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きついのに続けている仕事

私はフリーランスで翻訳の仕事をしている。2011年に開業して、12年目だ。2020年の秋、仕事の疲労による眼精疲労が原因で結膜炎となり、右目が開かない状態で眼帯をして1週間過ごした。Twitterで「翻訳者にとって眼精疲労と肩凝りはお友達」とつぶやいたところ、同業者さんからたくさんのいいねをいただき、腰痛に坐骨神経痛にヘルニアに頭痛と、さまざまな「職業病」と戦う満身創痍のみなさんからたくさん返信をもらった。

そうですよね、そうですよねとリプライを返しながら、「みんななんでこんなにしんどい仕事を喜んでやっているんだろう」とふと思った。

翻訳の仕事というのは原文を読んで理解し、もう一方の言語で同じ内容で書き起こす仕事なので、一日の仕事時間のうち、ほとんどの時間を外国語か日本語の文章を読んで過ごす。読む(インプット)と書く(アウトプット)を繰り返す仕事だ。

目から情報が入ってきて脳で処理し、脳から命令を下して指先でキーボードを操作し、訳文を入力していく。座りっぱなしの仕事なので肩は凝るし、PCのディスプレイをずっと見ているので目が疲れる。肩も凝る。姿勢も悪くなりがちなので腰も痛くなる。

同業者の皆さんは高価な椅子を買ったり、定期的に整体やマッサージに通ったり、ヨガや体操をしたりして体をほぐすなど、仕事に関係する凝りや疲れを何とかして解消し、体調を整えようとするが、すぐに疲労がたまる。

なぜか仕事の依頼は固まるときは一気にくるので、短い睡眠で長時間作業する人も少なくない。

みんなどうしてこんなに仕事が好きなのだろう。翻訳者の皆さんの中には「なりゆきでなっただけだけどこの仕事が面白くてやっている」という人もいるし、「小さい頃からの夢がかなった。本当にうれしい」という人もいる。

ひとそれぞれ細かい事情は違うにせよ、こうした物理的なしんどさを上回る「何か」があるから皆さん続けていらっしゃるのだろう。単純に「仕事だから」で片付けられない何かがそこにあるはずである。それは「翻訳が好きだから」かもしれないし「やりがいがあるから」かもしれないが、「何か」がなければこんなしんどい仕事はそもそもやってられないのである。

「言葉を訳すだけで儲かるなら楽でいいね」などと一瞬でも思った人がいたら一度やってみていただきたい。翻訳という作業を。

「やってみたら分かったけど翻訳って大変なんだね」

そう感じていただけたのなら、この仕事をやっている身として少し報われる気持ちになるというものである。

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