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なぜWBGTは広まらない?その存在理由は?

 この夏、このチャートにうんざりした人も多いだろう。いうまでもなく気温のチャートだ。画面は気象庁アメダスサイトからの引用である。

 一方、近年の地球温暖化に起因する猛暑の頻発により、環境省は毎年4月下旬~10月下旬に熱中症予防情報サイトを設置、「熱中症警戒アラート」の発令も行っている。熱中症予防サイトの画面は以下のとおりである。ここで出ている数字は、気温ではない。WBGTである。

 そこで、こういう疑問を持つ人もいるだろう。
・2つも指標が必要なのか
・WBGTなんて聞いたこともないし感覚的にわかりにくい
 
実際、そのWBGTのことを話しても、「聞いたことがない」「知らない」「???」となる人が多く感じる。では、なぜ気温とWBGTの2つの指標があるのか?さらに、WBGTが普及しきれない理由は何か?を考える。

1.WBGTとは

 環境省「熱中症予防情報サイト」に記載の情報をまとめると以下になる。

 暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標である。 単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、その値は気温とは異なる。
 具体的には、人間の熱バランスに影響の大きい気温・湿度・輻射熱(※)の以下の3指標を取り入れた温度指標で、乾球温度計、湿球温度計、黒球温度計による計測値を使って計算される。式に表すと以下の通り。なお、正確には、風(気流)も影響する。

暑さ指数=乾球温度(気温)1:湿球温度7:黒球温度2

(※)輻射熱(ふくしゃねつ):日射しを浴びたときに受ける熱や、地面、建物、人体などから出ている熱
(参考)
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_lp.php

 私なりに簡単に言い換えると、気温は大気の温度の高低という現象に着目したのに対し、WBGTは、熱中症を防ぐという観点から人間の感覚を重視した指標といえる。結果純粋な気温の要素は1割にとどまった。上記環境省サイトにあるように、熱中症の発症数はWBGTと大きな相関があり、WBGTが28℃を超えると熱中症による搬送者が急増する傾向がある。

 WBGTは、以下の実現のために作成された指標と言えよう。
・「熱中症リスクのわかりやすい基準」というUIの実現
・「熱中症のリスクをすぐに判断できる」というユーザー体験の実現

 ちなみに、WBGTが開発されたのは、アメリカ・サウスカロライナ州パリスアイランドの海兵隊新兵訓練所である。その目的は熱中症のリスクの事前の判断で、高湿度、厳しい訓練、服装や装備の厳しい制約により、隊員が熱中症になりやすかったことが暑さ指数(WBGT)の提案につながったとのことである。

2.未だに低いWBGTの認知度

 以上のように、「熱中症リスク判断のUI、UX向上」のために開発されたはずのWBGTだが、その認知度は低いままだ。
 環境省は、暑さ指数の認知度等に関する意識調査を実施している。2022年は9月12日~13日に実施された。2022年調査の結果は以下でわかる。
https://www.env.go.jp/content/000118970.pdf
 

 この中の「WBGTの認知度」の設問では、2022年のWBGTの認知度は42%にとどまり、半数以上が存在を知らない結果になっている。指数の詳細を説明できる人は7%にすぎない。近年猛暑が問題視されている中、本来年々上昇するはずのWBGTの認知度が、2022年になっても「低下」していること自体ある意味驚きである。

 もっとも、環境省「熱中症予防サイト」を見る人は年々増加している。このデータ(出典は同じ)は、熱中症予防や猛暑対策に対する意識の向上を裏付けている。しかし現実はWBGTの認知向上が追い付いていない。

 熱中症防止のUI、UX向上を図り、熱中症リスクをより可視化したはずの「WBGT」が、その機能を果たしきれていないということになる。なぜか?
 私の仮説は以下である。
・WBGTは分かりにくくとっつきにくい
・どうしても「暑さ=気温」のイメージと直結してしまう
・2つ指標がある意味がわからない
・簡単ですぐにわかる気温の方を使ってほしい

3.ChatGPTに聞いてみた

 そこで、ChatGPTに以下の質問をぶつけてみた。

Q1.どうして暑さの指標として気温のほかにWBGT(暑さ指数)があるのですか?

Q2. では、暑さを表すのにWBGTだけを使えばよさそうなのになぜ未だに気温も並行して使われるのでしょうか?
一般のテレビの天気予報は、TVのニュースでの暑さの報道では「最高気温●℃」とは言うけど「WBGT●℃」とは報道しませんね。

 ChatGPTの回答は以下であった。

[Q1]
気温だけではなく、WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)という指標が暑さの評価に使用される理由は、気温だけでは熱中症や体調不良のリスクを正確に評価するのが難しいからです。以下にその理由を説明します。

湿度の影響: 気温だけでは暑さを評価する際に湿度の影響を無視してしまうことがあります。湿度が高いと、体の発汗がうまく蒸発せず、体温を下げる効果が低下します。その結果、同じ気温でも高湿度の場合は暑さをより強く感じることがあります。WBGTは湿度も考慮に入れているため、暑さの実感をより正確に表現できます。

