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産qレース 第二十二話

 後日、斎藤帰蝶は、清和部長と源氏科長によばれた。

 やすこと信子に対する嫌がらせ行為について、言及されたようだが、信子に対するメール以外は、一切認めなかったと源氏より聞かされた。

 その後は、ぱったりと不可解な出来事はなくなった。

 信子も安定期にはいり、元気を取り戻し、仕事も落ち着いて取り組めるようになった。お腹も少しずつ目立つようになってきた。

 一方、やすこは、年度末の電子カルテ係の仕事が大詰めを迎え、多忙を極めていた。

 臨床終了後に、改定されるデータ入力をするが、パソコンのデータ処理が遅い上に、すぐにエラーがでる。また、わからないことも多い。

まさえに確認しても、「今までと違うからわからない」と言われる始末だ。

 真田からも手伝いましょうかと声をかけられるが、結局全ての連絡がやすこに来るため、説明するほうが時間がかかる。

『こんなにパソコンの前にいるなら、お腹に電磁波ブロックの腹巻きを買っておけばよかった。』と後悔していた。

 3/30、まだまだ入力が残っている。どうにかお願いして半日は、電子カルテの入力にしたのに、パソコンエラーや入力ミスを繰り返し、なかなか前に進まない。

『今日は、公さんも遅いっていってたから、終わらせないと。。』


真田と作業を進め、時計はもう20時を回っていた。

「徳川さん、お疲れ様です。大体、これで終わりましたかね?」

「そうだね。本当にありがとう。助かったよ。もう、帰ろうか。」

「いやいや、あとの片付けは自分がやっておくので、徳川さんは先に帰ってください。」

「ありがとう。」

 もう、21時近い。やすこは、久々に夜の電車に乗った。夕方とは、だいぶ客層が異なる。お酒臭い人や疲れている人で車内は混雑している。

 なんとか中にはいり、シートの前のつり革に掴まると、前のサラリーマンが声をかけてきた。

「妊婦さんなのに、こんな遅くまで働いちゃいけないよ。身体に障るから、座って。」

と席を譲ってくれた。

「ありがとうございます。」とやすこは泣きそうになった。

 座席に座ると、ずっとお腹が張っていたし、クタクタだったんだと改めて実感した。

やすこが降りる駅で、席を譲ってくれたサラリーマンに会釈をすると、

「元気な子を産むんだよ。」

「はい。ありがとうございます。」とやすこは笑顔で答えた。


駅の改札をでたら、徳川が待っていた。

「やすこちゃん、心配したよ。遅い僕よりも、遅いんだもん。こんなに遅いなら、車で職場まで迎えに行ったのに。」

徳川は、荷物を預かりながら、怒っているような、心配しているような表情で話している。

「公さんが、もっと遅いと思って、悪いから連絡しなかったの。待っててくれてありがとう。」

「やすこちゃんの、職場は働かせすぎだから、僕、これ以上こんなことがあったら、直談判するよ!」

「いやいや、待って待って、もう電子カルテ係終わりだから。」

徳川は、車にやすこを乗せ、家に向かって走り出した。


翌日、やすこは、朝から喉が痛く、鼻水が出ていた。

風邪かなと思いつつ、鼻炎だと言い聞かせ職場にいく。

朝、やすこが入力し終えたことを、システムの担当者に電話をすると、

「確認しましたが、入力間違えが多数ありました。」

「えっ、ダブルチェックしたんですが、、」

「いや、今回は、大幅改定だったので、どこの部門も大変だったみたいで、こちらでやった部署も多かったですよ。あと、直しておくので、大丈夫です。明日、確認だけお願いします。」

へなへなと全身の力がぬけた。

『この2ヶ月バタバタと最後の2週間の忙しさは何だったのか。』

すると、午後から体調が一気に悪くなり、咳が止まらなくなってきた。

 休みだった真田宛に、やすこが休みの場合の対応をメモに残した。念の為、源氏にも対応を伝えた。

やすこは、ふらついた足取りでなんとか家に帰った。

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