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2023.7.1/7.5 タカハ劇団『おわたり』/ シアタートップス

今回、劇団チョコレートケーキの西尾友樹さんがご出演されるということでタカハ劇団さんの作品を初観劇しました。

その夜は、 外を見てはいけない 人形を飾ってはいけない背後から呼ぶ声に、ふりかえってはいけない

ある日突然、死んだ友人の幻影を見るようになった小説家、稔梨。彼女は友人の民俗学者と共に、海沿いの小さな集落に住む霊能力者のもとを訪れる。しかし彼女が尋ねたとき、集落は年に一度の祭『おわたり』の準備に大わらわだった。『おわたり』とは、その年に海で死んだ者たちの魂がいっせいに黄泉の国へと渡ること。死者と生者が混在するひと夜。 海は闇に溶け出し、人の秘密があふれ出す。

『おわたり』あらすじ より
公演チラシ 表
公演チラシ 裏

精神的にビビりなのでお化け屋敷や映像や怪談話などのホラーはダメなくせに、文章として読むホラーや民俗学的因習は好きという、まったく見えないし感じない人間にはありがちな嗜好な私。
タカハ劇団さんが今回観せてくださった<演劇のホラー>。
一度目は体験的怖さで、二度目はジットリと絡みつくような精神的怖さと、変化するホラーでとても好きな作品でした。

・モノローグの少年話→ラスト
・どもったり、突然饒舌になったりする刹那の喋りの変わり方
・稔梨が語る裕弥の霊の存在と、紅雄の語る生きていた頃の裕弥像の違い
・閉鎖的な集落での絡みあう人間関係 etc

これ以外にも沢山の伏線が張り巡らされていて、それが紐解かれるたびにカタルシス的解放感を得られるとともに、人の念の恐ろしさにゾッと。
また、脚本だけでもかなり面白いんですが、それを表現する役者さんたちの巧みさときたら。
自分の中で、「作中にない部分の登場人物への妄想が膨らむ作品は良い作品」という実にオタクらしい基準があるのですが、今回の『おわたり』はまさにそれ。

【四方田稔梨@早織さん】
早織さんのスッとした“高嶺の花”さと儚げな美しさという相反する雰囲気と演技が、稔梨の強かなのに脆いキャラクターにピッタリはまっていて。
稔梨は一見悲劇のヒロインのようで、結構自己中な性格しているよなぁ。
紅雄の恋心に完全に気が付いていて、ある意味それを利用するしたたかさもあるし。
個人的には「良い読者」じゃなくて「良い客」って言い方が凄く嫌だなって思ってしまった。
そのせいで作品をパクった自己愛からくる罪悪感を、裕弥を愛していたが助けられなかったという罪悪感にすり替えているんじゃないかと。
(これは高羽さんの意図したものなのか知りたい)
〈7.9追記〉
千穐楽は途中までは同じ感想なのだけれど、裕弥に対する恋が物凄く伝わってきて、裕弥(にみえる刹那)に抱きつくシーンにウルッと。
自分の当日の気持ちによって変化する、それも観劇の醍醐味です。

【蝦草紅雄@西尾友樹さん】
今作の公式ヒロインである紅雄(笑)。
西尾友樹さんの演じてきた役柄としては珍しくヘタレな男性役なのだけれど、普段オカノウエノラジオで喋るような口調で舞台に立ってるのが新鮮。
でも、西尾さんではなく“紅雄さん”なんですよね。
恋人同士じゃないと否定したあと、
「ちょっとこっち向いて」
と稔梨にカメラを向けたあの一瞬の表情と口調で「あ、こいつ恋心バリバリある」と思わせるの流石。
好きな場面は沢山あるけれど、ここと
序盤で紅雄が稔梨に山中他界など民俗学的な説明をする場面。
(あの楽しそうで嬉しそうに喋るの凄くいい。好きな人に「興味持ってくれたら嬉しいな」という気持ちで自分が好きなことを語る時のちょっとした高揚感で早口になる感じ、可愛い)
「もうね、稔梨にとって裕弥は切り離せない存在になってるのよ」
とロッキングチェアーにもたれ、タバコを吸いながら斑鳩ちゃんに裕弥のことを語る場面。
そして振り向かないようにトトトと後ろ歩きした後からの稔梨の手を取り告白する場面。
これが四大個人的にいわゆる<ヘキに刺さった>紅雄名シーンです(笑)。

