談する際に提出する資金繰り表というのは、単にテンプレを用意して過去実績通りに表を埋めただけでは、役に立たないどころか有害になることもある。そういう意味で単なる「作成」ではなく「策定」と言うべきかもしれない。「策定」という単語には、以下のような意味がある。
策定(さくてい)とは、企業などの政策や戦略、方針などを考えて決めるという意味である。「策」の字には計画、はかりごと、「定」の字には定める・決めるという意味があり、簡単に説明するならば「計画を決める」ということである。ただ日常において使われることは少なく、一般的にビジネスにおける計画やスケジュールを立てる際によく使われる。-------実用日本語標準辞典
金融機関に対して資金上の相談事があり、その資料として資金繰り表を提出するのだから、その相談事と整合性の取れた資金繰り表である必要がある。この重要なポイントが抜けており、ただ表作成しただけの資金繰り表が多いように思う。専門家に依頼する場合も同様で、今どういう状況なのか、何の目的で提出するものなのか、十分にディスカッションして成果物のイメージを共有しないといけない。資金繰り表ならなんでもいいというわけにはいかないのだ。
例として、相談事が資金不足であれば、3ヶ月後の決済資金が一時的に不足しており、不足額はいくらで、翌月の入金予定額により返済可能だから、期間は3ヶ月でいい。念の為として6ヶ月にできるかどうかといったことを相談したとすれば、資金繰り表の読み手は、本当に決済資金が資金不足の原因なのか、収支赤字が状態化していないか、当てにしている入金元との取引状況はどうか、などがチェック事項となるだろう。場合によっては取引先の信用情報を確認したりしながら、返済可能性を検討することになるはずだ。定常的な取引があるならいいが、始めての取引先の場合などは、追加の質問に備えて入金の確実性を主張できるものを用意しておくといいだろう。
資金不足の原因が単なる入出金のタイミングだけならいいのだが、業績不調が原因である場合は、門前払いでなければ経営改善計画の提出も一緒に求められるだろう。
その場合は、経営改善施策によって資金を捻出し、返済原資に充当するストーリーを提示しなければならず、それと整合性の取れた資金繰り表でなければならない。それなのに、経常収支赤字のままの自動アウトプットした資金繰り表を見せてしまうと返済原資不足と判断されたり、あるいは右肩上がりの資金繰り表を見せた場合は実現可能性なしと判断されて、望ましい結果は得られないだろう。
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