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「八葉の栞」第四章 後編


匡貴の記憶

第八節

2006年2月28日、午前10時。
徹夜明けの私は、降り続く雨の中、瑞善寺川緑地を歩いて帰ることにした。傘立てからビニール傘を1本抜き取り、開くと雨粒の軽快な音が響いた。

警察署を出て西に向かい、白桜町南駅を左に折れて、高級住宅街を抜けた。家は地下鉄駅の北西にあるが、やりきれない事件の後は、いつも緑地を少し歩いてから帰宅する。

いつの頃からか、家は安らぎの場所ではなくなっていた。
3LDKの部屋は、その空虚さを際立たせ、否応なしに虚無感と喪失感を意識させる。だから、家に帰るのは眠るためだけだ。

私の胸には大きな穴が空いている。
この感覚の正体が何なのか、ずっとわからずにいる。
だが、私にはそれと向き合うことができない。
きっとその穴を覗き込めば、底なしの闇に飲み込まれてしまう。
そんな気がして。

眠れなければ、穴を意識する。
眠れば、妙な夢を見る。
目覚めは最悪だ。
この悪循環を断ち切るように、私は雨の中を歩き続けた。
雨音が、胸の中の空虚に響く。

緑地の遊歩道を飾る草花が、大きな雨粒をまとっている。
滴る雫が歩道に跳ねて、無数の小さな飛沫を上げる。
雨音が静謐な緑地に響き渡り、独特の湿った空気が漂う。

私は人通りが少ない遊歩道をひたすら歩いた。
桜並木の向かいにあるベンチが目に入る。
その周辺に植えられたサザンカが、鮮やかに返り咲いていた。
その姿が、微かな希望の兆しのように私の心に染み入る。

小橋を渡り、桜並木の前を歩く。
冬の眠りから目覚め始めた桜の枝先には、小さな芽が膨らみ始めていた。
開花の準備を進める並木を抜けると、児童公園が見えてくる。
雨に煙る遊具の群れに、儚げな人影がぼんやりと浮かび上がっていた。
その姿に、私は思わず足を止めた。

ひとりの少女が、傘も差さずに、ブランコに揺られていた。
気になって近付いていき、私が少女の眼前に立つと、彼女はおもむろに顔を上げた。
肩まで伸びる黒髪が雨に濡れて、細い頬に張り付いている。哀しみを帯びた大きな瞳が印象的だった。私は少女の顔から目が離せなかった。
見知らぬ顔のはずなのに、どこか懐かしさを覚える。

突如、直感が稲妻のように全身を貫いた。
長い眠りから覚めたかのような感覚。
それまで意識していなかった頭の中の靄が、雲散していくのがわかった。
すべての靄が晴れたわけではない。
だが、最も大切なことだけは、明瞭になった。

彼女は、失われていた私の心の欠片だ。
二度と手放してはいけない大切な存在。
理屈も道理も一切ない、揺るぎなき確信があった。

私は少女の冷たい手を握った。その瞬間、彼女の目に小さな光が宿った。
私たちは無言のまま歩き出した。
もう片方の手に握った傘を傾けて、彼女の濡れた髪を優しく覆った。
雨音だけが響く静寂の中、私たちの足音が重なっていく。

私は胸の穴が少しずつ埋まっていくような感覚に包まれていった。

第九節

家に着き玄関を開けると、埃っぽい空気が漂ってきた。
久方ぶりに、室内を見渡す。
書籍類や洗濯物が散乱し、家具には厚い埃の層が堆積していた。
窓を開けると、湿気を含んだ雨風が流れ込み、澱んだ空気を掃き出した。
まずは片付けだ。

楽にしていてくれと声をかけようとすると、少女は使っていない個室の床に座り込んでいた。その姿が妙に馴染んでいて、違和感がない。
逆に、それを不可解に思う自分もいた。

一通りの掃除を終えた私は、少女を連れて、白桜商店街に出かけた。
主な目的は、食料品の買い出しだ。

商店街を歩くと、懐かしい匂いや音が、久しい記憶を呼び覚ます。
八百屋の新鮮な野菜の香り、魚屋の威勢のいい掛け声、パン屋から漂う小麦の匂い。白桜駅の北側には大型スーパーもあるが、この商店街の温かみある雰囲気は格別だ。ここ数年、出前やインスタント食品に頼りきりだった自分が、この町の魅力を忘れていたことに気付く。

私たちはお店を巡りながら、少しずつ、不器用に、言葉を交わしていった。八百屋の店先では、新鮮な野菜が色とりどりに並べられ、通りかかった主婦たちが熱心に品定めをしている。魚屋の前では、威勢の良い掛け声が響き、健全な活気が感じられた。

