歩いて、味わって、話して見えてきた人々の生活世界 ~手法を使わずに熊本に住む人々の生活世界を覗く旅~
こんにちは。金子ゆりです。
毎日暑い日が続いていますね…🌞 かき氷がおいしい季節になりました🍧
私は8月8日~12日の5日間、熊本へ行ってきました。そこで、「熊本に住む人たちの生活世界を覗く旅」をしました。
💡 熊本へ行った目的
今私はサービスデザインを学んでいます。そこではよく「ペルソナ/シナリオ法」が使われます。その手法を使って考えていくと、「人間の本当のおもしろさ・解らない部分」を取りこぼしていくような気がします。
「ペルソナ/シナリオ法」では見えてこない、人間と社会との関わりを、熊本で見つけてみるというプロジェクトでした。
そこで、私が実際に熊本を歩いて印象に残ったエピソードや考えたことを共有しようと思います。
🐻🐻🐻🐻🐻
💡 熊本でのエピソード
まずはじめに、熊本はとても暑いところでした。私が住んでいる静岡も暑いですが、熊本は体の内側から火照るように感じました。毎日体力勝負の日々で、日傘は必須アイテムでした。
また、熊本の人は親切な方が多い印象でした。よくタクシーを使って移動しましたが、必ずと言って良いほど何か声をかけてくれて、タクシーの乗車時間、ずっと何かを話していることが多かったです。
「暑いですねぇ」「どこから来たんですか?」から会話が始まり、とても楽しい移動ができました。(静岡ではあまり会話をしたことがないんです…。)
※ あくまで私の体験したお話なので、主観的になっています。
ここからは、具体的なエピソードをお話します。
1つのエピソードが長く感じられてしまうと思うので、1つだけでも読んでいただけるとうれしいです😊
📙 弱った心に寄り添う書店
合宿3日目、熊本駅から約7分市電に揺られて、約2分歩いたところにその書店はありました。橙書店といいます。
少し古びたビルが立ち並ぶ場所にひっそりとあったこの書店は、喫茶店のように軽いお食事もできます。あとは少しの雑貨も販売されています。
私が入ると、既にカウンターには常連さんらしき3人組のおばさまたち、窓側のテーブルには帽子を被ったおじさんが1人座っていました。あとは店員さんがお食事を作っていました。どうやらおじさんが注文したオムカレーを作っていたようです。
私は熊本に来て、まだ地元の人の誰とも満足にお話したことがありませんでした。なので、その書店の店員さんとお話してみたいと思っていました。
「ここってお食事もできるんですか?」と店員さんに話しかけてみました。すると、「はい、軽いお食事なら…」と小さくて控えめな声が返ってきました。私はそのとき、「しまった、馴れ馴れしくしすぎたかも…」と思いました。
窓側の席に座って何か食べようと思い、店員さんが持ってきたメニューを開きました。サンドイッチとアイスティー、ガトーショコラを注文しようと思って、店員さんを探しました。すると、何やら忙しそうだったので、私から店員さんの方へ行こうと考えました。
けれども、店員さんがこちらに来ようとしたのと私が立ち上がって歩き出したタイミングが同じで、結局その場に立って注文することになりました。
どうも店員さんとうまく波長が合わなかったのです。話しかけてみてもおどおどしてしまう店員さんから、どうしても何かを聴き出すことができませんでした…。
出来上がったサンドイッチを食べながら、来店したときからずっとおしゃべりをしていた常連さんのお話を聴いていました。店内が静かだったので、どちらかと言うと"聴こえてきた"の方がしっくりくるかもしれません。コロナのお話、夏休みはどう過ごすのかのお話、政治のお話… 知らない方々のお話だけれど、なんだか心地良く聴けたような気がします。
しばらく聴いていると、常連さんの他に店員さんの声が混ざっていることに気がつきました。私との会話のときはあんなにおどおどとしていたけれど、常連さんとの会話のときは声が朗らかになっていて、常連さんのお話に反応したり、自分から話題を振ったり、なんだか楽しそうでした。
私は心の中で「あんなかんじでお話してみたかったなぁ」と思いました。そう思いながら同時に、こちらから求めていくほど、店員さんの生活世界は遠のいていくような気持ちになりました。
意図してこちらから何かを探そうとしたり聴きだそうとしたりすると、その人の生活世界は何か壁のようなものがあるように感じられたのです。
もちろん、話すことで分かることもある(話さなければ分からないこともある)けれど、私は今回、話そうとすればするほど、探そうとすればするほど分からない・見つからないという体験をしました。
店員さんにとって「私との会話」は外部の世界(接客)であり、「常連さんとの会話」は生活世界により近いもの、というふうに分けられるのかもしれません。
