ボーイング767の機長と、まるで長いフライトをともにした副機長の気分だった話。
JALが好きだ。海外も国内も、時間さえ合えばもれなくJALを利用している。機内食は工夫を凝らしているし、機内サービスにも抜かりがない。シートも清掃が行き届いており気持ちがいい。ロゴのデザインも洗練されている。ピンバッジを持っている。空港で旅客機が飛び交う様子をビールを、飲みながらただ眺めるのも好きだ。まだ大手を振って遊びに行けるタイミングではないけど、旅行のシーズンが開幕したらまた利用したい。旅客機周りの航空工学も、開発者としてはネタの宝庫だ。1994年に初飛行を遂げたボーイング777は、世界で初めて機体の全設計を3次元機械系CADで行なった。CADという技術は、いわば画面だけのシミュレーションを厳密な寸法とマテリアル設定によって現実に出力しようとするテクノロジーでもある。拡張現実的に無視できない。
京谷機長と出会ったのは、J-WAVEから頼まれた特別番組企画の収録場所だった。スポンサーはApple。Claris FileMakerという、ローコードによるデータベース開発が容易に構築できるアプリケーション。Macユーザーにも長年にわたって愛されてきたアプリだが、最近はとくに法人ユーザーを伸ばしているらしい。事例は多岐にわたるがそれを紹介するメディアがまだ少ないということで、オリジナル番組化することになった。開発を本領としながら、J-WAVEで番組を続けて8年。こういうオファーが名指しで届くようになっているのは、素直にうれしい。クライアントであるAppleからはClaris FileMaker法人担当の代表者さん、JALからは機長の他にも広報さんも同席してくれるとのこと。他にも番組スタッフやマイクやミキサーを整える技術さん、NEWS記者やカメラマンなど、同席する関係者が多い。局内のスタジオではなく六本木ヒルズアカデミーにある大きな部屋に機材を持ち込んで収録することになった。ここは49階、高さ地上200メートル。まるで空にいるみたい。気分よく収録に臨んだ。
機長の京谷さんは人当たりがよく、難しくなりがちな専門的な業務を丁寧に話してくれた。ラジオ番組を作っている立場からすると本当にありがたい。たとえばディスパッチ・ブリーフィングという用語があって、それは事前のフライト準備を表す言葉だった。空港の離陸スペースの混み具合、気象や燃料価格。最近では激しくなる一途の国際情勢など。フライトにあたって考慮しなくてはならないことが山ほどある。準備が大切だし、準備した通りにいかなくても柔軟に対応できるメンタルも重要だと教えてくれた。
収録が半分くらい終わったところで、ナビゲーターであるところの僕がスポンサーのAppleさんとJALの広報さんを気遣って「ここまで何か気になるところありますか?」「放送内容はJ-WAVE NEWSの記事にもなるので、ここで直してしまった方がいいですよ」と声を掛けた。これが、準備万端だった収録という名のフライトに大きな影響を及ぼした。
口火を切ったのはJALの広報さんだった。「私が開発したアプリケーションを子会社さんが使ってくれて嬉しかった」という言い方が、広報的におかしい。子会社は言わば系列会社なのだから、敬称は不要のはずとの指摘。確かにその通りだ。京谷機長は快く録り直しに応じた。すると、今度はクライアントのAppleさんから「もうちょっと、Claris FileMakerを使って具体的にどんな開発をしたのか、加えて欲しい」と要望が出た。確かに、一社提供の番組であるにもかかわらず、具体名を出していない。ここはナビゲーターである僕がフォローして録り直した。するとまたJALの広報さんが「JALという名前も出して欲しい」と言い始めた。おやおや雲行きが怪しくなってきた。機長も僕も、ディスパッチ・ブリーフィングという名の収録準備をしてきたつもりだったが、予定通り進まない。クライアントという名の外圧、そして広報という名の内圧が機材という名の機体にプレッシャーを与える。局員とスタッフも、若干ピリピリする。しかし、収録もフライトも動揺してはいけない。リスナーという名のお客様に負担をかけるわけにはいかない。僕は機長を支えるべく、カフを副機長のように強く握ってサポートした。そのあと幾重にも届いた要望に全て応えて、無事に収録を終えた。
冒頭の写真、晴れやかな二人の表情をご覧いただきたい。難しいフライトを終えた機長と副機長の顔をしている。収録後もあの日のフライトの絆は消えず、メールのやりとりが続いている。この記事のことも、誰にも怒られなければいつか共有したい。以下のリンク先がその表向きの記録。内圧と外圧に反応しながらのフライト、いわば拡張現実的な副機長の職業体験になっており、番組としても良いものになっている。ぜひご一聴、ご一読のほど。ご案内は副機長の川田十夢でした。
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