「私は匡貴。水沢匡貴という」
君の名前は、と訊いてみる。
少女は明らかな躊躇いを見せながら、辿々しい口調で答えた。
「わ、私は…は、はる…」
「ハル?良い名前だ」
少女は無言で頷いた。刹那、彼女の表情が微かな諦念の色を帯びた。
そして、小さな手の爪を噛んだ。

ハル。
もし私たちが子供を授かることがあれば、「ハル」が付く名前にしたい。
いつか誰かからそんな話をされたことがある。そんな気がする。
その記憶の断片に、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
同時に、ハルに対して、不思議な親近感が湧いてくる。
矛盾した感情の交差に戸惑いを覚えた。
心配そうに見上げるハルの手を、私はしっかりと握りしめた。

「何か食べたいものはあるか?」
各店の特売品を確認し、私はハルに訊ねた。
これでも料理の腕には自信がある。
ここ数年サボってはいたが、それ以前はよく料理をしていたのだ。
中でもパスタは得意だ。

「カルボナーラ」と、ハルは遠慮がちに答えた。
まるで私の心を読んだかのように。カルボナーラは私の十八番だった。
思わず頬が緩むのを感じる。私たちは互いに顔を見合わせて微笑み、熱心に食材を選んだ。

緊張が和らいだのか、ハルはぽつりと呟いた。
「今日、私の誕生日なんです」
その言葉に、私は一瞬動きを止めた。彼女の小さな告白に胸が温かくなる。
「そうか。おめでとう」
自分の声に、思わぬ優しさが滲んだことに驚いた。
ハルの瞳が一瞬輝き、頬が薄く染まった。

急遽、洋菓子店にも足を運んだ。
ハルの目が様々なケーキを見て回る。
その真剣な表情に、思わず微笑んでしまう。
「これにしてもいいですか?」と指さした先には、大きなフルーツケーキがあった。12本のキャンドルを添えて、店員が丁寧に包装してくれた。

買い物が終わる頃には雨も降り止んでいた。
夕暮れの空に茜色の光が差し込んでいた。その柔らかな光に包まれながら、私たちは家路に着いた。

第十節

ハルと出会ってから数日が経った。
私は数年ぶりの休みを取り、彼女と静かな時間を過ごした。
家事をこなし、空いた時間は読書に耽る。
こんな人間らしい生活があることを、私はすっかり忘れていた。

ハルは大人しく、家の中にある本を探して、順に読んでいった。
時折、物思いに耽るように窓の外を見つめて、何かを懐かしむような表情を浮かべることもあった。

『水鏡桜とうたかたの少女』という本を、ハルは何度も読み返していた。
私には購入した憶えのない本だ。どこから出てきたのだろう。

ハルが寝た後、私も軽く一読してみた。
不思議な物語だった。
読後の感情は複雑で、どこか懐かしく、どこか寂しい。
そして、私の心の穴に深く関わる話であるように感じられた。

ハルは私以上に我が家を熟知しているような振る舞いを見せた。
なぜか、使っていなかった部屋のタンスには、彼女より少し小さなサイズの服やタオルが入っていた。さすがに、奇妙だと思い始めていた。

ある日、ハルが一冊のノートを持ってきた。
「このノート、もらってもいい?」と彼女は訊ねた。
見覚えのないノートだった。
中身を確認すると、香りを作るためのレシピが綴られていた。
どうしてこんなものが家にあるのか、見当もつかない。
心当たりがなければ、思い入れもない。
私はノートを彼女に譲ることにした。

ハルがノートをバッグに入れたそのとき、インターホンが鳴り響いた。

警察だった。彼らは私の身柄を押さえ、ハルを保護した。
突然の出来事に、私は言葉を失った。
ハルの驚愕した表情が目に焼き付く。
彼女の小さな手が私から引き離されていく。

私たちの生活は、こうして唐突に、幕を閉じた。

・・・

私は取り調べを受けた。
後から聞いた話だが、ハルは養子だったらしい。彼女の養親は著名な企業家で、養女の失踪に心を痛めていたという。その養親が捜索願を出し、複数の目撃証言をもとに、捜査の手は私のもとまで届いたというわけだ。

私はハルの誘拐を認めた。どう考えても、私は行ったことは犯罪だ。
否定することはできない。
だが、警察は私を連続誘拐犯に仕立て上げようとした。
身内に行うこととは思えない暴挙。信じられない思いだった。
私は必死に抗った。それでも、勝ち目がないことは明白だった。

しばらくして、「Libro Vento」の店主、森川誠が面会に来てくれた。
誠は私の古くからの知り合いだ。古書店を営む傍ら、地域の子供たちの教育にも熱心な人物だった。

私は彼に、一冊の本を預かってもらえないかと頭を下げた。
『水鏡桜とうたかたの少女』だ。
これから私はどうなっていくのかわからない。
私の家も持ち物も、どうなっていくのか不明だ。
だけど、あの本だけは、いつかハルに渡してあげたいと思っていた。
常識で考えれば、もう彼女に会える日はやってこないだろう。
それでも、希望だけは捨てたくなかった。

