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仕事帰りに奈良を歩く~宵の奈良公園~

奈良の人とツクるTV

昨年(2020年)10月16日の事だ。
「奈良の人とツクるTV」(NHK奈良放送局制作)というドキュメンタリー番組を視聴した。
15人の奈良県在住の視聴者が、奈良の人が本当に見たい番組作りに挑戦するという内容だ。
彼らが作り上げた作品が実に興味深かった。
昼間の観光名所でナラモエスイッチなる道具を使うと、別の時間に瞬間移動してその場の様子の変化を知る事ができるのだ。
残念ながらナラモエスイッチは空想の道具だが、奈良在住であるならば比較的気軽に様々な時間の奈良を訪れる事が可能だ。当たり前の存在のように感じていた近所の観光名所から新たな発見を得られるかもしれない。
いつかやってみようと考えつつも、重い腰がなかなか上がらず年を越えてしまった。

2021年2月22日

この日は季節外れの陽気だった。月末も近づき仕事は忙しくなってきたのだが、この日は順調に予定の作業が完了し、早く退社する事ができた。
帰宅途中の電車に揺られながら、ふと思い立った。

今夜やってみよう。

そして、同日19時30分ー

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県庁から奈良公園方面に向かう市内循環バスにはそれなりに乗客がいたが、彼らは観光客ではなく、その先の住宅街へ帰路につく人達だろう。
東大寺大仏殿・春日大社前バス停に降りたのも私一人であった。

東大寺を歩く

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大仏殿前交差点。休日の昼間は人と鹿で賑わっているが、この時間は誰も見当たらない。

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東大寺南大門に向かう。一つ一つはそれほど明るくはないが、十分な数の外灯が道を照らし、暗さで困ることはなかった。道が隅々まで掃き清められていて驚いた。

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地元サッカーチームで現在4部相当のJFLに所属する奈良クラブ吉田直矢選手が働く森奈良漬店を過ぎれば、南大門はすぐそこだ。

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暗がりの中でほのかに浮かび上がる東大寺南大門
奈良の観光案内では鹿の背景として写真によく使われている。
ここにある金剛力士像を拝観するのが目的だったのだが、残念ながら照明は消えており像は暗闇の中。
今宵は眠いので勘弁してもらえまいかと像がつぶやいているようにも思えたので諦めることにした。

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南大門の先、大仏殿に向かって淡い光が連なっていた。
私は誘われるように大仏殿まで足を延ばすことにした。

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ここまでくると自動車の音も全く聞こえない。
静かだ。
しかし、怖さは全く感じない。
むしろ暖かい優しさを感じるのは気候のせいだけだろうか?

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大仏殿中門にたどり着いた。南大門よりはっきりその姿を見ることができた。当然ながら門は既に閉まっており、大仏殿を見ることはできなかった。
しかし、どこまでも優しい雰囲気の境内だ。
陽のある時にまたいらっしゃい。
廬舎那仏がそのように語っているようにも思えた。

奈良公園を歩く

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道を引き返し、再び大仏殿前交差点まで戻ってきた。
駅に向かいながら奈良公園内を散策することにする。

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国立博物館の、なら仏像館から道路より奥に向かってみよう。

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公園内も淡い光に満たされていて、散策には全く困らない。
この光量の設定は秀逸だ。宵の奈良公園も東大寺と同様、優しい静けさで満ちていた。

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鹿だ。
いつもなら公園内ですぐに会える鹿にようやく会うことができた。夜のひとときを邪魔しないよう写真には撮っていないが、この辺りの道では何頭かの鹿とすれ違った。
こんな夜に人間がどうした?
少し怪訝そうな表情を浮かべているようだった。

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興福寺近くまでやってきた。この辺りまで来ると、夜の散策を楽しむ人を何人か見かけた。この夜、奇跡的な気候の下で散策できた人は、良い思い出になっただろう。

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闇夜に浮かぶ興福寺五重塔
今夜はこれも見たかった。
写真で見ると怖さも感じていたが、実際に訪れてみると、威圧することも脅かすことも決してなかった。
ただ、そびえ立っていた。
周囲も、ただ暗く、ただ静かであった。
奈良クラブの前監督林舞輝氏はよく夜の興福寺に訪れていたがその気持ちがわかるような気がする。
夜の興福寺は、気持ちを落ち着かせ、思考するには最適な空間だ。

地方都市奈良を歩く

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大通りに戻ってみると目の前に奈良県庁が見えた。20時を過ぎたがまだほとんどの窓から明かりが漏れている。年度末が近づき、県庁職員にとっては最も忙しい時期なのだろう。

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隣にあるバスターミナルものぞいてみた。行きのバスではスターバックスがまだ開いていたようだが、着いた時には閉店していた。

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坂を下ると駅は目の前だ。ここから見ると、当たり前ではあるが、奈良は観光地だけでなく、一地方都市の側面もあると感じさせる。

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近鉄奈良駅に到着した。
待ち合わせ場所として有名な行基像に別れを告げて今夜の散策を終わりにしよう。

おわりに

駅に到着したのが20時30分。ちょうど1時間の夜の散策だった。
これを仕事帰りの寄り道にできてしまう。
奈良に住む事で得られる特権を行使できたような気分だった。
夜の東大寺や奈良公園はもっと近寄りがたい畏怖の念を抱くような想像をしていたが、今回歩いてみると、個人的には昼よりも居心地がよい落ち着いた贅沢な空間を体験できた。
もちろん、気候も大きく作用したと思う。暖かさや涼しさを感じる夜に散策するのがベストだろう。

さて、次はどの奈良を歩こうか?

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