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「人と人がつながるクラフトかご」|思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー

Community Nurse Company 株式会社の本社・拠点がある島根県雲南市。
雲南市では「元気になるおせっかい」を広げたいとの思いから、既にコミュニティナース的存在として活動しているまちの人を巻き込み、一緒に成果を出していきましょうとチームで動き出しています。医療職にこだわらず、お互いの強みを出し合いながら全力で議論する「地域おせっかい会議」から生まれるアクションとまちの人とのストーリーを「思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー」として連載を始めます。

口に出せない寂しさを「つながり」に変えた、
飛び出すおせっかい会議

はじめに
 島根県雲南市には、住民自らが地域に必要な取り組みを考え、実行していくための「地域自主組織」という仕組みがあります。今回お話を聞く「三新塔あきば協議会」さんも行政と連携しながら「地域でできることは地域で」と主体的に取り組みをされてきました。その中で、身体は元気でも住民同士のつながりが不足しがちな方が、この地域にもおられることが分かってきました。
 また、同じく雲南市で活動している地域おせっかい会議は、まちの中で「元気になるおせっかい」が広がり、誰もが誰かの心と体の元気を応援できる地域になることを目指しています。それは毎月1回集まっておせっかいを考える場だけではなく、日常的にぐんぐん広がっていくおせっかいの輪そのものだそう。
 今回は、生きがいや人との繋がりといった「社会的な健康づくり」に取り組んだ、地域自主組織の塔間さんとコミュニティナースの宮本さんにお話をお聞きしました。

・塔間絹子(とうま・きぬこ)/雲南市 三新塔あきば協議会 福祉推進員
・宮本裕司(みやもと・ひろし)/株式会社Community Nurse Company コミュニティナース
※エピソード当時は、雲南市役所 健康福祉総務課 第一層生活支援コーディネーター

−−塔間さんが三新塔あきば協議会(以降、あきば協議会)で働く中で、気になっていたことを教えてください。

塔間:あきば協議会では地域福祉の事業として、毎月3回、3のつく日に「茶のん場ゑびす」という福祉サロン(※2020年5月現在休止中)を開催しているほか、70歳以上の単身世帯と80歳以上の夫婦世帯などを対象に、自治会の福祉委員さんに年6回訪問してもらう取り組みなどを行っています。
けどそれだけでは、サロンにも顔を出せない人の情報はどうしても把握しづらかったんです。
そこで年6回の個別訪問とは別に、引きこもりがちな人の外に出にくい理由を把握し、その解決策を検討することを目的に、お宅を訪ねていく計画を立てました。民生委員さんたちとも「あの人最近見かけないね」「最近退院されたみたいだよ」などと相談して、まず2019年9月に訪問する22世帯を決めました。
そこに宮本さん(当時雲南市役所の生活支援コーディネーター)も同行してくれていたんです。

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写真左:宮本さん  /  写真右:塔間さん

−−2019年9月当時、宮本さんと一緒に訪問したことで、どんなことが分かったのでしょう。

塔間:実際にお宅に伺ってお話を聞くと、単に足腰が悪くて外出できないというだけでなく、毎日痛み止めを飲んで生活しているという方もいて。という方もいて。またお一人暮らしでも、近くにお住いの子どもさんや親戚の方が日常生活をサポートしてくれているということなど、様々なことが分かりました。
このように細やかに情報が得られたのも、事前にあきば協議会の福祉部会などで、宮本さんから訪問時に確認するポイントを教えてもらっていたことが影響しています。

