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2022.8.29/9.3 劇団チョコレートケーキ『ガマ』/シアターイースト

劇団チョコレートケーキ《生き残った子孫たちへ・戦争六篇》の最終篇『ガマ』。
初日と9/2夜公演を観てきました。
(初日と千穐楽のチケットを既に持っていたにも関わらず、今週頭に芸劇のサイトをみたら前方席がポツンと空いていたのでつい😅)

この作品は“ガマ”、沖縄の方言で自然にできた鍾乳洞や洞窟の中に身を寄せた6人の会話劇です。
時に会話で、時にオムニバスのような一人芝居で語られる沖縄戦。
本土決戦に向けた時間稼ぎの捨て石扱いされた沖縄の人々へのむごい扱いに胸が痛くなるとともに、過去や思いを背負って生きることを選択した6人に胸を打たれました。
 
【戯曲について】
愛国教育に狂わされた若者を描いた『〇六〇〇猶二人生存ス』。
責任とは何か?を掘り下げた『無畏』。
表向きは“同胞”としながらも植民地扱いだった朝鮮を描いた『追憶のアリラン』。
過ちを繰り返さないために私たちに何ができるかを再確認させられた『帰還不能点』。
亡くなった友人や手術を受けられなかった人の様々な想いを背負い生きる女性たちを描いた『その頬、熱線に焼かれ』。

この『ガマ』という作品は先に上演された5篇の全ての要素が含まれていた作品でした。
そのおかげで、この『ガマ』という戯曲の「命(ぬち)どぅ宝」(命こそ宝)というテーマが素直に心に入ってきたように思います。
でも、もしこれだけを観ていたら、美しいラストシーンに感動しつつも、あの許しで済ませてよいのかと奥底でモヤモヤが残ったかもしれません。
それほどまでに沖縄戦はあまりにも悲惨な史実が多すぎますので……。
なので、戯曲単体としては沖縄戦を掘り下げるというよりもストレートな訴えとテーマを全面に出したぶん、今回のように演出と役者さんの技量が相当特出してないと、情緒に訴えて感動で完結してしまう恐れがある作品かも?と思いました。

【演出などについて】
舞台上に段差や傾斜を作りつつもあえて自然洞窟風のセットにはせず、想像力と役者の演技でガマに見える美術。
その美術を効果的に生かし、役者の動きにバリエーションをつけ、洞窟の深さを感じさせる演出。
音響も凄かったです。まるで観客もガマの中にいるかのような台詞の反響。劇チョコさんの舞台はマイクを使用していても生声のように聞こえるのですが、今回の反響音も生の声のようでした。
照明もカンテラの灯りが際立つほどの暗い舞台上なのに、全く観劇の邪魔をせず、むしろ集中を高めてくれます。また、闇が濃い分、光のインパクトたるや! 個人にスポットが当たるモノローグの一場面一場面が鮮烈に焼き付きます。そして、ラストの場面の先頭で旗を持つ少女。あれはドラクロワの絵画のオマージュなのでしょうか。とても眩しく美しいシーンでした。

ほんと、『帰還不能点』『無畏』『追憶のアリラン』もとてつもない完成度の作品だったのに、まだ先があったのかと驚きます。

【役者さんについて】
“国のために奉仕し死ぬことこそ日本人のあるべき姿”と信じて疑わないひめゆり学徒隊の少女・安里。
少女と一緒に行動し手助けしている県立一中の教師・山城。
怪我をして倒れていたのを少女と教師に助けられた東少尉。
3人がいるガマに迷い込んできた二人組の兵士、岸本一等兵と井上二等兵。
そして二人の道案内である民間人からなる防衛隊の老人・知念。
あと、声の参加として『帰還不能点』や他の作品のメンバーのお名前もありました。

『ガマ』当日パンフレットより

もうここまで濃度とクオリティの高い芝居を観せられるとあれこれ語るのもおこがましいので、特に好きな場面や印象的なところを。

・東少尉役/岡本篤さん
物理的な傷だけでなく部下や民間人を死なせてしまった慙愧の枷で歩みを止めていた少尉が、回復とともに”救える人を生かす”ほうへ歩みを進め、最後には”生きる”選択をする。その表情の変化が凄く好きです。
岸本と井上の正体と秘密行動の真意を問う場面も、静かな口調なのにスリリングでたまりません。
写真の杖を構えて座っている姿、堂に行って素敵でした。

公式写真より

・岸本役/青木柳葉魚さん
先ほどと同じ場面になりますが、護郷隊という10代の少年をゲリラ兵として動員するという任務を負っていると明かす場面。
ここでガラっと口調と態度が変わるのが、すっごく良いんです。
かと思うと手足を縛られて転がされてジタバタしたり。(浅井さんもですが、あのポーズであんなに明瞭に台詞言えるの凄い)
最後「投降は切込みより怖ぇなぁ」と井上に抱き着く姿がとても人間臭くて好き。
でも生きることに貪欲な岸本さんはきっと戦後も闇市とかで逞しく稼いで生き抜くんだろうなーなんて。