稔梨が手を放して紅雄だけが取り残されたあと、開かなくなった部屋のドアにもたれかかって虚ろに空をみつめて放心状態の紅雄を「なにやってんすか、先生!」と車で迎えに来る斑鳩ちゃんが見える。そして斑鳩ちゃんの顔をみた途端、虚ろな目は変わらずもうっすら哀しげな笑みを浮かべる紅雄の表情もみえる、みえるわ(妄想炸裂w)。

【阿部刹那@田中亨さん】
霊媒体質の刹那を演じた田中亨さん。
『母MATKA』『ブレイキングザコード』でも拝見したときも、独特の雰囲気と透明な佇まいが目を引いたのだけれど、今作はすごかった。
どもっていたのが急に饒舌になるというわかりやすい変化だけじゃなく、黙っている場面でも「あ。今、違う人が入ってる」というのが分かるのです。
刹那は祖母の翡翠とは違い霊が見えて声を聞ける霊能者ではなく、霊に憑かれる霊媒体質なんだろうなぁ。
貞広との二人の場面での手を取られたときの表情、2回目に観たときは怖さに鳥肌立ちました……。
ホラーと美しさは紙一重なのかもしれないと思わせるラストシーン。
本当に素晴らしかったです。今後の活躍も楽しみ。

【斑鳩亞紀@宇野愛海さん】
1995年のお話だから、ほぼ同世代なんですよね斑鳩ちゃん。
ズバッという物言いに動じない性格なギャル系助手は今作のヒーロー枠(笑)。
でも文句を言いつつ、ちゃんとフィールドワークとしてお酒の席に参加して酔っ払いの田舎のオジサンたちにお酌することもできる、しっかりした良い子で。ジトっとした空気が漂う作中での癒し枠でした。
稔梨への視線や言葉から良く思ってないのはビシビシ伝わってくるのに、でも紅雄の恋は応援する。ほんと、先生大好きなんだろうなぁ。報われてほしいなぁ……なんて。

5日のアフタートークで登場した斑鳩ちゃんの髪型と服装を解いた宇野愛海さんは、あたりまえですが斑鳩ちゃんの喋り方ではなくもっと落ち着いた雰囲気。でも、隣の西尾さんと仲良く笑いあう姿に、斑鳩ちゃんと紅雄さんをダブらせてちょっと萌えを感じてしまいしたw

ちなみに6日のアフタートークに参加した方のレポで亞紀の裏設定が書かれていたのですが、
亞紀のおばあちゃんは力の強いクリスチャンで一番霊的なものから守られている。だから、霊障も一人だけあっていない。亞という文字に十字架がはいってる
だから亜ではなく亞なのですね。そんな伏線あったとは(*゚ロ゚)

【堀口寿々子@鈴政ゲンさん】
他の土地から集落に嫁いできた寿々子。明るい口調から空気読めない天然ちゃんかと思いきや、ちゃんと表情を見たらどこか心が死んだよう目で……。
一番最初に怖いと思った登場人物でした。
霊障に巻き込まれ産まれそうになる子に“入って”くる夫に
「でてけええええええええええええ」
と叫んだ寿々子。
この時「嫌なものは嫌」とハッキリ口にだしたんですよね、そういえば。
ピカっと光った演出は、怨霊化していた夫・安さんが浄化された光だと信じたいとこです。

【堀口光義@土屋佑壱さん】
一ミリも同情の余地もない、ある意味一番わかりやすい悪で、ホラーやミステリーだと真っ先に死ぬ役な光義。
斑鳩ちゃんの「圧が強い」じゃないですが、“これぞ田舎の名士といわれてる立場のオジサン”を見事に演じてくださってました。
貞広に対する暴力(実際は寸止めなのだけれど、貞広役の猪俣さんとの息のあった動きのリンクで実際にあたってるようにみえた)や扇風機のコードで自分の息子(舞台上では田中亨さん)の首を絞める場面が怖すぎて……😣

