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かんじ

ある乾物屋に、男が飛び込んできた。
「かつおぶしをください」
店主は、静かに言い放った。
「じゃ、『鰹節』の漢字を書いてみな。書けたらやるよ」
「ええっ、そんな」
男は、焦りだす。
「そんなのむりですよ。ぼくはかんじがにがてなんです」
「じゃ、やんねえ」
店主は背中を向けて、店の奥へと歩いていく。
「まってください!きくらげでもいいですから」
店主は足を止める。
「じゃ、『木耳』の漢字を書いてみな」
「・・・」
男は諦めたように、窓から空を見上げる。

「木耳」「鰹節」「若布」・・・

空には数え切れないほどの漢字が浮かんでいる。
「はあ、答えを見ちまったか」
店主は残念そうにため息をつく。

漢字が苦手すぎるこの男のために、町中の皆が協力しているのだ。
でも、やはりそう簡単に覚えられる物でもない。
そのうち男には、空に漢字の答えが見えるようになった。

「やくそくです、『鰹節』をください」

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