誠は私の無茶な願いを聞いてくれた。何年先になろうとも、彼は私の帰りを待つと約束してくれた。その言葉に、私は微かな希望を感じた。
同時に、これから待ち受ける長い苦難の日々を覚悟した。

4月3日

第十一節

匡貴の記録は唐突に終わった。誘拐事件の実態は明らかになったが、その後の展開については何も分からなかった。

「ジョシュ。この先はないの?」
「ごめんにゃさい。記憶の繋がりが、この辺りでぷつんと切れたんだにゃ」
長い期間に跨る記憶は、制御が難しいとジョシュは嘆いた。
「この先は私から説明しよう」匡貴は記録の続きを語った。

匡貴の犯行として決着する気配が揺るがない状況。
これが1年ほど続き、匡貴の心が折れかけたある日、事態は急変した。
彼は突然、証拠不十分として釈放された。
ハルの養親も訴えを取り下げたと聞いた。

何が起こったのかも理解できず、匡貴は釈然としない気持ちを抱えたまま、瑞善寺川緑地をひとり歩いた。誠に会う前に頭の中を整理したかったのだ。
公園には何人かの児童が遊具に集まっていたが、ハルの姿はなかった。

子どもたちの母親が、匡貴に訝しげな視線を投げた。彼は、すぐにその場を後にしようとした。そのとき、彼の頭の中で何かが弾ける音が響いた。

「気付くと、私は少女のことを忘れていた。どうして自分が捕まったのか、それすらもわからなくなっていた」
彼は重苦しいトーンで続けた。

「あのとき、私の心は壊れた。胸の穴がさらに大きく開き、ありとあらゆる感情が無に呑まれ、絶望のような虚無感だけが残った」

外の狭い通りをトラックが通り抜け、アパートの窓ガラスを震わせた。
壁の一部が、古い傷口を被う痂のように剥がれ落ちた。

茉莉花たちには、何も言えなかった。軽々しい感想など無意味だ。
沈黙という敬意の表しに、匡貴は感謝した。
「これは想像に過ぎないが、多分…ジョシュくんがこの頃の私の記憶を掬うことができなかったのは、それがまともな人間の思考ではなかったからだ。私自身も、言語化できるような状態ではなかった。言葉にできたとしても、正常な人間が読んでいいものにはならなかったと思う」

匡貴はそう言って立ち上がり、濁ったグラスに水道水を注いだ。彼は決して言わないが、今日のこの生活に至るまで、並々ならぬ苦労があったはずだ。それは、苦労という一言では済ませることができない日々だっただろう。
彼の手の震えや、時折目に浮かぶ翳が、その過酷な日々を物語っていた。

涼介の胸中に、名状しがたい感情が込み上げた。
その様子を察した匡貴が、彼に声をかける。
「涼介くん…だったな」匡貴は言葉を選びながら続けた。
「私は以前、君に何かしてしまったのだろうか?」
その唐突な問いかけに、涼介は一瞬動揺した。

「いや、すまない。さっきから気になっていたんだ。君は何か、私に後ろめたさを感じているように見える」
見た目の割に全然喋らないしなと匡貴は笑いながら言った。
彼なりに、涼介の気持ちを和らげようとする配慮が感じられた。
だが、茉莉花とジョシュは空気を読まず、異を唱えた。
「普段はすごく頼りになる」
「リョースケはいつもおいどんたちを助けてくれてるんだにゃ!」
それを聞いて、匡貴は嬉しそうに片方の口角を上げた。
「なるほど。信頼関係が築けている、良いチームだな」
「当然にゃす!おいどんたちは正義の探偵団にゃのだ!」
ジョシュが大声を上げると、また隣の部屋から怒りの壁ドンが響いた。

匡貴の依頼を解決するためには、より多くの情報が必要だ。
ジョシュが掬った記憶に対して『八葉の栞』による変化を試みたが、少女の正体に繋がる情報を得ることができなかった。

「ハルさんの情報がもっと欲しい」茉莉花がちらりとジョシュを見る。
涼介は茉莉花の意図を察した。彼女はハルの正体がはるりだと思っている。そして、もし彼女がはるりであれば、匡貴が彼女の記憶を失っていること、突然釈放されたことなど、すべての事象に説明がつく。
そして彼女がはるりだった場合は、匡貴の記憶のより深い部分に、昔の彼女の記憶が眠っているはずだ。

