虫歯おばけ
「やーだ、歯なんか磨かないもんねー」
イヤイヤ期の息子は、とにかく歯を磨こうとしない。
頑なに、拒否するのだ。
「歯を磨かないと、虫歯おばけが襲ってくるよ」
「そんなのいるわけないじゃーん」
私の脅しも、すっかりなれてしまった息子。
ついにあれを使う時が来たか。
その日の夜。
「む〜し〜ば〜お〜ば〜け〜だ〜ぞ〜」
枕元に、巨大な虫歯現る。
「ぎゃあああ、ママー!」
息子は泣き叫んでいる。
「こ〜れ〜か〜ら〜」
「ぎゃあああ、ぎゃあっ」
もう、ちゃんと聞いてよ。
私は重い着ぐるみの中で、ため息をつく。
「は〜を〜ちゃ〜ん〜と〜み〜が〜く〜か〜?」
「うわああん、分かったああああ」
「い〜い〜子〜だ〜」
それだけ言うと、私は息子の部屋を出た。
「はあ、暑かった」
それに重い。
私は虫歯の着ぐるみを脱ぎ捨てると、さめたお茶を飲んだ。
歯を磨きたがらない子供が増えすぎたため、政府は、子供がいる家に一つずつ、虫歯おばけの着ぐるみを渡すことにしたのだ。
赤ちゃんの抱き方、お風呂の入れ方より、虫歯着ぐるみの着方について多く教えられる。
これ、役に立つんだな、と私はしみじみ思った。
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