これからの教師の学び方〜今ある仕事に「ちょい負荷」をかける〜
●はじめに
VUCAの時代と言われる現代を生きる私たちにとって、問題意識をもって学び続け、自らを成長させていくことは必要不可欠である。これは当然、子供たちだけではなく、教師自身にも当てはまる。
しかし、周りを見渡すと、どんな問題意識をもち、どのようにして学んでいけばよいのか分からずに困っている教師は、想像以上に多い。
本稿はこれからの教師に求められる学び方について、私自身の経験を踏まえてまとめたものである。
●問題の所在
まず、経験の浅い教師は、目の前の仕事に追われ、自らの成長を考える余裕などないのが現状だ。とにかく学級を安定させ、日々の授業をこなしていくことが最重要課題となる。問題意識をもって学ぶことは容易ではない。
反対に、経験を重ねた教師にとっては、これまでの教育観や授業観をアップデートすることが難しい。経験値があれば、当然今まで通りやった方が見通しをもって取り組める。あえてやり方を変えようとは思わないのが自然であり、成長というより現状維持の意識が働く。
以上のことから、問題意識をもって学び続け、自らを成長させていくためには、できる限り今ある仕事の延長線上、かつ、見通しをもって取り組める学び方が求められる。
●今ある仕事に「ちょい負荷」をかける
多忙を極める教師にとって、最適な学び方は、今ある仕事にちょっとだけ負荷をかけることである。
今ある仕事は、見通しをもって取り組んでいるはずだ。そこに負荷をかけるという発想は、仕事が増え過ぎる心配もなく、持続可能な学び方と言える。要は、今ある仕事のいくつかを意識高くやってみようという話だ。
以下、私なりに厳選して3点にまとめた。
1 週案に「ちょい負荷」をかける
教師の仕事の一つに週計画を立てて管理職に提出するというものがある。私の学校では週案簿と呼ばれている。毎週の提出が必須になっているこの仕事にちょっとだけ負荷をかけて、成長の機会にしてしまうのが得策である。
通常、週案には1週間の時間割や時数を記載する。そこに、1週間の目標と振り返りを明記し、管理職に報告する。1学期間の中の1週、1ヶ月の中の1週と、いくつかのスパンから見たその週の目標を決めることで、問題意識が明確になり軸がぶれなくなる。
たとえば、この週は4月の1週目だから、【学習と生活のきまりを確認し、価値付け、方向付ける。】
少し学級に慣れてきた5月の1週目だから、【メリハリのある態度を意識させる。そのために、事前に働きかけ、考えさせ、行動につなげる。】といった要領で目標を書く。
そして、1週間の目標を基に振り返りを書くことで、自らの教育活動を改善していく。子供たちに振り返りの指導をしているわりに、教師自身の振り返りはあまり行われていない。
1週間を振り返り、自らの教育活動を改善していく習慣を身に付けることは、教師の成長において必要不可欠なピースであると考えている。こうした地道な思考活動こそが、教育観や授業観を見直す機会になる。
週案を活用する利点として、もう一つ述べておきたい。それは、毎週管理職のチェックが入るため、「1週間の目標と振り返りの明記」を義務化できることだ。
ストイックだが、これがないと面倒臭くなって結局やらなくなる。だからこそ、管理職のチェックをうまく活用し、一度やり始めたらやめられないように仕組み化する。管理職からもよく頑張っていると評価してもらえる。
2 教材研究に「ちょい負荷」をかける
教材研究は日々の授業を支える重要な仕事である。しかし、日々の業務に追われていると、疎かにしてしまう。
多くの教師は指導書を読んで教材研究を終えてしまう傾向にある。ここにちょっとだけ負荷をかけて、自らの成長を促したい。
具体的には、全単元は難しくても学期に1回程度は、指導書で単元の全体像を捉えた後、関連する教育書を読むようにする。
日々の授業を進める中で、改善の余地を感じる部分に焦点を当て、ねらいを絞って教育書を探すようにする。そうすると、時間をかけ過ぎずに少しずつ授業の質が高まっていき、自然と学級も安定していく。
他にも、教科や単元を決めて教育書を探すのもよい。全単元が掲載されている解説本よりも、単元が厳選されていて1つの単元について数ページにわたって書かれている本のほうが詳しくてよい。著書の熱意や考え方も色濃く表れているので学びが多く、教育観や授業観も磨かれる。
最初は、教育書に書かれている考え方や授業プロセスをそのまま追試していく。子供の実態が違うので、不都合が生じてくるので、その点を随時修正していけばオリジナルの実践が生まれる。
いずれは、学習指導要領を読んで、子供の実態から育てたい子供像を明確にし、自分なりの実践をつくっていけるようになる。
経験年数に関わらず、一度は教育書から学ぶ時期を設けてみることをおすすめしたい。経験だけに頼るのではなく、常に学び続ける姿勢が自らを成長させていく。
3 日常授業に「ちょい負荷」をかける
最後に、日常授業にちょっとだけ負荷をかける方法を述べる。これは先ほどの教材研究にも大きくかかわる。いくら意識を高めて教材研究をやろうと決めても、気付けば目の前の業務に追われてやらなくなるのが関の山だ。
これを打破しなければいけない。週案の「ちょい負荷」を管理職のチェックで義務化したように、教材研究及び日常授業にも「ちょい負荷」をかける仕組みをつくることが大事だ。
そこで私が提案したいのが、「ゆるっと授業公開」だ。指導案(略案を含む)を準備して、授業を公開するに越したことはないが、現実的にかなり労力がかかる。ちょっとだけ負荷をかけるには、指導案は準備しないけれど意識が高まる状況を生み出す必要がある。
そこで最適なのが、気の合う同僚に声をかけて、授業を定期的に見に来てもらうことである。気の合う同僚だったら負荷は小さい。
しかし、同僚が見に来るからには、下手な授業はできないと奮起するものだ。教材研究に向かう意欲は俄然高まり、授業後にはその授業のポイントが何だったかを伝えようと意識的に学ぶことができる。
また、授業中も様々なことを考えながら進めることができる。上手くは言えないが、妙に思考が働き、これまで自分が学んできたことを意識的に行うようになる。いつしか見に来ていない日でもできるようになっている。
この「ゆるっと授業公開」は、いずれ他の同僚にも幅を広げていけば、学びの質は高まっていく。互いにゆるっと授業を見合える関係の同僚が増えると、多様な意見をもらえるため、問題意識をもつきっかけも増える。成長速度はどんどん上がっていく。
●おわりに
これからの教師には、問題意識をもって学び続け、自らを成長させていくことが求められる。しかし、想像以上に教師の仕事は多忙で、目の前の仕事に追われてしまう。多忙さを嘆きたくもなる。ただ、それでは何も始まらない。自らの意識を少し変えるだけで、今ある仕事の延長線上に自己成長をデザインできるはずだ。「小さな負荷が大きな成長を生み出す」と信じて、私も絶えず学び続けていきたい。
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