見出し画像

介護施設におけるBCP運用上の課題

BCPを「絵にかいた餅」にしないためには、適切な運用がその効果を左右するといっても過言ではありません。つまり策定が義務化されたからといって、BCPが必ずしも災害時に役に立つか、さらに言えば事業継続につながるかどうかは、別の問題といえます。

今回の記事では、主に介護施設で策定されたBCPを運用する上で欠かせない3つのポイント、施設の規模に応じた注意点などをまとめて紹介します。

BCP運用に欠かせない要件とは

令和3年の介護報酬改定で登場したBCP(業務継続計画)の存在は、それまで自然災害で被害を受けたり、業務の中断を余儀なくされたりしていた介護施設にとっては、「目からうろこ」となったことでしょう。

とはいえ、あなたの施設で、BCPの存在を知っている人はどのくらいいるでしょうか。もしかすると、災害訓練や研修が出来ていない施設では、未だに防災マニュアルとBCPの違いを分かっていない人もいるかもしれません。

災害時にBCPが適切に稼働し、業務や利用者、スタッフを守るためには、次の3要件が欠かせません。

①スタッフの確保と管理

BCPガイドライン<厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」P9.業務の優先順位の整理 >では、「災害時に限られた職員・設備でサービス提供を継続する必要がある」とされています。しかし限られた人員は、施設の種類や規模によって異なります。
スタッフの確保において重要なことは、災害時に何人必要かと考えるよりも、どの業務を優先する必要があり、そのために何人いるのか、という視点で割り出す方が良いでしょう。

また、スタッフごとに自宅から施設までの移動手段や所要時間を把握しておくことをおすすめします。なぜなら、災害の種類や交通状況によっては、BCP通りの人員が確保できない場合があるからです。この課題を克服するには具体的なシミュレーションや訓練を繰り返すしかないでしょう。

②設備の使用や備品の確保

介護施設の場合、利用者には介護機器や医療器具など生活上必要な設備や備品がたくさんあります。みなさんの施設では災害が起こった場合に備えて、メンテナンスや備品のストックを日ごろからおこなっていますか。
備品管理のポイントは、管理表に品目や数だけでなく担当者の名前や消費期限なども記載しておくことです。そうすることで、担当者は備品管理を業務として定期的にチェックするので、確認漏れや補充ミスを防ぐことができるでしょう。
記載の仕方を「責任者」とすると、より効果的かもしれません。
下のような表を参考にしてください。


③情報管理と共有ルールの確立

緊急時やその後の復旧場面では、常に正確かつ迅速な情報共有が求められます。
ここでポイントなのは、情報共有といっても組織内の指示や報告などを扱うタテの連携と、他機関や地域とおこなうヨコの連携があるということです。そして、それぞれに扱う情報が異なるということも忘れてはいけません。
どのようなネットワークで、どんな情報を共有するのか、事前に協議し対応責任者や決裁ルート、守秘義務ルールについて協議しておきましょう。

またライフラインが遮断されることで通常の通信方法が使用できないことが考えられます。停電によってWi-Fiが使用できない場合や、携帯基地局が被災した場合なども想定して複数の連絡手段を確保しておくことをお勧めします。

下の円グラフは、東日本大震災のときに使用された通信手段をのちにまとめたものです。通信が途切れると、情報収集できないだけではなく、発信することもできないので、通信の遮断は私たちを孤立状態に落とし入れるといっても過言ではありません。
孤立を防ぐために大切なことは、多手段で通信できるようにしておくこと(マルチチャンネルをもつこと)が重要だと分かります。

<参考:総務省総合通信基盤局, 東日本大震災発生後の通信状況に関するアンケート、p14

施設の規模によるBCPの特徴

施設には特養だけでなく在宅事業を併設した大規模施設がある一方で、小規模多機能型居宅事業を展開する地域密着型の小規模事業所など、いまや運営主体は多種多様の時代といえます。どちらにとってもBCPの運用に限らず、経営やサービス提供の面で、一長一短あるのが実情です。

