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山田夏子さんに、組織開発の取り組みについて色々と聞いてみたら、デザインを作り上げていくプロセスとの共通点が見えてきた。

クラウドボックスが出会ったひとVol.5
[対談]
山田夏子(株式会社しごと総合研究所 代表取り乱し役社長) ×
徳永健(クラウドボックス代表・ご当地かるたプロデューサー)

「グラフィックファシリテーション」をご存知でしょうか。
言葉では伝えきれない思いや雰囲気を絵や線を使って共有することで、共感を生み、話し合いを活性化し、自ら動きたくなるエネルギーを作り出してくれる「魔法のツール」(山田夏子著・グラフィックファシリテーションの教科書/かんき出版 より)。
この「グラフィックファシリテーション」の手法を使って、小さな組織から大企業まで、組織開発やビジョン策定、リーダーシップ事業などに携わられているのが、山田夏子さんです。
クラウドボックスでは、山田さんが設立された株式会社しごと総合研究所(しごと総研)のWebサイトを制作させていただいたことをきっかけに、徳永がグラフィックファシリテーション講座に参加するなど、ご縁が続いています。しごと総研のウェブサイトについて、グラフィックファシリテーションのこれから、演劇やデザインの仕事との意外な共通点などについて、たっぷり語り合いました。

2023年3月7日 クラウドボックス オフィスにて/ 文・竹野 恭子


しごと総研のWebサイトは、組織開発の現場で「お客さんと目的をひとつにする」ための大事なツールになっています(山田)。

徳永 クラウドボックスでは、グラフィックファシリテーション協会のWebサイトを2017年に、その翌年にしごと総研のWebサイトを制作させていただきました。

山田 完成したときは本当に嬉しくて、とても気に入っています。あの頃はグラフィックファシリテーション協会を設立して代表理事になって、ちょうどNHK『週刊ニュース深み』に出演していたときでもあったから、“グラフィックファシリテーションの人”っていう印象がすごい強くなっていて。
でも「グラフィックファシリテーション(=以下グラファシ)は一つのツールであって、私としては、組織開発やチームビルディングをちゃんとやりたいという想いが根底にあったから、そっちをちゃんと表に出したWebサイトを作ってもらえたのが、めちゃくちゃ嬉しかったんですよね。

徳永 ありがとうございます。完成までにずいぶん時間かかっちゃいましたけどね。当時はわりとねちっこく(笑)、何度も打合せしては持ち帰りを繰り返して、半年くらいかかりましたね。

山田 そうでした、そうでした(笑)。

株式会社しごと総合研究所 WebサイトのTOPページ

山田 組織開発やチームビルディングをやっていく中で私が常に感じているのは、「どうせ」とか「しかたなく」という気持ちが存在して、職場が曇ってしまうことが一番問題だということなんです。そこをちゃんとすくい上げて、見える化して「こういうふうなことってあるよね」って認知されていくことが、職場の新陳代謝を良くしていくと考えていて。
「なかなか言葉にできないけれど、職場の皆が共有しておく必要があること。それが“見える化“されていくのが大事」という部分を、見事にあのWebサイトが体現してくれたんですよね。
組織開発の現場へ行って、最初に自己紹介と事業の説明をするときに、このWebサイトを投影して、メッセージのページに書かれていることを読み上げています。そうすると、参加者の人たちも空気感と意図を理解してくれるので、私にとっては組織開発の導入の、一番大事なところを、毎回Webサイトに一緒にやってもらっているっていう感覚です。

徳永
 なんか嬉しいですね。コピーライターさんにも報告しておこう。

山田 組織開発の現場って、当事者たちはある意味、身内の恥をさらすような想いを抱いているところがあって、私としては、組織が見せたくないような部分を明らかにしていかなきゃいけない。最初はみんな鎧を着ていて警戒している。そこに私が、「どうもどうも。悪いようにはしませんから」って言って入っていって、組織開発ってどうどういうことなのかを説明するときに、あのWebサイトの絶妙なトーンや書いてあるメッセージが、私自身のキャラクターともマッチした状態で伝えることができるので、私にとって大事な相棒のような存在になっています。

徳永 イラストを誰にお願いするのかも、ものすごく悩んだのですが、花くまゆうさくさんにしてよかったですよね。マッチしましたね。

山田 このWebサイトを初めて見たときって、「何言っちゃってるんですか?」感もあるんだけど、そこに花くまゆうさくさんの絵があることで、管理職や次期リーダー層の方々にも絶妙に響いてくれるんですよね。マジでありがたいです。

