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2023年行橋~別府100キロウォークに必要な水分補給量は?

 これを書いている時点であと数日後、10月7日(土)~10月8日(日)にかけて、2023年の「行橋~別府100キロウォーク」が開催される。この「行橋~別府100キロウォーク」は、1999年に始まった約1日かけて約100㎞の完歩を目指すウォーキングイベントで、その後全国に類似のイベントが広がる契機となった。2000年に実は私も参加していた。このイベントが始まったばかりの頃の経緯を私はちょっと知っているが、確かウォーキングが好きなロータリークラブの先生の何人かが発起人だったはずだ。

 さて、この100キロウォークでは、参加者は歩行中にどのくらい脱水し、水分補給が必要となるのだろうか?

100キロウォークのコース概要


 現在は、以下の合計100.9㎞のコースになっている。行橋市(今川河川敷)を1日目(今年は10月7日)の正午にスタート、別府市(的が浜公園)がゴールになっている。中間には、中津市(中津中央公園)、宇佐市(郷の駅宇佐)、日出町(保健福祉センター)に計3つのチェックポイントがある。高低差を含めた詳細は以下の通り。なお、高低差は、公式HP上からアクセスできる「Ride with GPS」サイトのリンクから概算したものである。HPには具体的数字は書かれていない。
 第1区:行橋市→中津市間36.0㎞、登り171m、下り166m
 第2区:中津市→宇佐市間25.6㎞、登り134m、下り129m
 第3区:宇佐市→日出町間25.9㎞、登り377m、下り352m
 第4区:日出町→別府市間13.4㎞、登り152m、下り186m
(登り:登り獲得標高 下り:下降標高)

▲コースの概要(資料:公式HP)

推定の流れ

 以下の流れで行う。

(1)ペルソナの設定(体重、荷物の重さ、区間別の歩行速度)
(2)歩行時間に相当するWBGTの推定(各区間、チェックポイント)
(3)上記からの脱水量の推定

 なお、脱水量の推定は、私が試作した以下のアプリのWEB版によった。私自身の2022年の走行と脱水、気象条件の関係から推定した式に基づいて計算している。

https://sportdgstaka.world/100kwalkdehydsim.php

ペルソナの設定

 本件に合わせて言い換えると、「どのような条件の人が、どのようなペースで歩行するか」を設定する。設定内容は以下のとおり。
 体重:71㎏ 荷物:1㎏
 歩行ペース
   第1区:時速5.5 km 第2区:時速6.0 km
   第3区:時速5.0 km 第4区:時速6.0 km
 第1~第3チェックポイントの休憩時間:各10分

 体重は私の実際に知る100キロウォークのリピーターのSNS上の体型をもとに推定した。荷物の重さは過去の大会の動画から、荷物が大きめのリュックサックを背負った人を想定のうえ推定した。歩行ペースは、公式HPからダウンロード可能なエクセルファイル「歩行計画表」にあらかじめ記載されている見本の数字によった。この見本の数字では、ゴールの別府には18時間45分かけて到達することとなる。

天候(WBGT)の予測

 脱水量に関連が高い気象指標はWBGT(暑さ指数)である。WBGTは、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい以下の3つを取り入れたものである。
 湿度  日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境  気温

 元来は黒球温度、湿球温度、気温から計算するが、以下の近似式(※1)でも推定することが可能である。

0.735×Ta+0.0374×RH+0.00292×Ta×RH+7.619×SR-4.557×SR^2-0.00572×WS-4.064

Ta:気温(℃)、RH:相対湿度(%)、SR:全天日射量(kW/m2)、WS:平均風速(m/s)

※1:式の出所は以下の通り。なお、この式は、環境省「熱中症予防情報サイト」上でのWBGT予測にも用いられている。
小野雅司ら(2014):通常観測気象要素を用いたWBGTの推定.日生気誌,50(4),147-157. doi:10.11227/seikisho.50.147

 本件では、以下の流れで推定した。

・スタート、ゴール、第1~第3チェックポイント、各区間の中間地点の緯度経度を入手(なお、区間の短い第4区の中間データの取得は省略した)
・気象データのオープンソース「OPEN-METEO」サイトから、上記各地点における到達時刻に近い気象データの予測値を取得。なお、同サイトでは、緯度・経度を入力すれば、当該地点の気象データの予測値(最大16日先まで)を1時間刻みで入手することが可能。
・各チェックポイントの値は、チェックポイント自体の緯度・経度、到達/出発時刻に近い「●時00分」の値を取得のうえ計算したデータによる。中間地点の値は、距離がちょうど半分の地点に位置的に最も近接し、かつちょうど「●時00分」に到達するとみられる地点の緯度・経度を取得のうえ計算したデータによる。
・以上から、歩行時刻に相当する各区間の平均WBGT、休憩時間のWBGTを推定する。なお、休憩時間中に「●時30分」が経過する場合は、これを挟む「●時00分」2時点のWBGTの平均値を休憩時間のWBGTとした。