【常磐純@神農直隆さん】
作中一番のゲスで、作中一番怖いかったのは?聞かれたら真っ先に「常磐の笑顔」と挙げます。
マジで「吐き気をもよおす邪悪」(by ジョジョの奇妙な冒険)なキャラクターで、神農さんが出演している別作品をみていなかったら
<神農直隆=ゲス邪悪>
と役と理解していても脳にインプットしてしまいそう……と思うくらい真に迫った演技でした。
寿々子と庭で会話する場面の悪びれのなさと、貞広のような分家の下の人間や“おわたり”で亡くなった人たちをナチュラルに虐げる言い方、そして稔梨を脅迫する場面での「お返事ください」の軽い(そういう弱みにつけこむ事、やりなれてるかのよう)言い方etc.
作中でも翡翠さんに「分家筋で一番まともなのはお前」と言われていたけれど、ゲスな中にも今まで挫折もなく要領よく生きてきた育ちの良さを感じさせる笑顔の奥底に隠れたサイコパスさ。
めっちゃ、怖い!!!!
でも、声と顔が格好いいので、つい目がいってしまう自分が憎い()。
(お仕置きシーン(笑)で常磐が挙げる女性の名前に自分の名前あって🤣)

余談ですが、作中で常磐がハイライトを吸ってたのちょっと違和感あったんですよね。ハイライトって自分のお祖父さん世代が吸ってたイメージで。
集落にいた中学時代から吸っていたから(集落の売店ではハイライトやわかばやホープしかなかった)とか?
40~45歳くらいかと思ってるのだけれど、実際常磐って何歳の想定なんだろ。
もし機会があったら、このタバコの銘柄はどう決めたのかと年齢設定は聞いてみたいです。

【柏野貞広@猪俣三四郎さん】
作中で最も不憫な貞広を演じた猪俣さん。
分家でも下なので光義や常磐に虐げられ、更には生きていた頃の瑠璃にも霊としての瑠璃にも掌で踊らされてる感が本当に不憫。
目の焦点がどんどんおかしくなっていって、さらに
「あ、瑠璃ちゃんそこにいたんだ」
と銃で自らの頭を打ちぬき倒れる姿に、胸がキュッとなりました……。

【阿部翡翠@かんのひとみさん】
霊能者であり、阿部本家の当主である翡翠。
ただのヒステリックなババァかと思いきや、話が進めば進むほど哀れな人物だということに気づくんですよね。
「何百年も前の人間がしでかしたことで私たちが呪われなければならんのじゃ」
と言った口で
「次はお前の番だった」
と自分と集落を捨てて出て行った娘を呪う。
そんな悪の部分と、外部の人間が“おわたり”に巻き込まれないように忠告する善の部分(口はクッソ悪いがw)。
自分の中にもそういう両面があったりするので、気をつけねばとも。


あと、役としては登場していないけれど
【刹那の母親・瑠璃】
生きてるときも死んだあとも、自分に対して恋心を抱いている男性を悪意なしに利用するところ(稔梨が「ペンより重いものをもったことがないの」などとサラリと言う場面があったけれど、瑠璃も本家のお嬢だからきっとナチュラルな“上からさ”がある人物だったはず)、なんとなく稔梨ととても似た人物だった気がする。
【松本の少年】
私、読解力なさすぎて、ラストシーンで刹那君に入っていたのが彼だと分からなくて💦(観劇後にフォロワーさんに教えてもらった)
松本で会った彼がなぜ伊豆の “おわたり”で海から上がってきたのか。
もしかしたら松本から伊豆にきたときに海難事故にあった? 
ってか、いつから稔梨に憑いていたの?? 
と考えるとホラー味が更に増します……。
〈7.9 追記〉
おわたり千穐楽のあと。
音楽に疎すぎてオルゴールがシューベルトの野バラということも気がつかずだったのですが、フォロワーさんのツイートを読んで三番の歌詞をググってみたら恐怖でゾワッと。
 野バラは抵抗して彼を刺した
 痛みや嘆きは彼には効かず
 野バラはただ耐えるばかり
いやああああーーーー💦💦


つい、登場人物のキャラクター像に重点を置いてしまいましたが、
音響や照明そして美術と、総合芸術としても見ごたえある作品でした。
明日(といっても今日ですが)の千穐楽。
縁があってチケット譲ってもらうことになったので、『おわたり』2回目のおかわりしてきます。

でもめちゃめちゃ、円盤がほしい……。
あと、タカハ劇団さんの次作も観たいので予約せねば。


#観劇  #観劇記録  #観劇感想

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