「もう一回、『記憶の雫』を使うにゃす!おいどん、頑張るんだにゃ!」
ジョシュは再び匡貴に触れ、彼の内に秘められた記憶を見つけ出した。

匡貴の記憶その2

第十二節

2004年。4月8日。午前6時。
徹夜明けの帰宅。刑事の仕事は体力的にも精神的にもきつい。
だが、はるりの存在が、この生活を支える原動力になっている。

荷物を置き、シャワー浴びた。溜まっている洗濯物の対応に悩んでいると、はるりが起き出してきた。寝ぐせがついた黒髪と、まだ眠そうな大きな瞳。彼女の姿を見ると、いつも心が和む。
私は急いで、朝ごはんの支度を始めた。

トーストを焼き、軽くオムレツとサラダを作った。
本当は和食にしたかったが、時間が足らず断念した。
以前は料理などしたことがなかった。だが、はるりが家に来てからは、彼女の健康を考えて、色々と作るようになった。

先日、はるりは小学4年生になった。
同学年の他の子供たちと比べて、彼女は少し小さく、身体が弱かった。
5年前、ある事件により孤児となったはるりを養子として引き取った。
その経緯を、私は詳しく思い出すことができない。
だが、それは然程重要なことではない。
大事なのは、私が責任を持って、この子を健やかに育てていくこと。
ただ、それだけだ。

彼女は何か言いかけたが、口を噤み、そのまま出ていってしまった。
その瞬間、彼女の瞳に一瞬浮かんだ不安げな色が気になった。

たまに、こういうことがあった。
気付いたときは、自分からも訊くようにしていたが、彼女は悩みながらも、決してその思いのうちを語ってはくれなかった。
私はどんな言葉を用いれば、彼女の思いを聞き出すことができるのだろう。これもまた、今後向き合っていかなくてはならないことだ。

つけっぱなしのテレビから、落ち着いた天気予報の音声が流れる。
今日は終日雨のようだ。まだ室内干ししている洗濯物が乾き切っていない。私は食器を洗いながら、最寄りのランドリーに持っていく洗濯物の優先順位を考えた。
シャツが足りなくなってきたが、はるりの洋服も洗ってあげたい。
2回行けばすべて洗いきれるだろうか。

不意に睡魔に襲われた。
少しソファで横になろうとすると、私はそのまま深い眠りに落ちた。

夢を見た。私は雨霧が立ち込める、暗い空間の中にいた。
誰かが私に呼びかける。若い女性の声だ。
懐かしさを帯びたその声は、私にはるりの危機を告げていた。
「はるりが危ないの。お願い、あの子を助けに行ってあげて」
そう、必死に叫ぶ女性の声を脳内に残し、私は目を覚ました。

心臓が激しく鼓動している。
壁に掛けられた時計に目をやると、16時を回ったところだった。
はるりはまだ帰ってきていなかった。

私は家を飛び出した。雨煙に霞む町を走り回った。
息が上がり、脈拍が耳に響く。走りながら、はるりの学校に電話をかけたが、今日は放課後の活動などはないという返答だった。
学校や商店街を探しても、はるりの姿はなかった。

瑞善寺川緑地の水鏡桜。彼女はそこにいる。
なぜ、そう思ったのかはわからない。
だが、あの桜の姿が、はるりと深く結びついているような気がした。
直感だ。すなわち、経験や知識が無意識に導く、瞬時の判断。
直感を信じることは、自分を信じることだ。私はそう思っている。

雨は勢いを増している。かつて自分が担当した、あの雨の日の未解決事件が頭をよぎる。私は息を切らせながら、緑地に向かって全力で走った。

第十三節

人影ひとつない緑地を駆け抜けた。いつもは賑わう遊歩道も今は寂しげで、普段は静かな小川も突然の大雨で濁流と化していた。
水たまりを跳ね、転びそうになりながらも必死に走り続けた。
私の頭の中には、あのはるりの不安げな表情が浮かんでいた。
いつどのように出会ったのかさえ定かではない。
それでも、私は絶対にあの子を守っていかなくてはいけない。
それが自分の使命なのだと、魂が叫喚する。

桜並木を望む小橋に辿り着くと、水鏡桜の下に人影が見えた。
はるり。しゃがみ込む少年。そして、中肉中背の成人男性。
男が少年に暴力を振るっている。少年は必死に抵抗しているが、大人の腕力には敵わなかった。とても見ていられない、非人道的な光景だった。
私は彼らに向かって走ったが、距離が縮まらない。

突如、はるりの身体から青白い光が浮き上がり、小さな光弾となって、男を撃ち抜いた。男は少しよろけたが、すぐに体勢を整えた。
そして、光を放つ何かを取り出した。ナイフだ。

男の手に握られたナイフが鈍い光を放ち、はるりに突き立てられようとしていた。
「やめろ!」
私は叫びながら疾走した。だが、間に合う距離ではない。
必死に考えを巡らせるが、何も出てこない。
無力感が全身を覆い、喉が焼ける。
焦りとは裏腹に、目に見える光景が、スローモーションのように、ゆっくりと流れていった。