この章では大規模、小規模の定義はしていませんが、それぞれの特徴を踏まえつつ自施設のBCP運用の際に役立てていただけたらとおもいます。

大規模施設のメリットとデメリット

大規模施設では前章で述べたBCP運営のカギとなる3要件のうち、人的資源や施設・備品については、比較的確保しやすいといえるでしょう。
たとえば大地震によって地域が甚大な被害を受けた場合、入所施設には重度の要介護者も多く、少しの被災でも命にかかわる場合があります。そのためスタッフは、絶対に安全確保や業務を止めないよう24時間体制でシフトを組んでいます。
とはいえ災害が発生すると、入所スタッフ自身も被災して、出勤できないことも考えられます。そういった事態も想定して、筆者のいる大規模施設では、次のような体制を考えています。

  • 甚大な被害を受ける災害に見舞われた場合、入所施設の運営を最優先に考える

  • 在宅サービスのスタッフ、ケアマネジャーは、利用者の安否確認、避難が完了した時点でサービスを一旦休止する

  • 電話は全て代表番号に切り替える

  • 指揮命令は総合施設長がおこなう

  • 全事業所のスタッフで入所施設の業務継続に注力する


これは人的資源が多いがゆえに、応援や補充など融通が利く大規模施設のメリットといっていいでしょう。

一方、デメリットもあります。それは、各施設でBCPを策定するため、運営母体の災害対策や方針が明確になっていない場合、施設によって災害対応にばらつきが生じるということです。
たとえば指示や決済が遅れて、各事業担当者が独自に判断してしまったり、逆に上からの指示がないからと何一つ動けなかったりすると、二次被害を招くことすらあり得るのです。運営事業所が複数あったり、広域で事業展開する施設は、場合によって施設を束ねる基幹型BCPが別に必要となります。

小規模事業所のメリットとデメリット

小規模事業所の場合、災害時には利用者のニーズに合わせて柔軟に対応できることがメリットの一つといえます。たとえば、被災して食事の確保ができない在宅利用者に、昼食のおにぎりを差し入れたり、予定日時や回数を変更して、訪問サービスを提供したりなど利用者の状況に合わせてサービスを変更できる点が小規模事業所の強みです。

とはいっても、被害が大きく復旧までに長期間かかると、事業所の体力が持たない(人員や資源確保に限界をむかえる)ことが考えられます。
そのため(小規模事業所に限った事ではありませんが)地域との連携が日ごろから重要となります。
地域の高齢者のために出来る限り業務を継続するためには、地域住民と協働しながら自事業はもちろん地域を守る「お互い様の関係」が重要といえるでしょう。

まとめ

筆者の法人は介護施設や通所、訪問サービスなど介護サービスを複数運営するいわゆる大規模施設です。しかし令和以前の災害対策としては、災害対応マニュアルを作成したり、防火訓練をしたりといった対策しかとっていませんでした。

今では、各サービスごとにBCPを策定して、平時の備えから災害発生時まで様々なシチュエーションに対応できるようスタッフ間で周知、共有しています。とはいえ、いくら100点だと思えるBCPができたとしても、災害が起こったときにはかならず不具合が出てくる、と思っておいた方がいいでしょう。

大切なBCPを引き出しの奥で眠らせないために、いま一度3つの要件(ヒト・モノ・情報)を上手く活用し、スタッフ一人ひとりが「災害はいつ起こるか分からない」「他人事ではなく自分ごと」として、考えられる施設運営が重要です。

執筆者: 柴田崇晴
日本介護支援専門員協会 災害対応マニュアル編著者

策定だけでなく、「CloudBCP」が運用までサポート!


CloudBCPはBCPを最短5分で策定できるWebサービスです。現在、介護・障害福祉に特化したBCP策定機能を提供しています。また、トレーニング機能を始めとする運用機能や、安否確認機能などもアプリの中で使え、BCP活動を完結することができます!

最初のBCPをとにかく簡単に作り、その後の訓練を通して見直していく事が、実践的に使えるBCP活動には不可欠です。無料診断を行っておりますので、お気軽にご連絡ください。

・本記事はCloudBCPブログの転載です。

https://www.cloud-bcp.com/posts/G9u1rFHm


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?