−−地域の方が「看護の視点」を得られたのですね。

宮本:僕がお伝えしたのは、例えば「誰とどのくらいの頻度で会っているか」「生活に困らない程度の動作ができているか」「好きなこと得意なことは何か」などの看護やコミュニティナースの視点です。単に病気があるかないかではなく、日常でのお困りや何がその人の健康につながるかを把握するためのポイントです。
そういう視点を持ってご自宅に伺うと、本当にたくさんの情報が得られます。また、塔間さん、宮本といったように二人で訪問すると、訪問したお宅の匂いで感じた違和感をもとに、戻ってから2人で共有し合うことで、住民さんの認知機能の低下に気づけたこともあります。
そうすることで、専門資格を持っていない方でも生活状況をちゃんと見れていたんだなという自信の後押しにも繋がるんです。
自主組織の皆さんも、地域を一緒に回れる医療職は現在いないので、看護の視点を持って訪問できるのは心強いと言ってくれていました。

−−そんな中で、地域おせっかい会議でおせっかいしてあげたい方がいらっしゃったんですね?

塔間:はい、年齢は80歳くらいになられるけど、すごく元気に農作業もされているOさんです。
けれど家が山のてっぺんみたいな場所にあって、家までの坂道がすごいんです。いくらお元気でも、とても普段1人で外出するのは難しそう。
そのお宅に宮本さんと9月に訪問した時、ふと部屋の隅に目がいったんです。そこにあったのはたくさんの手作りかご。思わず「すごいですね〜!」と言ったら、奥からさらにたくさん持ってきて見せてくださいました。
聞けば3〜4年前に子どもさんが持ってきてくれたのを見て、独学で作り始めたそうです。その後は本を見ながら作っていると言われたのですが、鶴の作り方を独自にアレンジしてコウノトリを作るなど、とにかくその創作意欲に驚きました。
ご本人は、「もともと外に出れない冬場は手先を動かすことをしてたんだ」とおっしゃいますが、そもそも年配の人が本を見ながら何かを始めるってすごいな!と感動したんです。

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−−宮本さんはその方を見てどう感じられましたか?

宮本:僕も心の中で「すごい!!!しかも百均の材料で?」と叫ぶくらい興奮しました。
しかし、一方でOさんは、地域で充分に出番と役割が発揮されてないのではと感じました。
なぜなら子どもや孫が来るという話はすごく生き生きと楽しそうに話してくれたのですが、彼らが帰るとまた1人。得意技があるのに活かせてないことが、孤独や退屈を感じてしまうのではないかと思ったんです。

−−Oさんはそのことを気にされていましたか?

宮本:いえ、ご本人はその時そこまで困っていなかったかもしれません。しかしその人の得意なことを活かしたり、新しいことにちょっと背中を押すことで、もっと元気になったり今後も病気を予防することができると思うんです。
実際に声をかけたりするのは看護師でなくてもできるけど、看護師はその人の現状を分析して将来の予測を立てます。さらにコミュニティナースはその能力を活かして、ポジティブな日常への後押しをするんです。

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病棟などでは、病気の治療が目的なので「なぜこの病気になっているのか」を考え、対応していきます。
一方コミュニティナースは、「どうすればこの人がもっと元気になるか」という考え方で関わっていきます。その時に大切なのは、その人の生きがいです。
「これをしたらもっと元気になるよね」という生きがいにつながるポイントを見つけ、後押ししていく。この関わりは地域の方にも病気への対応と違って理解を得やすく、一緒にやるとより効果的に進めていけると感じています。

−−お二人が感動したかご作りの強みは、Oさんと地域のつながりづくりに実際どのように生かされたのでしょう。

塔間:昨年9月に伺った際、年明けにある地域の作品展へ出展のお誘いをしました。けれどすごく奥ゆかしい方なので「そんな私なんか」と恐縮なさってましたが、是非にとお願いして、最終的に出展していただけました。するとやはり買いたい、作りたいなどの反響があったんです。
それからちょうど新年度の事業計画を立てる時期に、高齢世帯の見守りとして誕生日プレゼントをあげている地域があるという話題になったんです。それならあきば協議会も年6回の個別訪問のうち一回は、誕生日プレゼントをあげてはどうかと、会長さんが提案してくださったんです。私もすごくいい話だわと思い、あげるなら手作りのものがいいと考えるうちに、作品展で反響のあった手づくりかごを思い出したんです。