徳永 この冒頭のメッセージの中の、「間もなくやってくる未来には、論理的思考でAIにかなう人はいなくなります。」って、この5年で本当にリアリティを持ってきましたね。

山田 そうですね。しごと総研のWebサイトが完成したあと、この5年ぐらいで、何百社という企業の組織開発の仕事をしてきました。各企業ごとに投影資料があるんですけど、その資料の冒頭は、どれもこのWebサイトの画像とメッセージを載せています。まず、メッセージを読み上げて、しごと総研というのは「働きたくて働いている人を増やすことをやってます」って言うのを、最初に話すんです。

徳永 「こういうことをしに来た人」というのをわかってもらうってことですよね。

山田 はい。そして同時に「グラフィックファシリテーションという手法を使って組織開発をやっています」ってことも伝えます。これを言っとかないと、ただのお絵かきおばさんとしか思われないので(笑)。「このためにやってるからね」っていうのを最初に伝えるには、このWebサイトを使って説明する以外、私には術がないのですごく大事なツールなんです。新たな企業に伺うたびに毎回読み上げるから、私も気持ちが入ります。

徳永 読み上げることで、毎回自分のミッションをとらえなおして、お客さんと目的を一つにする役割になっているということですね。すごい。

株式会社しごと総合研究所 WebサイトのTOPページに掲載されているメッセージ
コピーライティング協力/川島 孝之(RIPPLE Inc.)
▶メッセージ全文はこちら


学校の先生をやっていた頃から気になっていたのは、
人の関係性がパフォーマンスに影響を及ぼすということ(山田)。

徳永 もともと、「バンタンデザイン研究所」で先生をされていて、そこから独立して「しごと総研」を設立されたわけですけど、バンタンにいた頃から、組織開発をやりたいと思っていたのでしょうか?

山田 学校の先生をやって、学生たち一人ひとりの成長やパフォーマンスの発揮を見ていったときに、個人の能力も大事なんだけど、人間関係が大きく影響してるということを実感したんです。「なんで急に課題やらなくなっちゃったの?」とか、「何か煮詰まってるよね」ということを感じて、気になってクンクンしていくと、クラスや家族との関係性とか、バイト先とかが、ピュアな20代前後の若者にはものすごく影響していて、成長やパフォーマンスの発揮に大きく関わっているなあと気づいたんです。
だから、やれることはやろうと思って、受け持ちクラスの関係性づくりとか、職員室の先生方の関係性づくりとか、そういうことをバンタンの中で始めたら、結果を出し始めたんですよね。

徳永 具体的にはどういったところが変わってきたんでしょうか?

山田 関係性って金魚鉢の中の水質みたいなものなので、例えば活きの良い金魚が泳いでいても金魚鉢の水が濁っちゃってると、生き生きと泳げないじゃないですか。学校の中の水質を良くするイメージで、関係性について色々なことをやってました。専門学校って就職率がすごく大事だったりするんですけど、校内でもなかなか難しいと言われるクラスの受け持ちだったんですが、就職率が一番よくなったり。関係性が変わっていくと、個々の主体性が変わっていく感じがあって、みんなすごく変わりました。
その後バンタンで、人事部門の教育の責任者になって、授業づくりやクラスづくりを考えていったり、関連校の先生方に教える仕事などをするようになったんです。そうしているうちに学校だけじゃなくて、外の組織にも関わりたいって思いはじめて、独立してチームビルディングの会社を作るに至ったわけです。

徳永 ファシリテーターを意識し始めたのはいつ頃だったんですか?

山田 バンタンにいたときは、ファシリテーションという言葉は自分の中にはなかったと思いますが、「何かモノを創りたい、表現したい、生み出したい」という強いエネルギーを持った若者を、在学中の2〜3年間で社会と繋がり自分を活かす人にするのが仕事だったわけで。彼らにまず「社会に出たい、働きたい」と思ってもらうこと。それを学生たちのクリエイティビティと繋げていくためにどうファシリテートすればいいのかは、いつも考えていたと思います。

徳永 仕事としては、ずーっと繋がっているという訳ですね。

山田 本当にそうですね。バンタンを辞めたあと研修会社に登録して、講師として企業研修を担当させてもらったんですけど、学生と比べると講義をするのは格段楽なんですよね、皆さん言うこと聞いてくれるから。でもよくよく見ていると言いたいことや本音を言えてないとか、そもそも何も言わないようにしているんだってことがわかって。「社会人の言わない感じ」がやばくないか?って思い始めて、もうちょっと突っ込んで組織開発の方に行きたくなったんです。

徳永 学生だと、授業や人の話は聞かないけど、自分の中に、自分なりのストーリーをちゃんと流してそうな気がしますよね。大人は、聞いてくれるけど、自分のストーリーを持っていないイメージがある…。

山田 そうなんですよ。社会人は、何か自分に蓋してるような感じがあるというか。

徳永 そうした気になる部分を明確にしていくわけだから、ファシリテートする以外の時間も膨大ですよね?

