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#42 面(剣道具)について考えてみる①


■面布団の長短

短い面布団が主流になって久しいです。
しかしながらあまりにも短いとバランスが悪くてカッコ悪いし、肩までしっかり守られなくなってしまいます。
よって、2019年4月1日からは全日本剣道連盟剣道試合・審判規則において安全性の担保に関する規定が加えられたりもしています。

そもそも「面布団は昔ながらの長いほうが好きだ」という人もいます。
比較的高めの年代の人に多いと思います。私もそういう年代です。
スラっとなだらかに伸びている布団、カッコいいんですよね。

長い布団が本来であり正義。最近のものは「ブーム」で短い…私もどちらかというと同感でした。
しかしある時、必ずしもそうとは言い切れないのだと知ることになりました。

昭和40~50年代に作られた面。閂から下の長さ25センチ

■昔の面布団は短かった

「長かった」の間違いでしょ、と思った方もいるかもしれません。
とある老舗の剣道具屋さんで、店主がこう言い切りました。
「長い布団は実用性に難がある」
これはそのとおりでしょう。振りかぶるのに邪魔だったりしますし。

しかし、さらに続きました。
「長い布団でないと肩までしっかり守れないし、短いとカッコ悪いというのは、サイズの合った面を正しく着けていないからだ」

つまり、サイズの合った面を正しく着けると、長い布団の面だとカッコ悪く見えてしまうし、短くても問題なく見栄えはするのだというのです。

■剣道具にサイズという概念がなかった時代

面に限らず、剣道具のサイズのことが細かく言われるようになったのは、実は結構最近のことです。
もちろん、職人さんにお願いして誂えてもらうようなものは別でしょうが、30〜40年くらい前の剣道人口が急増した時期―メーカーの吊るし防具をなんの疑いもなく購入していた時代は、サイズなんてそれほど気にせず「大きめのものを買っておけば成長しても使える。大きくてもしっかり結べばいいだけのこと」という売り言葉に疑問も持たずに乗せられていた時代が確かにありました。

私の同世代の方、ちょっと中学、高校時代を思い出してみてください。

部活で使っていた面、顎が乗る位置に指一本くらい余裕で入りませんでしたか?
面をつけると、首(うなじのあたり)が擦れて痛かったという人はいませんか? 
これはサイズが合っていない面を無理矢理締め付けて使っていたからです。

■長さ20センチを下回ったら危険か

今はサイズを合わせて面は購入するのがほぼ当たり前になりました。
その老舗の店主さんが言うことには
「サイズが合わない面を無理矢理合わせるから、布団を長くせざるを得ないんだよ」
緩い面をしっかり結ぶためにはもう、結ぶ位置を低くするしかない。
しかし適正な位置は本当はもっと上の位置であり、そこで結べば布団を長くする必要がないのだ、ということです。

私はここで面を買おうとしたとき「アナタなら閂下(閂からの長さ)19 〜20センチで充分」と言われ、カッコいいなと思って手を伸ばした22センチの面は頼んでも売ってもらえませんでした。
そして稽古で使っていた面を持参し、見てもらったら「布団が長すぎる。だからヘリが傷んでいる」とバッサリ。
「だから」というのは、体の肩幅から布団がはみ出た格好になるため、相手や自分自身の体と接触してダメージを負うことになるということを指しているわけです。

「これなら売れる」と店主に言われた面。納品時には面の着け方を細かくアドバイスしてもらいました。

結局、その店で勧められて今稽古用に使っているのが、画像で私が着けている面です。
格好の良し悪しは好みで分かれるところなので、そこには言及しないでおきます。これで閂下19センチの面です。
肩は問題なく守られているのはおわかりいただけるはずです。

これは、紐を結ぶ位置などが大きく影響していると思います。
※ちなみに私は痩せ型ではありません。
身長は166センチですが、Mサイズの服は肩幅と胸囲がキツイ…という感じです

「そうは言っても最近の若い人は布団が短いのを好むよね。肩も守られていないし危険だよね」
確かにそういうものもあります。身体を守れない面は論外と言えましょう。

しかしそれも「適正なサイズの面を正しく着用しているか」が解決すれば、短い布団=悪とは一概に言い切れなくなります。
あとは、「型」の着け方です。

ところで先ほど老舗の店主にバッサリやられた面は、改めて着け方を教わり、それに合わせたら、なんだかものすごくカッコ悪くなってしまいました。
教わったのは、「面紐を結ぶ高さは、物見よりも少し上、後頭部の最も出ている部分。そこで結ぶことであおむけに転倒して頭を打ってしまったときに紐がクッションの代わりになるから」という理由でした。

これはこれで違和感ないと言えばありませんが。閂下25センチの面
老舗の店主に教わった位置で結んだ同じ面。
この後、布団はカットしました。

結局その面も修理に出して布団をカットしてもらったのですが、作業をお願いした方からは、「そんなに短くすると、肩を守れなくなるので使えなくなりますよ。いいんですか?」と確認されました。

大丈夫ですと言ってもなかなか信じてもらえず、老舗から買った稽古用の面を見せて、「これも同じ短さですから」と示したら納得してもらえたという次第です。しかしこれには後日談があります。
「19センチにしてください」と指定したのですが、やはり信じてもらえなかったのでしょう。仕上がりは21センチでした…これはそのまま使用しています。

剣道具というのは基本的には人それぞれ、好みで選べばそれでよしとは私は思っています。
しかし「長いのが本来。短いのは危険」とまるめて語る前に…こういう考えもあるんですよ、と一応書いておきます。

これで閂下18センチ。形の好き嫌いはあると思いますが、肩幅からは出ていないです。
これはある職人さんにお任せで作ってもらった面。測ってみたら20センチでした。
個人としてはコレがベストかなと思います。
ちなみにこの写真を見た友人から「物見と目線が合ってない」とつっこまれましたが、それは下から撮影しているからで、実際はピタリです。

■今日のあとがき

この文章もまた、以前に自分のFacebookに投稿した内容のリライトです。
この投稿は結構な反響がありました。中でも多かったのが「この話は、上から紐を取っているタイプの面を使う場合には必ずしも合致しない」ということでした。
私も上から紐を取る面も使っていますので、その考えも理解できます。
それに剣道の専門誌でやはり布団の長い面のほうが安全性が高いし、布団の長い面が使いにくいとみなされるようになったのは、剣道の質、技術的なものが変質したからだという主旨の文面も見たことがあります。
また地域性もあると思います。

剣道具は「安全」で「使いやすいこと」が大事だと思います。
ただしこの要素にたどり着く過程にはさまざまな考え方があります。
これも以前別の記事で述べているのですが「剣道具には正解がない」と私は考えています。
今回の文章も考え方のひとつであるということを御理解の上、参考としてお読みいただければ嬉しく思います。

とりあえず、今日はこの辺で。

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