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「スナックのママ・はるみさん」|思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー

Community Nurse Company 株式会社の本社・拠点がある島根県雲南市。
雲南市では「元気になるおせっかい」を広げたいとの思いから、既にコミュニティナース的存在として活動しているまちの人を巻き込み、一緒に成果を出していきましょうとチームで動き出しています。医療職にこだわらず、お互いの強みを出し合いながら全力で議論する「地域おせっかい会議」から生まれるアクションとまちの人とのストーリーを「思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー」として連載を始めます。

「買い物とスナックを続けたい」はるみさんのお話

はじめに
雲南市にお住まいの高橋はるみさんは、2年前に進行性の難病と診断されました。
歩くことも少しずつできなくなる病気ですが、はるみさんには自分で買い物行くことと、経営するスナックに立ち続けたいという強い思いがありました。
その思いを叶えるべく、地域おせっかい会議をきっかけに、業種を越えて連携した3人にお話をお聞きしました。

・加藤三紗子(かとう・みさこ)
訪問看護ステーション コミケア 看護師(コミュニティナースプロジェクト9期修了生)
・杉村卓哉(すぎむら・たくや)
光プロジェクト株式会社・ショッピングリハビリカンパニー株式会社 代表取締役
・柿木守(かきのき・まもる)
雲南市立病院 訪問看護ステーションうんなん 看護師 ※エピソード当時は雲南市役所 健康福祉総務課 第一層生活支援コーディネーター

−−加藤さんがはるみさんの強いニーズを知るきっかけはなんだったのでしょう。

加藤:コミケア(株式会社 Community Care)は、はるみさんが退院して在宅ケアに切り替わる2019年5月から、訪問看護の医療保険サービスを利用して、ご自宅に訪問させてもらっています。はるみさんの印象は、とにかくアクティブでお話好きな方。訪問看護はその人の「やりたい」 を大事にして、生活の目標を立てます。はるみさんに目標を伺うと、一番は「2年後に スナックの20周年記念イベントを開催したい」とおっしゃっていました。その他にもいろんなお話をしてくださる中で、買い物での袋詰めや車へ運び入れることなどへのお困りを口にされていました。

※加藤さん(コミュニティナースプロジェクト9期修了生)

−−杉村さんも買い物のご不便な様子を目にされていたのですね。

杉村:私は主に療法士としての観点から気がつきました。
私がショッピングセンターで開設しているひかりサロンという事業があるのですが、 はるみさんはそのフィットネス教室に参加されていました。その頃から体が動かしづらい様子で…そのため個別クラスを提案して、2018年11月ごろから利用いただいていました。ただ寒くなると「だんだん行きづらくなりました」と、個別クラスも辞めてしまわれました。
気にかけながら約半年が経ったある日、偶然買い物に来ていたはるみさんを見かけたんです。歩行車を使いながらも動作緩慢で、明らかに機能が落ちていてびっくりしました。
声をかけると向こうも僕のことを覚えていてくれ、話をする中で病気のことや買い物の不便さも初めて知ったのです。

−−そこからの杉村さんのアプローチを教えてください。

杉村:歩行車で歩く姿を見て、僕の医療人としての勘が働きました。これは自社のカートを使えば楽になるはずと。そして本業であるショッピングリハ(光プロジェクト株式会社)の説明をし、利用できるか介護保険の確認をするとなんと要介護認定。要介護ではショッピングリハのサービスは受けられないんです。そこでうちみたいな通所型は無理でも、訪問リハなら受けられるよと話すと、すでにコミケアさんを利用されていることが分かりました。コミケアのスタッフさんなら知り合いなので、すぐに楽々カートで歩行されている様子を動画に撮り、コミケアの担当スタッフさんに連絡しました。制度では無理だけど、なんとかしようや、と。

ちょうどその頃、地域おせっかい会議(運営 Community Nurse Company 株式会社)も始まっていたので、議題にあげて具体的なサポートの検討に入りました。楽々カートを入り口付近に準備できればかなり楽になりそうです。このサポートは今後スーパーにとっても、地域ニーズに対応して利益につながるだろうと思い、ショッピングセンターの幹部の方へも協力を要請しました。すると店舗側の方も快く理解を示してくださり、はるみさんへの買い物サポート体制が構築されました。

そうして店舗に入った後の調整はうまく出来そうでしたが、実はその頃はるみさんの病状は進み、自力で店舗に来ることが難しくなっていました。

※ショッピングリハビリの様子(イメージ)