後日談 - 「声の小さな人の物語」
下の記事は後から共有していただいたものです。↓↓
この記事を見ると、店員さんの生活世界はこの「橙書店」そのものであると感じられました。置いてある本はジェンダーの本や個人の生き方の本(主に文学)など、普通の書店に置いてある本とは少し違った系統の本ばかりがありました。
書店がそういう本を置くことで、来た人にとってはその場所が拠り所になるというか…。何か日頃自分の中で引っかかっていることをどうにか見つけられるような、そんな場所だったように思いました。
🐈⬛ 猫カフェで出会った若い男女
プールスコート通りの外れにある、とあるビルの3階にある猫カフェに行きました。
この猫カフェは、保護が必要な猫を助ける目的で作られたそうで、10年以上営業をしています。食事なども楽しめます。売上は猫の治療や保護のために使われているそうです。
もともと野良猫のはずなのに、そばに寄ってきて寝転んだりおやつをねだったり、人懐っこい子たちばかりでした。(中にはまだ怯えている子もいました。)
しばらく猫を撫でてぼーっとキャットタワーにいる猫や寝転んでいる猫たちを見ていました。(幸せな時間…😌)
若い男女とのお話
私の隣の席には若い男女が座っていました。女性の方がよくしゃべる方で、猫の一挙手一投足に反応して、男性の方とおしゃべりをしていました。
あまりにも楽しそうにしているので、私はそのお2人とお話してみたくなりました。少し癖のある方ではありましたが、悪い方々には全く思えない自信に駆られて、話しかけてみることにしました。
やっぱり良い方でした。話しかけてみたはいいけれども何を話そうか迷って、その日の夜ご飯について聴いてみようと思いました。
お話してみると、勝手にカップルだと思っていたその2人は、今年の5月に結婚されたご夫婦だったのでした。そして、奥さんではなく旦那さんの方が熊本の移住歴が長かったのでした。そのため、夜ごはんは旦那さんが詳しく教えてくださいました。
知らない方たちなのに、なんて会話が楽しいのだろうと思いました。そのうえ、夜ごはんのメニューまで教えてくださいました。あとは「だご汁」という料理も追加で教えてくださいました。旦那さんはとても優しい方で、わざわざスマホでどのような料理か写真で見せてくださったのでした。
予測ができなかった行動
帰り際、私がお会計をする前にそのご夫婦がお会計をしていました。するとレジの端にあった小さな箱に奥さんが何やら1000円札を入れていました。よく見てみると、それは保護猫への支援募金の箱でした。
私はなんだか胸が温かくなりました。
勝手に彼氏・彼女の関係だと思っていればそれまでだったけれど、奥さんがおこなった「保護猫へ1000円札の募金をする」という行為は、果たして自分は想像できただろうかと考えました。この方は日頃どんなことにお金を消費したくなるのだろうと、今では思います。
奥さんは私の5つ年上の方でしたが、着ている服装も髪型も、なんだか可愛らしいという印象でした。けれど、外観のイメージとは少しかけ離れた行動を、この方はとったのです。興味深く感じました。
🍲 "一文字ぐるぐる"と"だご汁"
先ほどの猫カフェにいたご夫婦から教えていただいた料理「一文字ぐるぐる」と「だご汁」を作ってみようと思いました。
帰りにスーパーに寄って、材料を買い集めました。
スーパーで出会った奥様方
猫カフェで出会った旦那さんに教えていただいたレシピサイトを見ながら、スーパーの野菜売り場を歩き回りました。
私とすれ違う方々は、今晩は一体どんな料理を作るのだろうと思いました。
1人か2人、お話してみようと思い、葉物野菜が並べてあるところで止まっていた奥様に声を掛けてみたのでした。
「一文字ぐるぐるを作ったことがありますか?」と聴くと、「ないことはないけど、小さい頃に母親がよく作ってくれた覚えはある。」とのことでした。
そこで、熊本の人はネギを「一文字」と呼ぶことや、ワケギでなくても小ネギで代用して作ることができることなど、いろいろ教えてくださいました。
最後に「お時間とってしまってすみません。ありがとうございました。」とお礼を言うと、「がんばってくださいね〜」とガッツポーズをしてくれました。話しかけてみて良かったと思いました。
次は、だご汁の材料です。レシピには「合わせ味噌」と書いてあったけれど、実際、熊本の人はどの味噌を好んで使っているのか個人的に気になったので、聴いてみることにしました。
今度は70代くらいの奥様に話しかけてみることにしました。色付きの眼鏡をかけていて、少し恐さを感じたものの、丁寧に受け答えしてくださいました。
「やっぱりそれはその人の好みよね」という言葉を皮切りに、味噌の種類のお話や作り方や出来上がるまでの過程のお話など、思っていたよりもたくさんお話してくださいました。
