自転車を修す

2万6千円くらいかけて自転車を修理した。

丸石のエンペラーという自転車で、ランドナーという旅ができる自転車だ。
荷物をたくさん積みながら、長距離を走ることができる。
そのためタイヤは太く、標準で泥除けも付いている。
ギアはどこまでも軽くなるので上り坂に向いていて、逆にあまり重くはならないのでスピードはそんなに出ない。
とは言っても、どんなにギアが軽くなっても上り坂はキツい。
スピードが出ないとは言っても、その辺の一般的な自転車よりは速い。

この自転車を買ったのは、もう15年も前になっちゃうのか。
大学で東京に出て8年半過ごしたんだけれど、秋田に帰ることにした。そのときに買った。いわば、東京時代の最後の買い物だ。
ただ秋田に帰るのは寂しいだけだったので、チャリで帰ろうと思って、ネット注文した。
荷物がからっぽになった部屋で、一晩段ボールを敷いて寝て、翌日に届いた。
何もなくなった部屋で、新品の自転車を開封した。
乗り方もさっぱりわからないまま、じゃあね、と当時の友達に手を振って自転車で出発したのだった。

基本的に無計画なので、4号線をひたすら北上し、疲れたら適当な宿を探して泊まった。
当時はmixiで友だち向けにその日の日記を書いた。
みんな面白がって宿の情報などをくれた。
3泊4日で仙台まで着いた。
ここから山を越えて行くだけの体力がなかったのと、次の日に秋田で中日対巨人の試合のチケットを買っていたのでそれが見たかったのもあって、仙台からは自転車をバラして、新幹線に乗って帰った。
友だちは最後まで完走しろと言ったが、最初から仙台までの予定のつもりだったのだ。

そういえば、いつか仙台から秋田までの続きをしようと思ってたんだっけ。
でも、意外と長距離の自転車はつらいだけで、あんまり楽しくはなかった。
未知の道を突き進むドキドキだけがあった。
山道や、夜は怖かった。
人がいないような道は当たり前だけれど、自転車が走ることを想定していないのだ。
たぶん、知らず自動車専用道路も走ったのかもしれない。
どうか死にませんようにと、祈りながら、大きなトラックとすれ違うのにビクビクしながら走った。

那須高原では思いっきり転んだ。
自転車は崖から落ちる寸前で、フェンスに垂直に刺さって引っかかって助かった。
左肘は血だらけで、その傷跡は今も残っている。

そんな全てが懐かしい。
買ってすぐに300キロちょっとを数日間で走った自転車。
その後は車を買うまでは、通勤用で乗っていて、車を買ってからは乗らなくなっていた。
何年か前に事務所の駐輪場に置きっぱなしにしていたら、錆びて動かなくなった。
それからしばらく眠っていた。

この自転車がずっと気掛かりで、でも、自転車屋さんに持って行くと怒られそうな気がして、お金も10万くらいかかると思い込んでいて、なかなか修理に持っていけなかった。
それでも今年の計画には、「自転車を修して、乗って、楽しんでいる」と書いてあった。
重い重い腰を上げて、ついに修したのだ。

小さな自転車屋さんは、なんか怒られそうで、自転車に詳しくなくちゃ行っちゃ行けなさそうな気が勝手にしていた。
なので、大きな自転車屋さんにしてみた。

サイクルベースあさひ
https://www.cb-asahi.co.jp

まずは手ぶらで行って、事情を話して修理してくれるか聞いてみたら、大丈夫だという。
女性店員さんも含めて自転車に詳しくて好印象。
早速、持っていって、見てもらうと、ざっと3万くらいである程度乗れるまでにはなるという。
10万も行くと思ってたので一安心。
ちょうど一週間で修理が終わった。

久々に自転車に乗る。
風を全身で感じる。
地面の振動が伝わる感じ。
ギアを変える音。
信号待ちで止まった後の漕ぎ出し。
下り坂と上り坂。
車との競争。
全部久しぶり。

自転車屋さんから約4キロの道をすっ飛ばして走った。
汗だく。
暑いので風も生温い。

でもなんか嬉しい。
心の重荷が一つ取れた。

もともと自転車みたいな乗り物は好きなんだ。
気の向くまま自由に自分のペースであちこち走れるのがいい。
立ち止まったり、寄り道したりできる。
疲れたら休む。
人生もそのくらいのペースがいい。

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