−−次に店舗に来るサポートが必要になったのですね。

柿木:杉村さんが2月のおせっかい会議でその報告をしてくださり、すぐに知り合いの 「福祉タクシー」事業の紹介を思いつきました。通常のタクシーでは難しい、医療器具の取り扱いや店舗までの介助など、まさにはるみさんが求めているサポートが得られるのではと思ったからです。そこで早速「福祉タクシーかごや」の若槻さん(看護師)も交えて、はるみさんの家で会議をしました。嬉しかったのは、そこではるみさんがかごやのサービスを使いたいと言ってくれたのと、スナックの常連ボランティアチームの存在に気づけたことです。

実は、はるみさんのスナックの常連さんには、営業が終わった深夜にはるみさんを自宅まで送ってくださる方が何名かおられたのです。会議の日にはそのお一人が、庭先に車が停められるように手入れをされていました。そこですでにある皆さんの「役に立ちたい」という思いも大事にして、はるみさんの移動はかごやさんと常連ボランティアさんをうまく組み合わせることでサポートしていこうという話になりました。

僕から見ても、はるみさんはめちゃくちゃ喜んでました。それは自分のためにみんなが動いてくれている、という実感からだったと思います。実ははるみさん、以前タクシーの運転手さんと少し口論になったことがあって、その後すごく落ち込んでおられたんです。そこには「頼る気持ちを分かってほしい」と「申し訳ないことをした」という葛藤があったみたいで。
なので今回のように、事業者同士がうまく連携すると、みんな気持ちよくはるみさんと仕事できるのが嬉しいですね。

※右:柿木さん(看護師)

−−訪問に行かれて、はるみさん最近のご様子はどうですか?

加藤:4月に入り、福祉タクシーも2,3回利用され、「めっちゃ助かってる」と言われていました。常連ボランティアさんとの組み合わせもうまくいっているようです。 病状は進行していますが、でも諦めずに買い物や生き甲斐であるスナックを続けられているのは、地域おせっかい会議があったからだろうなって思っています。
また周囲の変化もありました。お店では、はるみさんがトイレに行くのにお客さんが付き添ったり解散時間を早めたりと、フォロー体制が自然とできています。はるみさんの人柄もありますが、私たちがプライベートでもスナックの飲み会などに顔を出すことで、伝えようとした訳じゃないけど、はるみさんの病気についての理解が深まったんじゃないかと思います。

−−柿木さんは、今回のケースは今後どんな意味を持つと思われますか?

柿木:移動支援の、特に病気の方へのサービス提供として、介護保険だけでは対応しきれない部分を民間サービスが担うという形は先行事例になると思います。また印象的だったのは、地域おせっかい会議に参加した保健所の保健師さんがこの事例を知り、市内の他の難病の方へのサポート体制をつくるのにも重要だと話してくれたことです。地域の他の方へも有効なおせっかいの可能性があると思っています。

−−杉村さんが今回改めて感じた、地域おせっかい会議の強みを教えてください。

杉村:地域の多様なつながりを持つ人が会議の場に集まっていることで、課題を解決するときに自分以外のリソースを活用できることです。今回のように、おせっかいしたい人に既存の制度が使えない時などは、多業種のつながりは特に重要です。
また、会議のメンバーの中にはソーシャルビジネスを経営している方も多いので、うまく連携できれば事業としてサービスを提供し、持続可能なモデルを作ることも可能です。
たとえば私が会議のメンバーになっているのは、「おせっかいがしたい」こともあるし、それが自分たちの事業にも結果として必ず返ってくることが分かるからです。 多様な事業者や実践者が集まることで、「みんなで解決する」この会議の価値を今後も高めていきたいです。

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多様な強みを持つ人が地域おせっかい会議に集まることで実現した、おせっかいのバトンリレー。そこで生まれたおせっかいは、一方的な「してあげる/してもらう」 という関係性にとどまらず、関わった人それぞれに役割と価値をもたらしました。

はるみさんも最近さらりと、良いおせっかいを焼く側に回ったとのこと。知り合いの女の子が雲南の歴史に興味があると聞いて、自分が以前勉強していたガイドブックを すべてあげたのだそうです。 「知らないことを知るのって好きなのよ。面白いから、彼女にもぜひ知ってもらいたいなあと思って」 そう話してくれたはるみさんは、今度は自分もおせっかいが焼ける楽しさに溢れているようでした。

ライター 平井ゆか

まちの中で、心と身体の健康を願って活動している人を私たちは「コミュニティナース」と呼んでいます。
誰かを喜ばせたい、元気にしたいと願うあなたの思いと行動の第一歩として、全国のコミュニティナースが集うオンラインコミュニティ「コミュニティナース研究所」へご参加ください。
https://cn-laboratory.com/join

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