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探していたカブトムシは、徒歩5分の場所にいた。

うちの長男は、小学5年生で、大の虫好きである。
虫というよりも生き物全般が大好きで、将来は生き物の研究者になると言っているほど(勉強はさっぱりだけれど)。

2、3歳の頃までは、アリンコにすらびびってたやつが、今となってはあれは秋茜のメスだとか、俺も知らないことを教えてくれる。
そんな男の子だからこの時期になると決まってカブトムシとクワガタムシに熱中することになる。
ここ5、6年は、虫を捕まえるために、それはそれは大変な苦労をしてきた。

秋田県秋田市に住んでいるので、都会と比べれば、それなりにいそうなものだけれど、それでも、自分のこどもの頃と比べると開発は進んで自然環境は激減している。
自分が小学低学年くらいまでは、家の周りに蛍が飛んでいた。
家の周りには、まだ田んぼがあった。
街灯や自動販売機には虫が集まっていた。
キャンプ場では、必ずカブトムシやクワガタムシを見つけたものだ。

もう30年も前の記憶を頼りに、最初は、キャンプ場がある山まで探しに行った。
早朝、こどもと一緒に虫網をもって歩いていると、そこを管理しているおじさんに声をかけられた。
「あ~、この辺にだば、カブトムシはいねぇや。最近は、農薬を空中散布してるもの。トンボくらいしか、いねーなぁ」
その言葉には、ひどくがっかりしたものだ。

あらゆる山々を探したけれど、なかなか見つけられなかった。
虫は光に集まるものだと思っていたけれど、近頃のLED電球には虫は集まらないようで、街灯を頼りには見つけられない。
当然、自動販売機にも虫は集まらない。
奇跡的に残っている古い街灯を探すしかない。
夜中に山に行ったところで、ポイントがわからないと見つからない。
日中、樹液が出ている木を見つけて当たりをつけて、夜に行ってみても、いない。

秋田県は広い。車で片道2時間圏内であれば、あちらこちらに出かけてみた。
たまたま子連れで来ていた見知らぬお母さんに、「うちにいっぱいいるからあげる」と、分けてもらったこともある。

初めて捕まえたのは、2,3年前のこと。
車で10分くらい行ったところにある、小さな雑木林に、夜な夜な通っていた時期があった。
そこにいるらしい、という某虫好きが集まる掲示板で情報を得たのだ。
数日通っていた中で、ブーーン!!!!! というものすごい飛来音が響き渡って驚いたのを覚えている。
高い、古い街灯の周りを、オスのカブトムシが、大暴れで飛び回っていた。
ただ、その時は、どうせ今日もいないだろう、と期待もせずに車に網を置いてきていた。単なる様子見のつもりだったのだ。
慌てて、車に戻り、網を持って、現場に戻るも、もうカブトムシはいなくなっていた。
ドキドキが止まらなくて、悔しくて。

確か、その日、その勢いで車を動かし、そこから20分くらいは走ったところにある某ショッピングセンターの隣のゴルフ場の脇にある街灯ポイントに向かったのだ。
深夜2時。ここも目撃情報が多数あるのだが、住宅街でカブトムシが留まりそうな木はほとんどない。
それでも、道端には、カブトムシがカラスに喰われた後と思われる死骸が多数ある場所で、街灯めがけて飛来してくることが期待された。
深夜2時に虫網持って、住宅街を歩くおっさんは、変質者以外の何者でもない。
それを自覚しつつも、意地でも捕まえないと、父親失格なのではないかという思いがあって、諦めきれないのだ。
ブーーーーン!!!!!
びくっと驚くとともに、鼓動が高まる。
見つけた! でも、網では届かない。
飛び回るカブトムシ目掛け、必死で網を振り回す。
その瞬間、カブトムシが網に入った。
捕まえた。

捕まえた!

網の中のカブトムシは、それは元気で、暴れん坊で、しばらく虫を触っていない大人にはちょっと難易度が高いんじゃねーか、と思いながらも、逃がすわけにはいかない。
網に絡まる足を、間違ってちぎってしまわないようにしながら、なんとか網から取り出して、虫かごに入れる。
捕った! 捕った! お父さん、捕ったぞ!
朝起きた時のこどもの顔を楽しみにしながら、かごの中でブンブン飛び立とうとする羽音を聞きながら、夜中3時車を走らせた。

あれがもう約3年も前の話なのだけれど、その後も探せど、なかなか見つからないでいた。
夢は、一度でいいから、木に留まっているところを見つけて捕獲することだった。
図鑑などでよく見る、樹液に集まっているところをこの目で見たいのだ。

その夢が、今年叶った。
そこは、うちから徒歩5分くらいのすぐ側の場所だった。
公園があって、その隣には、川が流れていて、その川を渡る古い小さな橋がある。
橋を渡るとき、橋の真ん中ほどの左側。つまり、川の真ん中くらいに生えている木があって、そこは2年くらい前に、コクワガタが住むポイントとして見つけていた木だった。
そこを昨日の夜、こどもと見てみたら、カブトムシの雄と、コクワガタの雌がいるところを見つけたのだ。
樹木までは、網を伸ばさないと届かない。
網を伸ばし、網の淵に引っ掛け、なんとか川に落とさないように気を付けながら、網に入れる。
翌朝も行ってみたら、カブトムシの雌がいた。
こどもは大喜びだ。
調子に乗って今日の夜は、1人で行ってみた。
カブトムシの雄と、コクワガタの雌がいる。
この木は、今年は樹液を出していて、虫が集まっているのだ。
おっさんが1人、虫網を持って、虫を捕まえて、意気揚々と歩いている姿をすれ違う人はどう思っているのだろう。
でも、そんなことを気にしている場合ではないのだ。

あんなに、あちこち探しまわったのに、バナナトラップも作って仕掛けたのに、結局は、家からすぐ側の場所に自然に生息していた。
探さなくても、必要なものは、本当は、すべて目の前にあるのかもしれない。
明日6時に息子は起きる。
虫が増えていることにきっとびっくりするだろう。
いや待て、それよりも前にもう1回見に行ってみよう。
雌があと2匹手に入ると、実にいい。
今は23時38分。今から行こうか?
いや、さすがに朝だ。少し寝てから5時に起きて出かけよう。

きっと明日も一日眠い。
また嫁に怒られる。


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