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地域でBCPを共有すると効果が100倍になる理由

介護施設では、自然災害に備えて業務継続計画をたてますが、その内容を地域住民や関係機関と共有することで、得られる効果が100倍になることをご存知でしょうか?
「なにを根拠にそう断言するのか」と疑問を抱く方もいるでしょうが、災害に見舞われた時こそ地域との互助や日ごろからの「顔が見える関係」が必要不可欠となります。
介護施設は、災害時でも支援を止めないBCPを地域に周知しておくことで、地域の安心感や信頼を築くことになります。

なぜ介護施設でBCP作成が必要か

そもそも、なぜ介護施設にはBCPが必要なのでしょうか。それは、介護サービスを利用している高齢者の中には、日ごろから生活全般に支援を必要としている人が多く、災害などでサービスが止まると生命や身体に大きな影響を及ぼしかねないからです。
そのためBCPでは、ご利用者やスタッフの安全を守ることはもちろん、最低限の資源を活用して事業を継続する計画を定めなければなりません。

国は近年頻発する災害に備えて、令和6年度の介護報酬改定において全ての介護サービス事業所へBCP(業務継続計画)の策定を義務化としました。同時に介護サービス継続に対する脅威として、感染症対策も位置づけて両者への具体的な対策の必要性を示しました。

地域とはだれのこと?

介護施設にとって災害時に地域と協力して避難したり、復旧・復興に向けて協働したりすることは重要です。令和2年に国が示したガイドラインにおいても、地域との連携やネットワークの必要性が記載されています。

とはいえ、「地域」と言っても、地域住民や自治会組織、民生委員や他機関など様々な人たちが想定されます。また市区町村や町内によっても組織や規模が異なるため、地域を定義することは困難といえます。

令和5年9月に厚生労働省が発表したBCP策定状況調査によると、回答した介護事業所1,346箇所のうち「災害対応に関する基本方針」は90.3%が策定済みなのに対して、「連携体制の構築(地域のネットワーク等の構築・参画等)」は、47.8%、「連携対応(共同訓練等)」は35.1%と半数が未確定であることが分かります。
地域とのネットワークをどうやって築けばよいか、どのように連携すればよいか、介護施設の抱える大きな課題といえます。
<参考:介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業

地域でBCPを共有する3つのメリット

災害に備えて住民や地域組織、関係機関は何らかの対策をとっているところがほとんどでしょう。理想的なのは、災害時にお互い協力して助け合うことですが、実際は同じ地域であっても、想定している被害が異なっていたり、被災時の役割が共有できていなかったりすることも考えられます。

とはいえ、せっかく災害に備えてそれぞれ準備や計画をしているのであれば、地域の防災計画や自施設、他機関のBCPをお互い共有しておくことで、得られる利点は多大にあります。

地域交流は健全な施設運営につながる

介護施設にはもともと地域交流スペースや地域住民と共同で行事をおこなうなど社会資源としての機能が備わっています。介護施設は、日ごろから地域住民との交流を通じて、施設の様子や特徴を地域住民に理解してもらい、風通しの良い健全な施設運営につとめています。施設の雰囲気や特徴を地域住民に周知するところから、交流の第一歩は始まるといっていいでしょう。

最近では地域共生社会(高齢者、障害者、子育て世代など多様な地域住民が主体となり住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会)の推進施策として、地域交流スペースを「防災拠点型地域交流スペース」として整備するための補助金が出ていますので、興味のある方はご覧ください。
<参考:次世代育成支援対策施設整備交付金における地域福祉の推進等 を図るためのスペース(地域交流スペース)の整備について

要介護高齢者の安全確保ができる

介護施設として地域住民に建物の様子や設備、場所を発信しておくことは、施設が福祉避難所として指定されている場合、重要な役割となります。福祉避難所とは、要配慮者(主として高齢者、障がいのある人、乳幼児その他の特に配慮を要する人)のための避難所のことで、一般の避難所では生活することが困難な要配慮者が、施設避難所にて特別な配慮が受けられるなど、要配慮者の状態に応じて安心して生活ができる体制が整備された施設です。

