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「盗塁ブーム」の2023年MLB-その理由とその前約10年の傾向

 2023年のMLBの大きな変化の1つは、盗塁と言えよう。盗塁を企図した数、盗塁の成功数、盗塁の成功率のいずれも、2022年まで数年のトレンドから増加・上昇しているのだ。
 2010年~2023年のMLBにおける盗塁数、盗塁死数、成功率の推移をグラフにすると以下のようになる。2023年は現地時間9月11日終了時点までである(以下同じ)。

MLBの盗塁数、盗塁死数、盗塁成功率の推移

 盗塁数と盗塁死数の合計、すなわち、2つの色の棒グラフを足し合わせた高さが、盗塁の企図数に相当する。新型コロナウイルスの流行やその後の労使対立で開幕が大幅に遅れたため60試合制になった2020年については、棒グラフ上の盗塁数、盗塁死数は162試合分に換算して表記した。
 数値データは以下になる。

MLBの盗塁数、盗塁死数、盗塁企図数、盗塁成功率の推移

 これを書いている時点でまだシーズンが終了していない2023年(9月11日現在)は、2022年に比べ、企図数は17.3%、成功数は24.6%増加した一方、失敗数は4.9%減少した。結果、成功率は4.7ポイント上昇した。
 2023年の値につき、2018年~2022年の過去5年の平均ないしは実績値と比較すると、以下のようになる。なお、この計算上の平均値に関しては、2018、2019、2021、2022年の実績値と2020年を162試合換算した値の平均によった。
 企図数:+21.3%(2022年まで5年のみなし平均に対して)
 成功数:+30.8%(2022年まで5年のみなし平均に対して)
 失敗数:△6.0%(2022年まで5年のみなし平均に対して)
 成功率:+5.9ポイント(2022年まで5年の実績に対して)

 過去のトレンドをみると、以下のようになる。
【企図数・成功数】
 2011年に一旦企図数・成功数ともピークを迎えるが、その後2021年まで減少傾向が続く。2022年に入り回復傾向に入った後、2023年は大幅な増加に入っている。
【成功率】
 2014年に一旦低下したのを除けば、2018年まで横ばいで推移。その後2019年以降上昇傾向に入ったが、2022年に頭打ちになる。翌2023年に大幅な上昇を示した。

 この背景は何だろうか?私は、直近の2023年シーズン前のルール改正のほか、ここ10年余りの野球のトレンドの変化と考えている。
 まずは、直近の2023年シーズンから。以下のルール回数が盗塁の企図/成功数の増加、失敗数の減少、成功率の上昇に大きく影響しているであろう。これは多くのMLBファンがイメージする通りである。

1.ピッチクロックの導入(投球間隔は走者がいるときは20秒、無走者の場合は15秒に制限)
2.牽制球の制限(1打席中無制限で投げられるのは2度まで、3度目はアウトにしないとボークになる)
3.ベースの拡大(1塁~3塁ベースのサイズが少し大きくなった)

 3.の影響はよくわからないが、1.2.に関しては、走者がいる際投手が走者に意識を向けにくくなった影響はありそうだ。かつてのように、俊足の1塁走者がいるときに1塁に5~6度続けて牽制を投げることができない。投球間隔が狭められたためバッテリーはすぐに打者への投球を考えないといけない。当然走者に対する注意は減り、走者はよりフリーパスに近い状態になる。だから、盗塁が多く試みられるようになり、成功しやすくなっているはずだ。

 では、2010年代後半~2021年まで盗塁が減り、2022年は回復したのはなぜか?私は、野球のトレンドが背景にあるような気がする。
 同じ時期の1チーム・1試合あたりのホームラン数、平均OPSの推移を示した。なお、2023年は現地時間9月12日終了時点である。

MLBにおける1チーム・1試合あたりのホームラン数、平均OPSの推移

 2014年まで低下傾向にあったホームラン数やOPSは、その後のいわゆる「フライボール革命」の影響もあり2015年以降増加・上昇に転じ、2019年にピークに達している。しかし2020~2022年は前年比減少・低下で推移し、2022年は2014~15年の水準に戻った。この2022年までのホームラン数やOPS推移は、実は盗塁の推移と反対に動いている。2015年以降は「フライボール革命」に見られるようにホームランやフライを狙う打撃が浸透した結果、相対的に盗塁の得点効率が悪いと考えられ、「盗塁よりも長打、HR」の戦略になっていったのだと思う。その傾向に歯止めがかかったのは2022年である。投手側の対応(高めの4シームの活用など)のためにホームラン数が減少しOPSが低下した結果、盗塁の重要性が見直されるようになったと考えられる。2019年以降盗塁の成功率が一旦上昇傾向に向かっているのも、盗塁の価値を高めたと言えるのかもしれない。(ただ、この時点の率の上昇の理由はよくわからない)
 そこにやってきたのが2023年のルール改正である。盗塁もHR・長打も同時に増えるというこれまでになかったトレンドが、ピッチクロックや牽制球の制限で生まれたと言えよう。これらの効果は、実は、MLB機構がルール改正により狙っていたものかもしれない。いわゆる「フライボール革命」が広まった時期には、野球は三振かホームランばかりになってつまらなくなったという声も聞こえるようになった。イチローの引退会見の言葉にもそのニュアンスが込められていた。他の競合スポーツにファンを奪われ、特に若者の野球離れが叫ばれる中、機構がねらったのは動き・スピードのある展開だった。2023年の盗塁のトレンドは、そのねらいが的中した結果といえよう。

 これからどうなるか。私は、盗塁阻止率も負けずに増えてほしい気がする。盗塁やその企図数が増えるのは望ましい結果ではあるが、一方阻止率があまりに低下して少年野球のように「盗塁がフリーパス」になってしまうのは別の意味でつまらなくなる恐れもありそうだ。
 来年は盗塁のトレンドはどうなるのか?他のスタッツの行方との関連と合わせて注目したい。

(見出し画像の出典は以下)

https://www.si.com/mlb/2023/05/09/stolen-base-increase-historical-parallel

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