 文章で書いてもわかりにくいので、行程やペルソナの速度を含めて表示すると以下のようになる。

▲WBGT推定の流れ

 ここから推定したWBGTは、以下のようになった。なお、日本時間10月4日朝の時点の予測値なので、開催までに今後数値は若干の変化がある。
 第1区平均:18.3℃ 第2区平均:16.4℃
 第3区平均:15.9℃ 第4区平均:16.9℃
 第1チェックポイント(休憩時):16.4℃
 第2チェックポイント(休憩時):16.1℃
 第3チェックポイント(休憩時):16.9℃

脱水量の予測

 最初に設定したペルソナ、歩行/休憩時刻に応じた各区間/チェックポイントのWBGTをもとに、ペルソナ(体重71㎏、荷物1㎏)に関する脱水量を以下に推定した。合計は10.1ℓになる。この場合、ペルソナの消費カロリーは推定で約6,300Kcalとなる。

 第1区  3.6ℓ
 第2区  2.5ℓ
 第3区  2.5ℓ
 第4区  1.4ℓ
 休憩中  0.1ℓ
 合計  10.1ℓ

 なお、私自身の走行履歴のデータを踏まえれば、推定脱水量は、70%の確率で8.8ℓ~11.3ℓの幅になる。

必要な水分補給量の予測

 上記脱水量のすべてを飲む必要は必ずしもない。歩行の合間の栄養補給のための食事にも水分は含まれるほか、歩行時間が長いことから、代謝水(摂取した食べ物が体内で分解されるときに発生する水)も考慮に入れることができる。
 一方、脱水がパフォーマンスに目立った影響を来たし始めるのは、脱水量が体重比で2%になってからである。
 これより、以下の条件で、スタート~ゴール間で必要な水分補給量を予測する。
 ・体重比2%までの脱水を許容
 ・歩行中は食事で1,000Kcal、スポーツドリンクなどで500Kcalを補充

 ペルソナにとって必要な水分量は、以下になる。
 10.1ℓ(脱水量) - 1.4ℓ(体重比2%)
 - 0.4ℓ(食事中の水分量※2)-0.2ℓ(代謝水※3)
 = 8.1ℓ

※2:摂取エネルギー量(Kcal)×0.4=食事に含まれる水分量(ml)とした。
摂取エネルギー量が1,500Kcalの場合は0.4ℓとなる。
※3:代謝水量は、13×摂取エネルギー量(Kcal)/100(ml)で計算した。
摂取エネルギー量が1,500Kcalの場合は195ml≒0.2ℓとなる。

 ただし、体重比2%分の水分(1.4ℓ)は、ゴール後に改めて補充する必要がある。また、トイレでの排泄による水分の減少は考慮していない。これを考慮した場合水分量は若干増加する。
 本稿では省略するが、発汗による塩分やミネラルは、スポーツドリンクを用いても補充は難しい。歩行後に改めて補充する必要がある。そして、糖分の多いスポーツドリンクの過剰な摂取も、カロリー摂取の役割はあるとはいえ、歯の健康を考えれば避けた方がいいだろう。
 そして、量、コスト、環境負荷の問題がある。8.1ℓとなると500mlペットボトルで16本強。価格だと2,000円近くになろうか。コストもかかるし、環境負荷の軽減も考えればマイボトルの活用も必要だろう。

【追記】
10月6日朝時点の予測だと、上記ペルソナに関する数字は以下になる。10月8日の気温予測値が低下したため、若干減少した。
・脱水量:9.8ℓ ・ゴールまでの必要補給量:7.8ℓ
<体重70㎏の場合>
・脱水量:9.7ℓ ・ゴールまでの必要補給量:7.7ℓ
<体重60㎏の場合>
・脱水量:8.3ℓ ・ゴールまでの必要補給量:6.5ℓ

前提となるWBGT予測値(10月6日朝時点の更新値)
 第1区平均:18.3℃ 第2区平均:16.1℃
 第3区平均:15.1℃ 第4区平均:15.4℃
 第1チェックポイント(休憩時):16.4℃
 第2チェックポイント(休憩時):16.1℃
 第3チェックポイント(休憩時):15.1℃

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