男の刃物がはるりに届く寸前、片膝をついて倒れていた少年が立ち上がり、はるりをかばった。凶刃が、少年の胸部を貫いた。
男性は硬直し、はるりは悲鳴を上げた。

そのとき、はるりの身体から再び青白い光が浮かび上がった。
光は次第に強くなり、強い閃光となって放たれた。
目を開けていられないような眩しさだった。
数十秒間、私は暗闇の世界に閉じ込められた。

視力が回復し、目を開けると、地面に伏す少年と、彼に寄り添う少女の姿があった。少年を傷付けた男は逃げたようだった。
私は急いで救急車を呼んだ。
いったい何が起こったのか、訳がわからなかった。
「君は怪我していないか?」
私は心配そうに少年を見つめている少女に声をかけた。
顔を上げて私を見る少女の目は、絶望の色に染め上げられていた。
思わず、息を呑んだ。
これほどまでに強い哀しみを訴えてくる目を、私は見たことがなかった。

・・・

救急隊員を誘導している間に、少女は忽然と姿を消していた。
私は自分の不注意を激しく悔やんだ。

担架に乗せられる少年を見て、思っていたよりも傷が浅いことに気付いた。私は勇気ある少年の回復を、心の底から願った。

4月3日

第十四節

匡貴の瞳から、一雫の涙が落ちた。涼介はまた言葉を失い、茉莉花は無言で目を閉じた。ジョシュの耳はペタリと垂れ、悲しみに沈んでいた。

「情報を整理しよう」
茉莉花が静かに口を開いた。全員が彼女の言葉に耳を傾けた。
「2004年、当時10歳だったはるりさんは、彼女をかばって刺された少年を救うために、水鏡桜と『うたかたの契約』を交わした。その結果、匡貴さんは彼女を思い出すことができなくなった」
茉莉花は一度深呼吸した。
「2006年、匡貴さんとはるりさんは偶然の再会を果たした。そして、数日間だけ生活を共にする。でも、彼女の養親が捜索願を出して、匡貴さんは逮捕された」
匡貴が静かに頷いた。茉莉花はさらに続けた。
「2007年、再び『うたかた』が発動し、すべての人間の記憶からはるりさんの存在が消えた。匡貴さんは証拠不十分として釈放された、でも、二度の『うたかた』の影響で胸に大きな穴が開いて…心が壊れた」
茉莉花は匡貴を見つめ、おもむろに言った。
「これが、あの誘拐事件の真相だと思う」

「そうだな。君の言うとおりだろう」
匡貴の顔には、悲しみと安堵が入り混じっていた。安堵が僅かに勝っているのか、数時間前と比べて、少し若返ったように見える。
「結局、私は彼女を守ることができなかったんだな」
匡貴の表情には複雑な思いが滲んでいた。
事実を知らないまま過ごす苦しみと、事実を知ったが故に生じる後悔。
どちらがより重たいものなのか。彼は事実を知るべきだったのか。
それは、誰にも推し量ることができなかった。

茉莉花は、雨染みが浮かんだ天井を見上げながら、言った。
「『うたかた』は、記憶の繋がりを断つだけで、記憶そのものは消さない。だから、きっとどこかで、はるりさんとの記憶は匡貴さんの中に残ってる」
その言葉に、匡貴は頷いた。彼の目に微かな光が宿っていた。

匡貴からの依頼は解決したが、茉莉花は心を決めて彼に頼み事をした。
「私たちは、はるりさんを探してる。彼女を見つけるには、まだ情報が足りない。だから、協力して欲しい」
「もちろんだ。何でも言ってくれ」匡貴は力強く頷いた。

茉莉花は匡貴の記録に『八葉の栞』を使わせて欲しいと頼んだ。
『栞』を使うことで、物語は変わる。
もしかしたら、匡貴の後悔をさらに抉るような変化となるかもしれない。
だが、彼の記録からしか追うことができない情報があると茉莉花は確信していた。

「気を遣わせてしまってすまない。私はもう、どんなことがあっても大丈夫だ。心配はいらない」
匡貴は優しく微笑むと、君たちの思うようにやってみてくれと言った。
茉莉花は頭を下げて、礼を伝えた。涼介とジョシュもそれに続いた。

茉莉花は『存在の力』を放出し、『八葉の栞』を呼び出した。
使う栞は、もう決めている。
彼女は2004年の匡貴の記録に『水の栞』を差し込んだ。

匡貴の記憶その2(水の栞)

第十五節

つけっぱなしのテレビから、落ち着いた天気予報の音声が流れていた。
今日は正午から晴れ間が覗くらしい。洗濯機を回すチャンスだ。
私は食器を洗いながら、洗濯物の優先順位を考えた。
シャツが足りなくなってきたが、はるりの洋服も洗ってあげたい。
何回まわせば、すべて洗い切れるだろうか。
干しきれないから、ランドリーの乾燥機も使う必要があるかもしれない。

