#08 昇段審査の都市伝説 vol.2 ~誰が決めたか「色胴では受からない」
vol.2は、「着装」に関する話題です。早速過去に書いたものを転載します。
昇段審査の都市伝説 vol.2 ~色胴で受けちゃダメ!? 2017.4.26 記
■はじめにお伝えしたいことがあります。
「正しい着装」が重要であることはいうまでもありません。
審査はいわゆるフォーマルな場であり、ハレの場ですので、それに見合った着装で、審査員に見ていただくものだということは忘れないようにしたいものです。
そのうえでの「私個人の考察」です。
■審査は黒胴が望ましい。色胴は、不可あるいは減点材料?■
言いたいことは理解できないこともないですが、かといって色胴は認められないというものでもないはずです。
ネット上のどこかで「黒胴でなくてはいけません」と言い切っている方もいましたが…
「根拠は??」と訊いてみたいものです。
色胴でも合格できます。もちろん生地胴でも大丈夫です。
私は色胴で合格しましたし、生地胴で合格された経験がある方もいます。
大切なのは、審査といういわば「剣道人生を懸ける場」において、自分を表現するためにどのような服装がふさわしいかということだと思います。
「色胴だと不合格になるのではないか?」
「なんだかんだいっても黒胴の方がいいのではないか?」
色胴を身に着けることが不安材料になるようなら、無難に黒胴を身に着けた方が審査に集中できると思います。
万が一不合格になってしまったときに、人はその原因を振り返ります。
そのとき「色胴だったから印象がよくなかったのかな?」と考えてしまうようであれば、色胴を使うことはオススメしません。
「今の自分にはこれしかない。何があっても後悔はしない」
と思えるのであれば、ご自分の好きな色の胴を使えば良いでしょう。
ちなみに私は、合格した七段審査で茶色の鹿子塗の胴を使いました。
胸の飾りもカブトと雲が混ざったような独特のものです。
不合格となった1回目の七段審査は黒胴で望みましたが、
「今回はコレでいく!!」とひと月以上前から決めていました。
いろいろな思い入れのある胴で、使いやすさもあって、自分の力を出し切るにはこの胴が最もふさわしいと考えたからです。
黒胴の意義については、一応それなりに私もわかっているつもりです。
「やはり黒胴の方がいいのだろうか?」ともちょっとだけ考えましたが、八段審査で赤胴で合格された先生がいるのをみて、そこに拘るのもバカバカしくなってしまいました。
それに何よりもこう思いました。
「そんなことを気にしているうちは合格しないだろうな」
審査という場において、いまの自分の最高の姿を表現するには、どんな着装がベストなのか。
このような発想で身に着ける道着袴、剣道具を選んでいくとよいのではないでしょうか。
そこには(私はこの言葉はあまり好みませんが)「自己責任」という言葉がついてきます。
そう、結局は自己責任なのです。
■ミシン刺よりも手刺にすべき。刺しが細かいものの方がよい?■
これも関係ないと思います。
何かで「お金がかかっているほうが好ましい」という記事だったか、文章をみたことがありますが、閉口しました。
お金をかけて審査に合格するのであれば、ある意味そんな簡単なことはありません。
それよりも不自然さのない、整った着装であるかどうかの方が判断材料になると思います。
合格しそうな雰囲気を醸し出している人は、立ち姿でわかります。
そのとき、「見事な立ち姿だけれど、剣道具がミシン刺だから」などどいう見方はされないのではないでしょうか。
それに「ミシンがNG」という基準があれば、審査会場にミシン刺しの剣道具を身に着けた人などいなくなるはずです。
ちなみに私の友人は、100万クラスの一式を所有していますが、頚椎をいため、剣道することすら危ぶまれる状態になりました。
それで、この一式は身に着けることが出来なくなってしまったことから、初心者用の合皮の一式(小手はボクシングのグローブのような風合いのもの)で六段を受審しました。
結果は合格。もちろん、立ち合いは気迫十分の立派な内容だったようです。
■決して「安物でもいいじゃないか。」とか、「ボロボロの防具でも合格したよ」というような武勇伝を煽りたいわけではありません。
ここで、私が尊敬する先輩のお一人が仰った言葉を。
―審査は、心延えを見せる場である―
これこそが自分!と言える姿で審査に望めば、どんな結果であっても後悔はしないことと思います。