山田 調べる時間も、ヒアリングする時間もたくさんとるし、現場を見せてもらったりもします。その中であれっ?っていう空気感を感じることもあります。ここ数年はコロナ禍でワークショップもほとんどオンラインでしたけど、その前までは基本リアルでしたから、受付や社内の雰囲気とか、気になる部分があると、クンクンやってました。

オンラインのグラファシで、「心を通わせるために何ができるのか」を
皆で自分ごとにしていく(山田)。

徳永 山田さん、嗅覚の表現よく使いますよね(笑)
コロナ禍の時期に、「グラフィックファシリテーションはオンラインの方がいい」みたいなことを、よくSNSでつぶやかれていたじゃないですか。でもオンラインだと、そういう匂いを嗅ぎ取るのは難しいと思うんですが、オンラインの何がよいと思ったんですか?

山田 「オンラインのメリット」っていう部分で語ると、参加者はみんな正面を向いてくれているし、自宅から参加したりしているので、変に企業人としての鎧を着てないんですよ。画面ごしの背景や表情から本人らしさがもれているというか…個々が本音を言うのも早いんです。

徳永 座席の後列で、顔がよく見えないとか関係ないですしね。

山田 でもオンラインだと、個々の思惑が違う状態で参加してくる可能性が高いので、始める前に、「なぜ今日この話し合いをする必要があって、なぜ今日このメンバーで話す必要があって、なぜ今日あなたに来てもらったのか」を伝えられるよう、下準備には時間をかけます。
リアルだったら空気感でなんとなく話しを合わせていけるんだけど、オンラインだとそうはいかなくて、事前のさばきがものすごい大事になりました。
でも逆にこの作業は、リアルであったとしてもやった方がいいということがすごくよくわかって、私たちが非言語だったり視覚や聴覚以外のところで、無自覚に頼ってたものがあったんだなっていうことに、気づかせてもらう経験でした。

徳永 オンラインのグラファシをしたことで、リアルの良さも再確認でき、オンラインで得たスキルをリアルに持って帰ってきたら、リアルもよくなったという循環が生まれた。

山田 もちろんそうなんですけど、コロナ禍が落ち着いたらワークショップもリアルに戻るという前提ではなく、オンラインを始めとしたこの先のコミュニケーションについて、深く考えるきっかけになったことの方が大きかったです。

徳永 それは、オンラインとかテクノロジーを使った上でのグラファシのあり方ということになるんでしょうか。

山田 そうですね。オンラインとかテクノロジーって、距離を越えてとか、車椅子だったり寝たきりだったりとか、お互いの障害を越えてでも顔を合わせてコミュニケーションをとるために開発されてるじゃないですか。こうしたツールの中で、「人間の機能を何のために使いたいと思っているのか」というところから考えて、そこをもっと頑張らなきゃいけないと思ったんです。
コミュニケーションツールがこれだけ出てきている中で、わかり合えない人たち同士がわかり合おうとするには、「オンラインだから駄目」とか、「リアルだからいいよね」って言ってたら駄目だと思うんです。「オンライン上で心を通わせるためにはどうしたらいいのか」ということを、研究したり皆んなで教えあった方が、この先の、人が人をわかり合ったり、対話を深めていったり、物事を合意形成していくためには大事な要素なんじゃないかと考えたんです。

徳永 「オンラインでミーティングをやりながら、言葉になりきれていない想いや雰囲気のグラファシを見て考える」。これ、ファシリテーションを受ける側も、初めての体験になったわけですよね。「オンラインでこうしたコミュニケーションができるんだ」って、コロナ禍になったことで皆、新たな発見をしたと思う。

山田 そうなんです。オンラインは視覚と聴覚しか使えないからこそ、わかり合うためには何をキャッチして、何をコミュニケートして、どういうことがオンライン上でも、みんなが納得するような合意形成になりうるのか。私たちももっと研究しなきゃいけないと思ったし、わかったことをちゃんと伝えなきゃいけないと思ったんですよ。結局グラファシって、当事者意識を広げることだから。そう考えると「オンラインツールを生かしながら当事者意識を広げる」っていうところを諦めちゃいけないと思っています。

