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「レタースペーシング タイポグラフィにおける文字間調整の考え方」を読んだ

大友です。家電のメーカーでUIデザインをしています。
今回は「フォント・文字組みの知識をつけるのにおすすめの本教えて!」というインスタストーリーの質問箱に対して後輩がおすすめしてくれた、こちらの本について感想を書きます。




きっかけ:文字組みに対する苦手意識

私は大学でプロダクトデザインを専攻していたため、平面物をデザインするための教育を受けた経験が少し乏しい。
しかしフライヤーや掲示物等の入稿データを作る機会はぼちぼちとあるため、その度に文字組みに怯えていた。
見様見真似でやっているけど、見る人が見たら激ダサなのでは……?と心配になるのを辞めたくて、基本のキから説いてもらえそうなこちらの本を読むことにした。

出身大学HPより。
この「視覚調整」の基礎課題は確かBマイナスだった

冒頭部分でとても有難かったのが、本章が始まる前に「文字組みに関する専門用語集」のページがあったこと。
タイポグラフィには計り知れない量の専門用語があるんじゃないか…と思っていた私にとって、「この3ページに載っていない用語はポピュラーじゃない=今学習しなくてもOK」と判断できたのがよかった。

「人の数だけ存在するスペーシングの最適解」という前置きも良くて、「スペーシングは、最終的には感覚によるものです」というのはよく聞くフレーズだけど、本書の「理論をベースに徐々に個々の感覚を育てた上で、多くの人に受容される最大公約数を見つけましょう」という方針は私のような苦手意識がある人でも受け入れやすかった。


よいと思ったところ


・曖昧になりがちな部分の言語化や例示が行き届いている

本書はデザイン書でよくありがちな「スペーシングの原則や錯視を紹介し → 具体例を数個示して終了」という形式ではなく、その2つの間に概念の抽象化と噛み砕いた言語化 / 図式化を丁寧に挟んでくれる。
そのため、「あとはケースバイケースで頑張るか…」という不安感を抱くことなく、「何にでも応用できるぞ!」という心持ちまでいける。
特に「文字の視覚的な端を探す」という章の「文字を粘度の高い水面に落とす様子を想像し、沈む位置が視覚的な端と考えられる」という解説が好きで、ここで物理法則を引き合いに出すことで、スペーシングの「多少個人差はあるが共通した感覚」が例示にも表れているのがなるほどな〜となった。

・媒体の話がほとんど登場しない

「印刷物の場合、WEBの場合、これくらいの実寸の場合…」といった話がほとんど無く、また触れても最低限なため、文字とその周りの余白を普遍的な視点で捉えることができる。
基本的に最小文字数から解説していくことが徹底されており、これはどんなシーン文字の場合なのか?という疑問を抱かずに読み進めることができた。
今まで見てきた本やサイトでは「文字と媒体は密接で切っても離せないもの」として扱い、解説していることが多かったため新鮮だった。
目先の具体的な実践を想定しているわけでなく、体系的に/普遍的な知識として学びたいというパターンにもぴったり。

・和文について内容が充実

欧文の章に比べて和文についての章は、ルールや扱い方よりもひらがな・カタカナの造形特徴や様々な試みを持ったフォントの紹介など、和文の奥深さのチラ見せにページが割かれている印象があった。
もちろんテクニックとしても実践に活かせる内容だが、日本語そのものの興味深さを再認識してわくわくできるところがよかった。
日本語に対して語学として取り組んだことはあれど、ひらがな・カタカナも含めた造形物としてまじまじと観察したことはなかった。
ではスペーシングの考え方を用いることでどんな特徴が浮き彫りになるのか…を考えられる切り口をいくつも提示してくれる。
筆者は日本語が好きなんだろうな〜というのが語り口からじんわり感じられるのも◯。


読んでみての変化

まずは、文字組みへの苦手意識が段違いになった。
単に知識が付いたからだけでなく、「スペーシングの絶対的なミス」というのは基本の考え方さえ知っていればそれほどないということがわかって、「自分もトライアンドエラーしていいんだ」と思えたことが大きい。
スペーシングの中でも個人の判断差が大きい部分は明確に記述されていたのも効いている。
もう一点、「このフォントは何を意図して造形されたのか」を読み解く糸口をほんの少しだけ掴めた。
本書が「今、文字と文字の間で何が起こっているのか?」を取りこぼしなく丁寧に言語化してくれたことで、デジタルの文字を味わうための基本の語彙を掴むことができたのではと思う。(コーヒーやワインの味を表現するための独特な言い回しを覚える過程にどことなく似ていると思った。)



ボリュームも重くなく、かなり読みやすいにもかかわらず一冊読んだだけで「これはやっていけるぞ…!」と思わせてくれる本でした。
あとは表紙が可愛いです。各々のパーソナルスペースを持った文字たちに対する愛しさが伝わってくるようなイラストが秀逸です。
手元に置いていてなんだか気持ちが良い本だと思いました。

「レタースぺーシング  タイポグラフィにおける文字間調整の考え方」
https://letter-spacing.mimiguri.co.jp


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