しつこく繰り返しますが、「今の自分にふさわしい着装とはどういうものか」を基準にすれば、悩まなくて良いと思います。
そしてその感覚は、あなただけのものです。
何色の胴にしろとか、どんな刺しにしろとか、
他人が周りから知ったような口調で押し付けるようなことは止めていただきたいと切に願います。
(ただし、「(受審者の)お師匠さんから黒胴で行きなさいと言われた」など、信頼関係、師弟関係のある間柄でのご指導なら、それに従うほうがよいと思います。かりに私が師匠から「審査は黒胴で行きなさい」と言われていたら、それに従ったと思います。)
次回は手拭いなどに触れます。
昇段審査の都市伝説 vol.2 あとがき
■「黒胴であるべき」という声
手刺に拘らなくても大丈夫という趣旨で書いた部分について。七段までの若年齢のグループは今ではミシン刺の剣道具がかなり増えていますね。見栄えというよりまずは動きやすさから選択するという傾向は試合だけでなく審査にも及びつつあるということでしょうか。
「黒の胴であるべき」という考えはなかなか根深いものがあります。
これは着装への意識というよりも集団心理~ある種の同調圧力に近いのではないかと私は感じています。
落ち着いた深みがあり、品位を感じさせるような黒胴は私も好きですが、それは本旨とは別の話です。
私自身は、色胴—変わり塗の胴で七段審査を受けに行きました。
高崎の銘店、西山剣道具店で購入した先代の高城永眞作「鹿子塗」の胴台です。会場では「すごい。カッコいい!」という言葉をかけられました。
しかし一部の人からは「すごいなあ。それで受けるの?」との声もありました…マズいんじゃないの??というニュアンスでしたが、全く意に介しませんでした。
審査当日、午前中の第一会場は、色胴をつけていた人が3人。
ほかの二人の合否は残念ながらわかりませんが、たくさんの立ち合い、審査員の目線なども含めてみていると、「審査員は剣道具の刺し目や胴の色なんてまず見ていないな」と強く感じました。
■生地胴でも大丈夫です。
生地胴でも問題なく合格できます。私が運営する「生地胴倶楽部」では、全国審査のシーズンになると「この生地胴で受かりました」という嬉しい報告がたくさん寄せられます。
意外かもしれませんが、私が見た感覚では、六段、七段の審査よりも八段審査のほうが色胴を使っている受審者が多く見られます(それでもパーセンテージからすればかなり低いのです)。これも推測に過ぎませんが、八段受審者のほうが「自分が審査の場に臨むのはこれだ」という意志がまとまっているからではないかと考えています。
また「色胴が審査にふさわしくない」とはいいますが、それは精魂込めて作り上げてくださった職人さんに失礼なのではないか?と剣道具大好きな私は考えます。
文中に触れたように、この関連の話題を話すと必ずと言ってよいほど「自分はボロボロの剣道具で合格した」「激安のミシン刺しで合格した」というエピソードを語る方がいます。
それは審査員の目に問題のない着装に映ったのだと思いますが、どんな色味の剣道具を使おうとも「審査される立場にある」という意識は忘れてはならないことを申し添えておきます。
■剣道関係の人気Youtubeチャンネルで、とある範士の先生も仰っています。
「剣道着・剣道具の色は審査に関係ありません。ただし、着装は見られますよ。中身は大事です」
審査用にしっかりとしたものを用意しておく心がけはあって良いとのことでした。
色で合否を判断するような基準はなく、例えば派手な手拭いの受審者は厳しく見るように、という通達もない。ただし着装に関しては大切で、例えば甲手の手の内が損傷して指が見えるような受審者も出てくるが、そういう人で良い立ち合いをしているケースは見たことがないとも話されています。…そういうことなのでしょうね。
私がこの上記の本文を書いたのは2017年。YouTubeチャンネルを見たのは2022年のことですので、間違ってなかった…と少しホッとしました(笑)。
vol.1.2と公開しました。vol.3では、手拭いや剣道着、袴などにも触れます。
こういう話になると必ず出てくるのが、「ジャージ道着で審査は受けてもいいのか」という話題ですね。ご自由にとは思いますが、私個人的には…
とりあえず、今日はこの辺で。
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