徳永 オンラインのグラファシをするときに、「今、この時間で、皆で探しに行くんだよ」って、まず共有することで、そのコミュニケーション効果を確認しあえるってことですね。

山田 お互いの自覚を上げながら、「グラファシはオンラインでも可能」ということを示して、オンラインでグラファシのできるファシリテーターを育てていく方が、これからの世の中にとっていいと思ったんです。


グラファシのプロセスと、デザインの仕事のプロセス。
似ていると思うんです(徳永)。

徳永 オンラインでワークショップをやるようになって、下準備に時間をかけるようになったと言っていましたが。

山田 お客さんに向けた嗅覚を使うところに、ものすごいエネルギーを使うようになったという感じですかね。

徳永 下準備って、地道な作業というイメージだけれど、そこにもやっぱり“嗅覚”という言葉が出てくるんですね。

山田 地道な情報収集というよりも、その会社を好きになるために嗅覚をめぐらす感じです。恋愛に例えてみると、好きな人がいると「今何してるかな」って考えたくなるじゃないですか。それと同じ感覚で、お客さんに想いをめぐらせて、妄想できる状態を作っていきます。そうでないと、グラファシするときに、その人たちの心情を描けないと思うのです。

徳永 クラウドボックスは自分たちのことを「ラブレターの代筆屋」って言ってるんですけど、それと似ているのかな。ラブレターを書く人の気持ちになって、届けたい人を好きにならないと代筆はできないわけで。

山田 すごく似ていると思います。

徳永 僕は20代の頃、演劇(脚本・演出・俳優)をやっていたのですが、その頃に身につけたものが、すごく自分のデザインという作業に反映されてる気がしていて。例えば脚本を考えるときって、舞台上に5人キャストがいたら、5人の気持ちがちゃんと嘘なく流れてなきゃいけなくて、そのためにはどんなセリフを与えなきゃいけないのかというところを考えていく。舞台を創りあげていく過程で登場人物の数だけ、「複数の視座で物事を見ながら考える」といったことをやっていたし、俳優をやるときはその役の気持ちになっていく。それと似た感覚で今は、お客さんのそれぞれの想いをカタチにするということが日常になっていて。

山田 本当、同じですね。

徳永 演劇時代に「様々な視座の感情を重ねる」といった作業をやっていたから、デザイナーになったのかもしれないなぁと思ったりするんです。

山田 すごくわかります。例えば老舗の同族経営の会社さんの組織開発をすることになったとして、下準備の段階で私が何をするかというと、まず長くその会社に勤めてきた人たちの感覚を一旦自分の中におろして、この人たちはこのこの状況をどう捉えてるだろうか、っていうのを味わってみる。そして今度は新しい人たちの気持ちや感覚になってみる。それぞれの立場を味わったうえで、「それぞれどうしてこういう主張をしているのか?」という背景を想像します。これ多分演出家や役者さんがやっていることと全く同じですよね。

徳永 最初に個々のキャストに感情移入することで、まず演出家(ファシリテーター)が、その組織のモヤモヤしたストーリーがなぜ流れてしまっているのか?というところの当事者になるわけですよね。皆に「今起きてるストーリーこれだよ」っていうのが伝わると、その次の場面が見えてくる。

山田 その組織のトーンとか、ずれ具合が見える化されて、何も言わずに諦めていたものをもう1回あぶり出して、自分たちで取り扱えるようにまず自覚してもらう。

徳永 皆、舞台上にいるキャストであると同時に、客席側から見るとこう見えてるよ?っていう部分も伝えるんですか?

山田 最終的なワークショップでやっています。個々の感情のずれとか、違いを「そういうことだったのか!」って腑に落ちるかのように、客席側から見てもらうことで、自分たちのチームを良くしていくことの主体性に火をつける。彼らが自ら火がつかない限りはやっても意味がないから、私から戦略的に「こうなるといいよ」とか「こうしてください」っていうことはほとんど言いません。この仕事を始めて初めのうちは、「私がこの組織をどうにかする」って思っていたところがあったんですけど、途中で当事者よりも私がチームビルディングを願ってしまっている状態が一番良くないなっていうことに気がついたんです。それからは、主体性を上げていくところに焦点を当てて取り組むようになりました。

徳永 組織開発を始めた頃から、すでにグラファシという手法を使われていたんですか?

