一次SS

あーんして



「あーんしてなの!」
優戯が小さな手に柿をもって近づいてはそう言ってきた
「やだ」
即で拒否した
他の人間ならばいいよと許可を出したと思う
だがかなしきかな好意を向ける相手が偶々その場にはカヲルしか居なかった
カヲルとてバカではない。この小さな少女が何をしたいのかなど深く考えなくても分かる。分かった上で拒否したのだ
理由など大層なものはない
せめて柿が苦手だとか果物が苦手だとか、そういった理由でもあればよかったのだが、彼にはそんな感情はなかった
ただ本当に心底どうでも良くて、食欲も無いこの状態であーんしてもらう必要性を感じなかったから、やだ。と拒否した
向けた好意を拒絶され、優戯は悲しみに顔を歪ませる
「かき…たべないの?」
「うん。いらない」
「………」
落ち込み、目尻に涙を浮かばせる
そんな優戯の表情をカヲルは困った顔で見つめた
その後大きなため息をつく
「えぇ~…なんで泣くかな?他の人にあげればいいじゃ~ん…そんな顔すると俺が悪いみたいな空気になるから困るんだけど。というか自分でお食べよ。美味しいでしょ?柿」
困惑しながら言い訳で取り繕うも、意味はなくむしろ逆効果になっている
「勘弁してよー。また俺がどやされるじゃんか~」
あーあーあーと凄く雑な対応を繰り返す
他人にさしたる興味や好意が生じにくい元来の特性が、現状を悪くしているなぁと心のなかで悪態をつく
これで優戯が機械の身体であったら今頃こうはならなかったに違いないと謎の理論を脳内で展開する
「おぅい。優戯~」
「あ」
あちゃー。とカヲルは内心で天を仰いだ
逃げる前に第三者が遭遇してしまった。これでどやされるのは確定だなぁ
「ねぇちゃんなのー」
落ち込んだ優戯は名前を呼んだ人物に抱きつく
そのまま流れるように抱き上げられ、その目の端に浮かんでいた涙を見られた
「……あのさぁ。いくらお前がロボット以外に関心が向かなくても幼女泣かせるのは無いなぁってお思うんだけど」
「待って」
避難するように冷たい視線が突き刺さる
痛い視線を受けながら必死に弁明を図る
「ねぇ待って。俺なんにもしてない。勝手に落ち込んで泣きそうになってるの。冤罪」
「いや実際お前が危害を加えたとは思ってないよ?でもコレまでの対応を考えると少なくとも原因はお前よね?っていう思考になるわけよ。OK?」
「NO!断じてNOーーー!ただ断っただけだから俺悪く無いもん!!」
「ほんとかー?ホントにただ断っただけかー?」
「ほんとだよ!あーんしてって言われたからやだよ要らねーって言っただけだもん!」
「言い方ぁぁぁ!!」
ビシィっと叩くと同時に鋭いツッコミを浴びせる
「やっぱりお前のせいやんけ!」
「断っただけじゃないかー!!」
理不尽な行いには理不尽な行いが帰ってくる
それがどれだけ本人が不条理に感じるとしてもだ
カヲルはそう思いながらこっちを泣きそうな顔でみてる少女の表情をみながら半身の軽い説教を受けるのだった


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