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気候危機が及ぼす健康や身体への影響は??

 気候危機を最も身近で日常的に「自分ごと」として感じられるものとして、夏を中心とする猛暑や熱波が挙げられよう。高温になって熱中症の危険が高まり特に外での活動がしにくくなる、熱中症で倒れる人や救急搬送が増える、水分補給が難しくなる…日常的にこうした光景が「夏の“風物詩”」と化している。これらが身近に感じやすいのは、自分の身体や健康、さらに生活に直接的に影響してくるからだ。
 その一方、日本では、熱中症による救急車搬送数や死者数などの統計は存在するとはいえ、健康や身体への影響、さらにこの社会や生活への影響は従来客観的に言語化・数値化されているとは言えなかった。さらにいえば、どのような人がどのような理由で影響を受けやすいのかもまだ具体的に説明しきれていない。私に言わせれば、これが気候危機への問題意識を下げているようにも見える。

 こうした中、海外では、ごく最近、気候危機の健康や身体への影響、さらに波及する社会や生活への影響を具体化する取り組みの研究も進んでいる。これをまとめたのが、アメリカを念頭に置いて書かれた以下の海外記事である。なお、冒頭の写真も下記記事からの引用である。

After Another Year of Record-Breaking Heat, a Heightened Focus on Public Health
By Victoria St. Martin
January 31, 2024

「またもの記録破りの暑さの年の後、公衆衛生への注目が高まっている。」

 冒頭の要約とその日本語を示しておく。

With heat deaths surging in Texas, Arizona and across the nation, researchers model a myriad of heat effects on the human body and focus on the disproportionate impacts suffered by the elderly and people of color.
暑さによる死者がテキサス、アリゾナ、さらに全米で急増する中、研究者は人体に及ぼす多数の暑さの影響をモデル化し、高齢者や有色人種にばかりもたらされる不均衡な影響に着目している。

 ここで書かれている主なポイントを順次書いておこう。

・暑さの関連死の約4割が気候変動に結びついている可能性がある。
・CDCによれば、2022年の暑さ関連死は約1,700人で、2018年の約950人から大幅に増加している。
・カリフォルニア大バークレー校の研究チームによる2022年の論文によれば、気候変動が健康に及ぼす影響には、全米で明らかに人種間の差異があった。高温や熱波関連死のリスクは、白人に比べ黒人やラテン系、ネイティブアメリカンで、さらにアメリカ市民権のない人で高い。有色人種の労働者は、屋外の農業従事者や建設従事者として屋外で労働することが多く、高温にさらされがちなのも要因である。
・ペンシルバニア大の研究者によるネイチャー誌での12月の査読論文によれば、健康な高齢者は、若い大人と比較して、暑さに脆弱である。
・ペンシルベニア州立大学とパデュー大学の研究者の発見によれば、人類は湿気のある熱ストレスに弱く、気候変動で熱波がさらに頻繁・強力・長期化する中で危険にさらされる。
・気温と湿度のレベルが高いと、汗の蒸発は通常より遅れ、発汗による冷却効果は消え失せる。こうなると、人体は内部体温をコントロールするのに時間がかかり、熱射病や他の症状を引き起こす可能性が生じる。
・暑さは気象による死因で最も代表的なもので、世界中の気候関連死の最大の原因のひとつである。高齢者・こども・屋外労働者といった脆弱な層、合併症を抱える人、体温調節能力を下げる投薬をしている人の罹患や死亡のリスクが高まる。また、入院の増加や、循環器系・呼吸器系・腎臓の病気や肥満に関連がある。極端な暑さが身体に負荷を及ぼす一方、身体の自己冷却の必要性が高まるのが原因である。
・2022年、マリコパ郡(※)では前年比25%増の425人が暑さ関連で亡くなった。2023年の統計は集計中だが、30%増加のペースの600人の暑さ関連死が既に確認されている。ホームレス経験者の増加の一因となっている。住居を見つける難しさ、エネルギーの不安、光熱費支払いの課題が全て絡んでくるため、対策には多くの人の協力が必要となろう。
(※:人口450万人超を擁するアリゾナ州の郡のひとつで、州都かつアリゾナ州最大の都市であるフェニックス(Phoenix)がある。)

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 ここで裏付けられている根本のポイントは、暑さが気候による最大の死因であることだ。湿度や発汗による身体の自己冷却能力が暑さによる健康に影響を及ぼしているほか、高齢者や子ども、有色人種、さらにホームレスといった社会的に「脆弱」とされる層への影響がより大きくなっている。
 上記記事が書いているところでは、研究者は、地球温暖化に関連する熱中症を、「既存の社会・経済の不平等を悪化させ、子ども大人も人種間の健康格差を広げる」環境正義の問題としている。
 これにほぼ直接的に関連するキーワードが「気候正義」だ。皆様はこの言葉をご存じだろうか?
 「気候正義」につき短くまとめられている例として、以下のものがある。

「気候変動の影響や、負担、利益を公平・公正に共有し、弱者の権利を保護するという人権的な視点を気候正義(Climate Justice)という。」
「「環境公害による健康被害といったしわ寄せが、貧困層やマイノリティ等の社会弱者にいくことは公平ではない」という主張は、環境正義という。気候正義は、それに地球規模での気候変動という視点が入ったものだ。」

 出典は以下:

 健康への影響にもこの「気候正義」の問題が絡んでいる。気候とは直接関係なくとも「健康格差」という言葉も生まれてきた。一方、SDGsの中心の考え方は「Leave no one behind」(誰も取り残さない)だ。気候と健康の問題はここに最も直接的に絡んでくる。
 この問題をさらに広げるとエッセンシャルワーカーの働き方の問題にもつながってくるだろう。AIや自動化が広がるとはいえ、猛暑下といえども最前線で活動しなければいけない層は、今後とも少なからず残るはずだ。
こうしたワーカーに対するソリューションは何か…考えればきりはないが、やはりそのキーはスポーツだと思う。様々な分野と掛け算ができる、気候変動の直接的な被害者としてその対策の知見がある…いろいろあるが、様々な層をつなぎ人々をまとめるのがスポーツの最大の力である。そして何より、気候と身体との連関につき最も真剣に考えなければいけないステークホルダーの一つでもある。
 「気候危機対策×ヘルスケア×社会課題解決」このイノベーションが必要となる。私が思うにその原動力はスポーツだろう。そして、これは「スポーツの力」が社会に広がり定着する契機にもなるはずだ。

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