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2020年度にお渡しするかごの予定は32個もあったので、この機会に教えてもらうことも思いつきました。あきば協議会の女性ボランティアグループの中でも、Oさんと近い自治会に住んでいる4人で習いに行き、卓上で使えるくらいの大きさのかごを教えていただきました。そこで作ったかごはあきば協議会が250円で買い取り、早速2020年4月から、誕生日の方にお渡ししてもらいました。受け取られた方も喜んでおられたそうです。あきば協議会の会報にも載せていたから、Oさんにも伝わってるんじゃないかな。
その後も新しいかごを取りに行ったりするうちに、私との関係もだいぶ心安くなったみたいです。この前はかごの代金をお渡しに行ったら筍の煮しめを出してくださったのをいただきました。
けれどいつか伺った時に、「今まで隣近所も遠くてずっとひとりだったのに、いろいろ交流させていただいて…」と言って、少し涙ぐまれたことがあったんです。息子さん娘さんもすごく優しい方々で、週末には帰ってこられてるみたいだけど、やっぱり山の上で寂しいんだな…と感じました。
新型コロナ対応の影響で少し間が空いたけど、忘れる前にまた習いに行かなくちゃ、と思っています。

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−−今回の手づくりかごをきっかけにした地域のつながりづくりの中で、宮本さんが担われたのはどんな役割だったのでしょう。

宮本:僕がOさんとお会いしたのは昨年9月の一回だけでした。僕はその後塔間さんと訪問を振り返り、気になったことの共有やサポートのアイデア交換を行っただけで、いつの間にか塔間さん自ら連絡をとって、誕生日プレゼントの準備を進めておられたんです。
専門家の知識を持たない住民さんでも、コミュニティナースの視点を借りれば自分たちで情報を集め分析していける。そして生まれた健康づくりのアイデアに、前向きなリアクションという後押しが得られれば、僕の知らないところでもどんどん取り組みが進んでいくんだと実感しました。
今回で言えば僕は見守りポイントを伝えた時点からアドバイザーで、塔間さんや福祉委員さんは実践者という立場だったとも言えるかもしれません。しかしその役割分担があったからこそお互いを刺激し合えたとも言えます。
僕は第一層生活支援コーディネーターという行政の立場で地域に入ると、当初は必要以上に依存されてしまうのではという心配を持っていました。しかし塔間さんをはじめとして関わった地域の皆さんは、僕の話を聞いたうえで「こういう動き方もできるね」と自分で考えて、すぐに独自に動いていくのが本当柔らかくてすごいなと。
やはり地域の専門家はそこに暮らす住民さんだなと思いました。

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−−まさか一人暮らしを心配されていた方が、他の一人暮らしの方の地域とのつながりづくりに一役買うなんて。

宮本:そうなんです。おそらく会報などでもらった人の喜ぶ顔も見て、やりがいを感じておられると思います。得意を生かして、Oさんもおせっかいを焼ける存在になったんです。

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当初は見守りをしてもらう側だったOさん。しかしその手づくりかごは他の高齢一人暮らしの方が地域の一員であることを感じるプレゼントとして活躍し、Oさんは図らずも地域福祉の担い手のひとりとなりました。

自分では当たり前に出来て大したことないと思っていることでも、他者から見れば実は特技だということは誰にでもあるのではないでしょうか。
今回その特技に気づき、地域の中に出番をつくる力は、まさしく暮らしと医療のそれぞれの専門家の連携が生んだ相乗効果と言えますし、暮らしの専門家とはそこに暮らすすべての人であると思うのです。

ライター  平井ゆか

まちの中で、心と身体の健康を願って活動している人を私たちは「コミュニティナース」と呼んでいます。
誰かを喜ばせたい、元気にしたいと願うあなたの思いと行動の第一歩として、全国のコミュニティナースが集うオンラインコミュニティ「コミュニティナース研究所」へご参加ください。
https://cn-laboratory.com/join



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