山田 バンタンで学生にプリントを配ったり、黒板にお知らせを掲示するとき、文字だけだと学生たちはキャッチしてくれないなぁ…という実体験があって(笑)。なので、私は終始手書きで「ここ見て!」とか、「指をさす絵」を描いたり、視覚に訴えることをやっていたんです。組織開発をするようになってからも、基本絵にしたり、色をつけたりしながら説明していたのは昔からですね。

徳永 グラフィックファシリテーションっていうものは、昔から存在してたわけですよね。

山田 発祥はアメリカとかヨーロッパとかでしょうね、きっと。欧米は、色んな人種の人たちが集まっているので、一人ひとりがちゃんと自己主張をするじゃないですか。その自己主張し合うことを束ねるのに、壁に書きながらまとめていくということをやっていたみたいなんです。でも日本人の場合は基本自分の主張や本音を言わないので、束ねるよりも前に自分の意見を言ってもらうところがすごく大事になってくる。だから状況や前提が違うぶん、グラフィックファシリテーションで描くものが全然違ってくるんですよ。言ったものを要約するのではなく、言葉になっていないものを描いていく感じなんです。

徳永 山田さんのやっているグラファシは、夏子さんのオリジナルということになるんですかね?

山田 そうなんです。私の中でのオリジナル。言語化されたものを描くグラフィックレコーディングではなく、ファシリテートをやるというところで、「グラフィックファシリテーション」という名前にしています。
「ファシリテーショングラフィック」という名前のものも、他にあるのですが、どちらかというとすでに言語化ているものを整理して見える化していく感じで、私の場合はそうではない。まだ言葉になってなかったり、ぐちゃぐちゃしていることを、ぐちゃぐちゃ描いて見せることで「自分たちがぐちゃぐちゃなんだな」って本人たちに自覚してもらったり、その複雑さや機微に気づいてもらうためにやっています。

徳永 僕も仕事の中で、作ってみたいものがあるんだけど、まだモヤモヤして形になってないものをお客さんから聞くときに、よく絵にしながら打合せするんですよね。ファシリテーションとは違いますけど、絵に描くとこういうことですよね、みたいに話を進めていく。

山田 同じだと思いますよ。デザインシンキングって例えば「車を何台、どうやって売るか」って戦略的な話じゃなくて、「この車に乗る人に、どんな気持ちになって欲しい」とか「この車が街に走ることで、街にどんな文化が生まれるのか」とか、「このクルマの持ってるニュアンスとか雰囲気って一体何なのか」を、デザイナーはちゃんと潜って考えている。人が何かを生み出すときのひらめきとか、アイディアが生まれる瞬間って、頭で考えることじゃないんですよね。グラファシも、同じことを対話の中での合意形成を通じて、やろうとしているんだと思うんです。

対談の終わりに、お互いの似顔絵を描く(無茶振りしました)


話は尽きないのですが…。

その後も山田さんが、様々な企業で組織開発をするようになったきっかけや、グラファシをするときに使っている道具の話、子育ての中でグラファシを活かしてきたこと、自分が住んでいるマンションを子どもたちにとっての「ふるさと」にする話などなど、『対談・その2』が書けるくらいお話は盛り上がったので、またの機会にぜひ公開したいと思います。

この春、女子美術大学の特命教授に就任され、新たなフィールドで若い世代の方たちとの対話を楽しみにされているという山田さん。

山田 『共創デザイン学科』という、新しく設立された学科になるのですが、多様な領域の人たちで「新しい価値を創造することができる人」を育んでいくことになります。
バンタンで教育に携わり、「教育で感じたことって組織にもつながっているな」と思って企業の組織開発をやるようになり、今度は組織で体験し、感じてきたことを持ちながら、また教育に戻ってこられたというのが、私の中では、やっと学校に恩がえしできるような想いがあって嬉しいんです。

徳永 山田さんとは全然違いますけど、僕も昨年何度か「かるた作りを通じてのコミュニティづくり」といったテーマで、学生や社会人の前で話す機会があって。自分の経験値を登壇して話すという、新しい体験をしたんです。大変だったけど、意外と自分には合っているかもと思ったりもしたんですよ。山田さんとは今までホームページ作ったりとか、僕が教わりに行ったりとかっていう形でやってきたけど、一緒に何かをするってことは今までなかったので、何かやれるといいなあって思います。

山田 わー、面白そうですね。ビジョン作りとかも、私たちは創発のフェーズで関わることが多いので、トクさんと組んだら最終的なところまで一緒に伴走できるのは、ワクワクしますね

徳永 学生さんとかも交えて、わちゃわちゃやるのも楽しそうですね。若い人たちと、もっといろいろやりたい。

山田 ぜひぜひ。

徳永 ありがとうございました。


徳永健 画/山田夏子さん似顔絵
手にしているのはグラファシで山田さんがいつも使用しているペン
山田夏子 画/徳永健似顔絵


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