そんなことを考えていると、不意に睡魔に襲われた。
少しソファで横になろうと思ったその瞬間、私は深い眠りに落ちた。

夢を見た。私は霧が立ち込める、暗い空間の中にいた。
誰かが私に呼びかける。若い女性の声だ。
懐かしさを帯びたその声には、はるりへの深い愛情が込められていた。
「はるりの言葉に耳を傾けてあげて。あの子は匡貴さんの助けを必要としてる。あなたにしか、彼女を助けてあげることはできないから」
そう囁く女性の声は、とても悲しげだった。

私は彼女に代わって、はるりを守っていかなくてはならない。
そう自覚していたはずなのに、女性の言葉が、私の記憶の奥底から使命感を呼び起こした。

目を覚まして、壁に掛けられた時計に目をやると、16時を回っていた。
はるりはまだ帰ってきていない。
不安が胸に広がった。
私は慌てて家を飛び出した。夕闇が町を包み始めていた。

はるりの学校に電話をかけたが、今日は放課後の活動などはないという返答だった。学校や商店街を探しても、はるりの姿はなかった。

夢で聞いた女性の声が頭の中で反響する。
『はるりの言葉に耳を傾けて』
その言葉が、私の中で幾度も繰り返された。
はるりがよく行くところはどこだろうか。私は自問する。

ふと、彼女が繰り返し読んでいる、『水鏡桜とうたかたの少女』という本のタイトルが脳裏に蘇った。
水鏡桜…瑞善寺川緑地だ。
私は緑地に向かって、走り出した。

はるりは緑地公園のブランコに座り、ゆらりゆらりと揺れていた。
黄昏に翳る彼女の顔には、その若さに似合わぬ哀愁が滲んでいた。
私が声をかけると、はるりは驚いたように顔を上げた。
迎えにきたと告げると、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
私は今まで、こんなことさえしてやれていなかったのかと、情けなさが胸に込み上げた。

私ははるりの横のブランコに腰をかけた。
私たちは無言のまま、ゆっくりとブランコを漕ぎ始めた。
軋む鎖の音が、静かな夕暮れに響く。
はるりより少し年下に見える子どもたちが、滑り台や他の遊具に興じる声が聴こえた。
「今朝、何か言いかけていたように見えた。良かったら、話してくれるか?」
はるりがハッとするのを感じた。彼女の小さな体が微かに震え、目を伏せるのが見えた。怯えているのだろうか。

私は馬鹿だ。もう少し、上手い言い回しというものがあったはずなのに…。
はるりは考え込んでいた。そして、秘めていた胸のうちを明かしてくれた。

「私、いじめに…遭ってるの」
俯いたままの彼女の顔からは、表情を窺うことができなかった。
だが、その震える声音がすべてを物語っていた。
戸惑いと悲しみ、怒りが迫り上がってくる。
私は早まる鼓動を抑えるように、拳を握りしめた。

なぜすぐに話してくれなかった?
そんな愚かな問いをするほど、私も不出来ではない。
原因は私にあるのだ。
私が、私の生活が、彼女に気を遣わせてしまったんだ。
傷付いた少女の思いを閉じ込めてしまったのは、紛れもなく私自身だ。

はるりは、ぽつりぽつりと話を続けてくれた。
小学校に上がった頃からいじめが始まったこと。彼女をかばってくれた男の子がいて、彼に好意を寄せる女の子によりいじめがエスカレートしたこと。ストレスで爪を噛む癖ができたこと。

私はブランコの鎖を握る彼女の手を取った。
小さな指先がひどく歪んでいた。指だけではない。よく見れば、彼女の身体にはあちらこちらに薄い痣が浮かんでいる。
「こんなことになっているのに…今まで気付くことができなくて、すまなかった」
それだけではないだろう?私は心に響く自分の声に後押しされて、続ける。
「はるりが安心して話せる環境を作れなくて、申し訳なかった」
深い後悔と共に吐き出した言葉が、夕闇の中に溶けていく。

はるりの小さな体が一層震え、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「お父さんのせいじゃない…私が、私が弱いから…」
勇気を出して、相談することができなかった。彼女がそう言いたいのだと、伝わった。私は目の前の健気な少女の頭を、そっと撫でた。
「話してくれて、ありがとう」
真っ先に言うべきだった台詞を、ようやく口に出すことができた。

「いじめからかばってくれた男の子が、お父さんにちゃんと話した方がいいって言ってくれたの。何度も何度も、そう言ってくれた」
はるりは、はにかんで笑った。
彼女が見せたその明るい表情から、瑞々しい感情の発露を感じた。
「その男の子…お友達にも、礼を伝えないとな」
「え…そんなのダメだよ」と、はるりは頬を赤らめる。