現在福祉避難所は福祉施設に指定されている場合が多いです。なぜなら、もともと福祉施設の建物はバリアフリー設計や福祉用具の完備など高齢者にとって過ごしやすい環境となっているため、災害時であっても安全が確保されているからです。
自施設が福祉避難所となっている場合は、BCPにその旨記載しておき、入所している高齢者だけでなく地域で暮らす高齢者の安全を守れる機能があることも周知しておきましょう。

地域コミュニティの強化と信頼構築のきっかけになる

介護施設としては、地域住民に「介護施設の高齢者も自分たちと同じ地域の仲間だ」という認識をもってもらえると、大変ありがたいです。著者が所属している介護施設は、30年前から地域住民と交流があり、お花見や夏祭り、文化祭など地域交流行事を毎年実施しています。働いているスタッフには同じ地域に住んでいる人がいたり、ご利用者の中には地域から利用されている方がたくさんいるので、比較的地域での知名度はあると感じています。また、施設の特徴もなんとなく介護が必要な高齢者が沢山暮らしている、という程度に認知されています。

施設が地域の一員として共存するためには、建物がおしゃれ、スタッフがイケメン、ということもあるでしょうが、なにより地域住民にとって頼りやすく気心の知れた隣人として、困ったときにはお互いで助け合える信頼関係を構築することだと思います。
地域の方から「私も家にいられなくなったら、この施設に入所させてね」と言われるのが、施設スタッフにとって一番の誉め言葉です。

共有するための方法

BCPの内容は、専門的な内容や施設の細かい事情なども記載されていることがあるので、必ずしもすべての内容を地域で周知、共有しておく必要はありません。また、地域にお願いしたいことを一方的に書面で渡すよりも、それぞれの立場で何ができるのか、何をお願いしたいのかを明確にするプロセス(過程)こそがもっとも重要となります。
この章では、具体的な共有方法を二つご紹介します。

地域ケア会議を活用する

地域ケア会議は市区町村、または地域包括支援センターが主催する会議です。開催テーマは、個別の事例検討から地域課題の共有、政策形成など多岐にわたります。

なかには地域防災や関係者のネットワーク構築を目的にした地域ケア会議も開催されているので、地域住民や自治組織、関係機関など様々な人があつまり協議するには適した会議といえます。
開催の必要性を感じたら、市区町村または地域包括支援センターに相談してはいかがでしょう。


<出典:地域ケア会議について|厚生労働省

合同防災訓練を実施する

介護施設では年に2回以上の避難訓練が義務付けられています。またBCP策定が義務付けられてからは、全ての介護サービス事業所で年1回以上訓練や研修をおこなう必要があります。
下の表は、令和5年9月に厚生労働省が発表したBCP策定状況調査のなかで、災害対応における地域との連携を尋ねた質問への回答です。

施設の防災訓練に地域住民が参加しているかとの問いに、「参加も求めておらず、地域住民の参加はない」と48.7%で最も高い割合となった(図表37)。その理由は「感染症対策により大人数での訓練が困難」が51.2%、「職員が確保できない」が40.2%となっており(図表38)、なかなか地域住民と一緒に合同訓練するには至っていない状況が分かります。


とはいっても、事業所の種別で住民の参加状況を比較した場合、施設系サービスよりも複合系サービス(小規模多機能型居宅介護)のほうが参加している率が高いことが分かりました。その理由の一つとして考えられるのは、複合系サービスのような地域密着型といわれる事業所には、数ヶ月に1回(種別により頻度は異なる)の地域住民を交えた運営推進会議の開催が義務付けられており、日ごろから施設の運営や課題を共有する場があります。そのため、比較的地域交流の機会が少ない施設系に比べて、複合系サービスではBCPの発信や避難訓練の合同開催など声をかけやすいのではないでしょうか。


<参考:介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業

まとめ

施設のBCPを地域で共有するために最も大事なことは、BCPの中に地域と協働する内容や災害時の各機関の役割を明確にしておくことです。

一方的に困ったときだけ施設が地域にお願いするのではなく、日ごろから地域と密着した関係を築きつつ、お互い(代表者レベルの関係だけでなく)が顔の見える関係を広げていくことが重要です。
つまり、地域にある「良く知らない施設」から、住民の身近にある「みんなの施設」として認知され、困ったときにはいつでも頼りにされる施設づくりがBCPの効果をさらに高めてくれるといっても過言ではありません。

執筆者: 柴田崇晴
日本介護支援専門員協会 災害対応マニュアル編著者

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