・浅井伸治さん
やはり浅井さんは私にとってカメレオンな方で。もう何度も劇チョコ作品を観てるにも関わらず、出てきたとき一瞬「この人、浅井さん?」ってなるのです。
今回も柳葉魚さんと共に行動する井上の圧倒的舎弟感たるや!(笑)
ガマの奥に行ったときとか東少尉の歩行訓練を応援する姿とかポロっと大切なことを言っちゃうとか、もう単純さと人の好さ全開でかわいい。
と、油断していたらあの告白。
「生き抜く」と言っていたはずなのに、突然無気力になったりと確実に戦争神経症の初期なのが辛い。(以前NHKで放送された戦争神経症のドキュメンタリーを思い出しました)
浅井さんの演技が真に迫っていて、初日観劇した夜に夢にみてうなされましたよ……。

公式写真より

・西尾友樹さん
皇国教育を施し自分の教え子を鉄血勤皇隊に送り込み、さらには犬死のような死を目の前にしてその場から逃げた自責の念。短いモノローグではありましたが、それを補うに余りある西尾さんの表情と声の震えがあまりにリアルで……(席の目の前だったので余計に)。
他にも井上の告白に我を忘れるほど怒りを出した姿、そして東少尉の「日本人を許せるか」との問いへの絞り出すような返事、凄まじいものがありました。
それ以外では、うちなんちゅーの二人に対するときの沖縄弁(うちなーぐち)の柔らかい喋りと、軍人と話すときの喋りの違いが好き。東少尉の歩行訓練の投げやりな口調ときたら(笑)。でも、指導はきちんとしてるのはさすが教師です。
あと、こんなシリアスな作品のときに言うのもなんですが、肩を落として身体を斜めにして背中を少し丸めてちょこんと座っている姿が日本一さまになる俳優さんだと思います。びしっとした役やシュッとした役も似合うのに不思議。

公式写真より

・清水緑さん
「臣民」「聖戦」「日本人として立派に死ぬ」など少女である安里の口から飛び出す、今からみると恐ろしいくらい狂った言葉の数々。
清水さんの透明感あって澄んだ声で言われると、台詞とわかっていても、子どもにそんな思想を植え付けたことに怒りを覚え思わず手を握りしめてしまいました。
真っ直ぐでひたむきな視線が眩しく、そして悲しいです。
ずっと標準語だった彼女が、うちなーぐちで捲し立てたてる場面と知念の言葉に「ワカヤビラン……」(←多分/わかりませんという意味の言葉だと思います)と泣く場面、グッときました。

公式写真より

・大和田獏さん
軽やかで懐深くて、もうイメージする沖縄のおじいそのもの!
大和田獏さんだと知っていても忘れてたほどです。
辛いことも悲しい事も沢山経験して、
「(正しい事をすれば)なんくるないさー(何とかなるさ)」
という沖縄の精神を体現したようなおじい。
お骨を一ヶ所に集める場面、山城の告白に寄り添うように言葉をかける姿、「死にたがりは甘ったれ」と活を入れる場面、岸本や皆に「命(ぬち)どぅ宝」と生きぬくことを訴える場面、安里に「命をぎゅっと掴んで」生きなさいと言い聞かせ頭にそっと手を置いてのカットアウト。泣いてるつもりはないのに涙が流れてました。ほかにも響く言葉が沢山ありすぎて……。
ほんと、発する言葉の一言一言がコトンコトンと胸に落ちてくるんですよね。
説得力と存在感、素晴らしいの一言につきます。

公式写真より

この『ガマ』を観るまでは《生き残った子孫たちへ》というのは歴史修正主義がジワジワと広がっている現在への警鐘かと思っていましたが、観終わった後は二度と戦争で命を落とす人が出ないようにと願いも込められているようにも感じました。


シアターイーストとウエストをジャックし、おまけに劇団とのコラボドリンクまで販売されるという夏祭り要素を楽しみつつ、戦争を追体験した三週間。
これは個人的余談ですが、私は戦争が話し合いだけで回避できるとは思っていません。(北朝鮮のミサイル、ロシアのウクライナ進行、台湾をめぐる緊張のこともありますし)
自衛のため、ある程度の軍備は必要だと思っています。
ですが、それでも憲法9条や核の非保有、自衛隊は”自衛隊”のままとすることは自分たちの戒めとして絶対に必要だと考えています。
あるとちらつかせたくなるし、使いたくなるのが人間の心理……
正直今の多数の政治家たちをみていると、残念ながらそう考えざる負えません😰
そんな現実ではあるけれど
”まだ未来は変えられる。そのために何ができるのか、何をすべきなのか”
生き残った子孫たちとしては改めて向かい合う時期なのだと、この《生き残った子孫たちへ 戦争六篇》を観て思いました。

明日は大千穐楽。
劇団チョコレートケーキの夏の闘いの最後、見届けたいです。


赴くまま書いてたらやっぱり長い長い😅
もし、ここまで読んでくださった方がいらっしゃったらありがとうございます。

こちらの作品も配信があります。
この作品は劇場での没入感が重要なファクターなので配信映像だとどう見えるのか不明ですが、劇チョコさんは映像も拘ってますのできっと問題ないと思います

■映像配信日程2022年9月17日(土)10:00~10月16日(日)22:00


#観劇  #観劇記録  #観劇感想


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