未練を胸に、何度でも。
ヴァーチャルドリカムの拡張をイノフェス2022の舞台で果たした。セガを代表するゲームのキャラクターであるソニック、サンライズ(バンダイナムコ)を代表するモビルスーツのガンダム(G-セルフ)、そして日本の音楽の金字塔を建ててきたDREAMS COME TRUEの中村正人さんご本人が六本木ヒルズの特設アリーナに登場。豪華な演出が続いた。ドリカム楽曲のクオリティの高さに改めて驚いたし、普段隣り合うことがない次元を融合できてひと安心。多くの観客、そして配信視聴者にとってはどうだっただろう。本来アーティストが立つべきステージに、白衣を来たおじさんがふたり。さらに『何度でも』という楽曲の演出では、ピクトグラムを登場させた。AR三兄弟のことを知らない観客にとっては、謎が多い場面だっただろう。実は思うところあっての演出だった。
2013年12月、2020年に開幕を控えた東京オリンピックで「2020年東京オリピックをもっと面白くするには?」をお題にしたプレゼン対決を、チームラボ猪子さんとした。猪子さんはチームラボ代表らしく、観客に渡すペンライトのひとつひとつが映像を象る点群となり、大きなビジョンとなり、イメージを照射するというダイナミックなアイデアだった。僕が提案したのは、1964年の東京オリンピックで顕在化したピクトグラムを拡張するというものだった。非常口の中のピクトグラムが飛び出してくる。飛び出した勢いで地面に落ちたピクトグラムは、棒高跳びをして元に戻る。この要領で、それぞれの競技を模した看板のなかからピクトグラムが飛び出してくて、競技会場までARで案内してくれる。開会式も、ピクトグラムをはじめとした日本を代表するカルチャー総動員で挑む。現実的には難しくても、拡張現実的には可能になる。そう力説した。
2021年に開催された東京オリンピックがどうなったのか。開会式は盛り上がったのか。日本のポップカルチャーに含まれる音楽、アニメ、ゲーム。全てが融合する形で開幕できたのか。周知の通りである。日本を代表するアーティストたちは無視され、準備していたクリエイターたちも色んな理由からキャンセル。チームラボも、ライゾマも、AR三兄弟も、結果的に演出に関わることはなかった。誰かがアイデアを真似したのか、偶然の一致だったのか。ピクトグラムをつかったネタは断片的に登場した。でも、あれは僕の構想したアイデアの一部に過ぎず、日本のカルチャーを総動員させる形ではなかった。もちろんあの開会式に関わった人たちは、あの破滅的な状況のなかよくやったと思う。しかし、全日本のカルチャーを全世界へアッピールする絶好の機会を100%生かせたとは言えない。後味の悪い未練が残った。
大きな会場を演出するには、大きな会場を観客で埋め尽くしてきたレジェンドたちの知恵を借りるべきだった。時間を忘れてその世界に没入させる力を持つものたちが、日本には確かに存在する。ドリカムだってその代表選手だ。ロンドンオリンピックでは、ポールマッカートニーや007そしてエリザベス女王までフル動員だった。なぜ日本でそれができなかったのか。悔しい思いがずっとあった。こういう拡張現実的なやり方をすれば、出来たかもしれない。イノフェスではそんな積年の思いを込めたのだった。
ヴァーチャルドリカムのステージの最後、吉田美和さんの分身であるところのMIWASCOが六本木ヒルズの空を飛び回った。そこに何もないはずの中空を、多くの観客が見上げた。10000回だめで、へとへとになっても。10001回目は、何か変わるかもしれない。この曲は、大切なアンセムとなった。大きな壁にぶち当たるたびに、繰り返し聴くことになるだろう。心の中で何度でも歌うことになるだろう。
なお、イノフェスのアーカイブが観られるのは10月30日今夜23時59分まで。短い期間ではありますが、何度でもご覧ください。生のバンドを率いた生のyamaをこのタイミングで拡張できてよかった。Aile The Shotaくんを中村正人さんに紹介できて本当によかった。小室哲哉さんのステージに飛び入りしたSKY-HIは、何か大きなバトンを受け取ったように見えた。一緒に総合司会をつとめた早川聖来さん完走できて本当によかった。次の世代に、僕らが感じてきた未練はもう残したくない。余白だけを残してゆきたい。
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