日射量の影響: 暑さを評価する際には日射量も重要です。直射日光による熱の影響は気温だけでは表現しきれません。WBGTは、日射量や放射熱も考慮しており、実際の暑さの影響を総合的に評価することができます。

作業環境の評価: 特に労働環境や運動など、活動を行う際の暑さの評価には、気温だけでなく湿度や日射量も考慮する必要があります。WBGTはこれらの要素を組み合わせて計算されるため、労働安全やスポーツなどでの適切な対策を講じるための基準として使用されます。

健康リスクの評価: 熱中症などの健康リスクを評価する際には、気温だけでなく湿度や日射量の影響も考慮することが重要です。これにより、適切な対策や警戒を行うための情報を提供することが可能となります。

総合的に考えると、気温だけではなくWBGTを使用することで、暑さの評価がより精密かつ現実的なものになり、暑さによる健康リスクや安全対策の判断が適切に行えるようになります。

[Q2]
気温とWBGTの両方が使われる理由にはいくつか要因が考えられます。

一般的な理解: 気温は一般の人々にとって身近な指標であり、気温が高い場合は暑いと感じることが直感的です。一方で、WBGTは気温だけでなく湿度や日射量も含んだ複雑な指標です。一般の人々がWBGTを理解するのは難しいかもしれません。そのため、気温を併用することで、広く理解される情報を提供しやすくなります。

緊急性と速報性: メディアの天気予報やニュース報道は、瞬時に理解できる情報を提供することが求められます。気温はシンプルな指標であり、瞬時に暑さを把握するのに適しています。一方で、WBGTは計算が必要であり、その値を理解するためには専門的な知識が必要です。速報性や簡潔さの観点から、気温がより頻繁に使用されることがあります。

異なる活動や状況への適用: WBGTは特に労働安全やスポーツの運動時の暑さ評価に適していますが、一般の日常生活やレジャーの中での暑さ評価には気温も重要です。例えば、外出時や遊びの際の暑さ感を理解するためには、気温の情報が依然として有用です。

多角的な情報提供: 天候予報やニュースは、人々に安全に行動するための情報を提供する目的もあります。気温だけでなく、WBGTや湿度、日射量などの情報を複合的に提供することで、人々がより適切な対策を講じる手助けができます。

総じて、気温とWBGTはそれぞれ異なる側面から暑さを評価するための指標であり、情報をより多角的に提供するために併用されることが多いです。

 まとめると以下のように、両者組み合わせて力を発揮するということになるか。
・気温は単純で瞬時な把握に向いている
・気温だけではわからない部分もある
・WBGTは労働安全・スポーツ向き、気温は日常生活・レジャー向き
・気温とWBGTの組み合わせが多角的な情報提供に役立っている

4.なぜWBGTの認知が低いか

 私なりの仮説は以下のとおりである。
・気温の方が簡単で使い慣れている
・メディアの報道ではWBGTのことは言わない
・いちいち計算式を使いたくない
・測定器具に金がかかる
・難しくとっつきにくい
 
 
私が生まれた時にはWBGTという指標が用いられることはほとんどなかった気がする。暑さの指標としてぱっと思いつくのが気温、その単位である「℃」で、当然メディアもこの表記を使っていた。熱中症対策の指標を表現しようにも一度慣れたものを変えるのは難しい。気温もWBGTも単位が「℃」。「℃」=「気温」になじんでいる状態で、「℃」に新たな指標を結びつけるのも難しいだろう。あるいは、いずれにしろ暑さのことを言っているのだからいいやともなるか。「気温」と言った方が「だぶりゅーびーじーてぃー」あるいは「あつさしすう」といった方が当然言いやすいのもあろう。
 市販の測定機器の価格をみても、温度計<温湿度計<WBGT計となっている感じだ。以下、それぞれのキーワードで検索した時に出てきた上位5器具とその価格である。

温度計の価格例
温湿度計の価格例
WBGT計の価格例

 日常生活では、気温でだいたい暑さは分かるのだから、いちいち高いWBGT計を買わなくていいや、となるだろう。
 計算式も難しい。もとの定義にある「乾球温度」「湿球温度」「黒球温度」は何ですか?となる人も多いだろう。中でも「黒球温度」は特に理解が難しいものである。温度、湿度、風速、日射量から推定する近似式(※)もあるが、これも複雑である。
 
 厳しい環境で活動する人のUI、UXの向上を目的にしてつくられ、実際に米軍では成果をあげたWBGTが、一般生活に落とし込むと、UIが複雑すぎて使いにくいものになったということにまとめられるだろう。「正しいものがみんなに伝わるとは限らない」の典型である。
 一方で、目的や意義をしっかり理解すれば、気温よりも体感に根差して、環境と健康をつなぐ素晴らしい指標ともいえる。どんな素晴らしいものも、最初受け入れられるのには時間がかかる。世の中にはそういった例はいくつもある。私が思うに、現在理解が進んでいるとはいえない健康と環境のつながり、すなわち「プラネタリーヘルス」の考えが浸透すれば、WBGTの指標もより広まるのではないか。

※上記は、以下の私のサイトの記事を転記したものです。


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