私は照れて目を逸らすはるりの手を取り、夕焼けに染まる帰路を歩いた。

第十六節

桜並木には多くの花見客が集まっていた。風に揺られる水鏡桜の花びらが、川面を賑わす。空には薄い月が見えて、その周りを橙色の雲が彩っている。私たちはその風景に溶け込んで、ゆっくりと歩を進めていった。

はるりは色々なことを話してくれた。
こんなに喋る子だったのかと驚くくらいに。
それほど、今まで私に遠慮していたのだろう。
今は彼女の話をすべて聞きたい。しばらく仕事は休もう。そう決めた。

「私ね、将来カフェやりたい。私みたいに居場所がない子たちが、安心して時間を過ごせる場所を作りたい」
彼女は、あっと言って私を見た。私は気にするなと彼女に目で伝えた。

わかっている。はるりに悪気はない。私はこれまで、彼女に安心できる場を作ってあげることができなかった。だが、これからは違う。当たり前だ。
今までと同じであっていいわけがない。

「素敵な目標だと思うよ」と私は答えた。
はるりは嬉しそうに、またはにかんだ。
「ありがとう。学校でそう発表したときもね、先生が褒めてくれたの。後でそれを知った涼介くんも、すごく良い夢だって言ってくれた」
はるりは笑顔でそう言ったが、急に表情が曇った。
「でも…」と言葉を濁す。
「どうした?」と私が促すと、はるりは少し躊躇いながら続けた。
「玲於奈ちゃんはそれが気に入らなかったみたい」
はるりの話から察するに、『玲於奈ちゃん』というのは、いじめっ子のことだろう。そして、『涼介くん』はいじめから助けてくれた男の子だ。
「玲於奈ちゃんとは仲良かったときもあったんだけど、涼介くんが私の夢を褒めてくれたことを知ってからは、彼女もいじめに…」
はるりはそこで言い淀んだ。私はその先を聞き出すことはしなかった。
「あんなに仲良かったのに」という涙声の呟きが、私の胸に深く刺さった。

緑地を出て、高級住宅街の坂を登る。もうすぐ、白桜町南の駅が見える。
私は雰囲気を変えるために、話題を切り替えた。
「涼介くんはどんな子なんだ?」
私がそう聞くと、はるりは目を細めて、ふふふと笑った。
「爽やかで明るくて、みんなの人気者だよ」
「そうか。やはり保護者として今度挨拶を…」
「だから、ダメだって!」
はるりはむすっとした。なかなか扱いが難しい。
彼女は少し考え込んでから、トーンを落とした声で話し出した。

「私、涼介くんが助けてくれるまで、ずっとひとりだったから…よく空想してて、その中で友達を作ってたの」
一瞬、言葉に詰まった。どんな反応をするべきか、わからなかった。
「それでね、私はその友達に名前を付けて、文通をしてたの。私が夜に手紙を書くと、朝にはその子からの返事が来てた」
解離性同一性障害という言葉が脳裏に浮かんだ。
刑事としての経験と、かつて目にした心理学の知識が、瞬時に結びついた。彼女はそれほどまでに…。平静を装いながらも、私は動揺していた。
そして、彼女は鋭くそれを見抜いた。

はるりは「でも、もう大丈夫」と微笑みを浮かべ、バッグの中から金属製の何かを取り出した。それはレターナイフだった。
街路灯の光に照らされたナイフの刃には、桜の花びらを思わせる繊細な模様が掘られていた。その美しさに、私は思わず感嘆の声を漏らした。
「涼介くんがくれたの。彼のお父さんが作ったんだって。綺麗でしょ?」
綺麗だなと私は答えた。一般的なレターナイフよりも刃に厚みがある。
あの特殊な模様を彫り込むには、実用性を捨てるほどの厚みが必要だったのだろう。利より美を取った、アート作品であるように思えた。

「涼介くんの目標は、お父さんを超える工芸デザイナーになることなんだ。このナイフをもっと薄くして、完成品を作ることが夢なんだって言ってた」
はるりの目は、自分の夢を語るとき以上に、キラキラと輝いていた。
立派な夢を抱いたその少年を、私も応援したくなった。
「玲於奈ちゃんたちに、お母さんのハサミを捨てられたときはすごく落ち込んだ。だけどね、涼介くんがくれたこのナイフから、私はたくさんの勇気をもらったんだ」
はるりの横顔が綻んだ。
「それにね、涼介くんは私のこと守ってくれるって…そう言ってくれたの」

私たちは駅を抜けて、住宅街へと入っていった。もうすぐ家に着く。
先程のはるりの言葉に、私は少し引っかかるものを感じていた。
「お母さんって…さっき、そう言ったかい?」
そう聞く私に、彼女は笑顔のまま、こう答えた。
「そう。お母さんだよ。お父さんは私の本当のお父さん。それで、お母さんはお父さんの奥さんだった人」
「私はまだ結婚したことないよ」そう答えるしかなかった。
はるりは、私の反応を予想していたようだった。
その眼には、哀しみと覚悟が浮かんでいた。
「そんなことないよ。お父さんが忘れているだけだよ」
少し離れた大通りから救急車のサイレンが鳴り響いた。その音色の残響が、心の中に不穏な色を残した。

「どういうことだい?」
「私が5歳のとき、おかしな病気に罹ったの憶えてる?あのとき、私は死ぬところだった。それをお母さんが助けてくれたの」
その代わり、お母さんはみんなから忘れ去られてしまった。
はるりはそう言った。
私はひどく混乱した。意味がわからない。
だが、否定しきれない何かがあるのを感じていた。
ふと、夢に現れた女性の声がこだました。
それを遮るように、はるりが言葉を続ける。
「さっき話した空想の友達はね、私の中にいるお母さんだったの。それを、夢で見たお母さんが教えてくれたんだ。だから、私はその友達にお母さんの名前を付けたの」
「はるり…」私は、左手を強く握りしめた。

家の前に着いた。もう何がなんだかわからなくなっていた。
はるりの言うとおり、この子は私の娘で、妻である女性は彼女を救うために亡くなったのかもしれない。または、そんなことはまったくなくて、孤独をまぎらわすためにはるりが作り上げたストーリーなのかもしれない。
今の私には、まだどちらとも判断することができなかった。

しかし、それは問題の本質ではない。
真実がどうあれ、もうこの子をひとりにはしない。
どんな問題があろうとも、協力し合って、生きていく。

いつか、涼介くんという彼が挨拶をしに来るその日まで、私が彼女を守る。
そう、固く決意した。

4月3日

第十七節

『水の栞』により変化した匡貴の記録。それにより判明したはるりの過去。
それが一同に与えた衝撃は大きかったが、茉莉花は即座に動いた。
まだ情報が足りない。
ここで確認しなければならないことが、まだもうひとつある。
「匡貴さん。一応訊くけど、奥さんのこと…憶えてない?」
「え…あ、いや、すまない。思い出せないんだ」
匡貴は少し狼狽していた。

茉莉花は、はるりの母親の正体を突き止める必要性を感じていた。
確証はないが、これまでに確認した記録の情報から、『水鏡桜とうたかたの少女』は春香から彼女の妹、つまり、はるりの母親に受け継がれ、彼女からはるりに渡った可能性が高い。
あの本はキーアイテムだ。
本の行方を追うためにも、はるりの母親の情報は必須だ。

「マリカ。また『栞』を使うにゃすか?」
「そんなことしなくても、簡単に確認する方法がある」
「どんな方法っすか?」
「匡貴さん、戸籍謄本ある?」
「戸籍謄本?」
今、手元にはないと匡貴が答えた。
じゃ、コンビニに行こうと茉莉花が立ち上がった。
「どういうことだにゃ?ちゃんと説明するにゃ!」
「『うたかた』は記憶の改変はできても、記録の改竄はできない」
それを聞いて、涼介とジョシュは彼女が言わんとしていることを察した。
涼介は匡貴への説明を引き継いだ。
「人は見たくないものを見ずにいられる生き物だから、拒否したい事実からは目を背けることができます。でも、それは外部にいる傍観者には通用しません」
俺たちが見れば、真実がわかります。彼はそう締めた。
匡貴は涼介の意図を汲み取った。彼はすぐに支度を始めた。

お昼にもお世話になったコンビニを再訪し、匡貴の戸籍謄本を手に入れた。
茉莉花たちは謄本から、婚姻の欄を確認した。
婚姻日のその下に記述された氏名に、一同は目を疑った。
謄本には以下のように記されていた。

【配偶者氏名】瑞木真桜

「うそ…だろ…」涼介は息を呑み、かろうじて声を絞り出した。
匡貴は真桜の名を見つめ、何度か目を瞬かせた。
何か言いかけたが、言葉にならず、ただ戸惑いの表情を浮かべた。

茉莉花はコンビニを出ると、真桜のスマホに電話をかけた。
呼び出し音は鳴るものの、数分待っても応答がない。
チャットアプリでメッセージを送信し、返事を待つ間に『カフェ憩』へ架電した。数コールの後に、オーナーが電話に出た。
「真桜ちゃん、いる?」
「今日は急用があるって言って、もう上がったよ」
オーナーの声がそう答えたとき、茉莉花のスマホに着信があった。
彼女は礼を言って通話を切り、通知が来ているチャットアプリを開いた。
彼女からの返信は至ってシンプルなものだった。

「明日、事務所に行くね。そこで全部話す」


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