郷土料理を作る
家へ戻り、すぐに夜ごはんの支度をしました。
教えていただいたレシピを見ながら、材料を切ったりお湯を張ったり、久しぶりに料理をしたので忙しく感じました。
私ともう1人一緒に作ってくれた子に、猫カフェで出会ったご夫婦が郷土料理を教えてくれたと話すと、
「その話すてきだね。だいたいそういう郷土料理を教えてくれる人って、地元のおじいちゃんとかおばあちゃんとかのイメージがあるけど、若い男の人が教えてくれたって、地元のこと好きじゃないと言えないよね。自分の住んでいるところに誇りがあるっていいよね。」
それを聴いたときにたしかに、と思いました。
聴いているときは普通に聴いていただけで終わってしまったけれど、思い返してみれば、その人が地元に住んでいるからこそなのか、その方の地元に対する関係性を探りたくなりました。
🌳 露わになる生活習慣
今回の合宿は自分を含めて8人が、同じ屋根の下でしばらく暮らしました。そのため、人それぞれ、いろいろな家のしきたりや習慣が垣間見える瞬間があったのです。
私が夜ごはんに一文字ぐるぐるとだご汁を作ろうとしていたときに戻ります。
上でも書いた通り、私ともう1人、夜ごはんの支度を手伝ってくれた子がいました。
だご汁の味付けをしようと思ったときに、もう1人の子が、味噌を四角い容器からお玉で掬って、そのままの状態で入れようとしました。
私は戸惑いました。私の家ではお玉の上で溶いてから入れるという家の習慣が染み付いていたからです。思わず「あああ〜 ごめん待って〜、私の家だと溶いてから入れるんだよ〜〜💦」と口に出ていました。
その他にも、洗濯物の干し方・畳み方の習慣、みんなで食卓を囲んでご飯を食べる習慣、私物を次々広げていってしまう習慣…
ある意味、いろいろな生活環境が見えていたと思います。
8人で一緒に暮らしていると、自分に染み付いている家の習慣やしきたりのようなものが、共同生活を送る上で露わになっていきました。「この人って実はこうなんだ」とか「こういうやり方をするんだな」とか、一緒に暮らしているメンバーの生活世界も覗けたような気がしました。
🦤 他に出会った方たち
ここからは私ではなく、他のメンバーが出会った方々を簡単に紹介します。
孫よりも楽しむおじいちゃん
上は先輩Sさんの1枚。川に水着姿で入っていたおじいちゃんにお話を聴いたところ、孫を川で遊ばせていたのだそう。
でも、孫に全力で水をかけていたらしく、自分の方が孫よりも楽しんでいたというエピソード。
おじいさんの"ランダム定食"
上は先輩Mさんの1枚。3人組のおじいさん、おばあさんのうち、おじいさんがセレクトしたおかずセット。残りの2人が「何がほしい」ということは聞かずに、だんだんおじいさんが定食を作り上げていったというエピソード。
他にもここには書ききれないほどの、おもしろくて興味深いエピソードがたくさんありました ✍️
💡 私が学んだこと
今回の旅は、冒頭でも書いた通り、「ペルソナ/シナリオ法」では見えてこない、人間と社会との関わりを、熊本で見つけてみるというプロジェクトでした。
そこで私が学んだことは、人間の細やかで微妙な行動1つ1つを、「ペルソナ/シナリオ法」などの手法で、いかに覆い隠していたかということでした。
例えば、猫カフェで出会った奥さんのような方をペルソナにするとします。簡単に、年齢や移住地や服装から見えるその人の為人、価値観、日常のストーリーを考えます。
また、カスタマージャーニーマップやストーリボードでペルソナの体験価値を視覚化していきます。
でも「帰り際、レジの端ある箱に募金のために1000円札を寄付する」という行動は、きっと出てこないだろうと思います。
ある程度固められたペルソナの行動は、おそらく橙書店で出会った店員さんも、川にいた孫よりもはしゃぐおじいちゃんも、皆知らないと思うのです。
その人の行動1つ1つには、その人のもつ背景・生活世界があり、それは仕組みから生まれたものではないのだと感じました。
勘違いをしてほしくないのですが、私はサービスデザインがいけないことだとかない方が良いと言っているわけではないです。サービスデザインを勉強している傍ら、なくてはならない、必要なものであるということも分かっています。
今回の旅の到達点に、「人々の生活世界を覗く」というものがあったので、実際に経験してみて学び、感じたことを書いているだけですので、決して悪い意味でサービスデザインを捉えているわけではないです。(ややこしいお話ですみません…。)
今回の旅では、インタビューなどの手法は何も使いませんでした。ただ熊本の生活に溶け込み、街を歩いて、人と話して、おいしいものを食べただけです。そこで目にしたものは、仕組みにとらわれず、そこに住む人々が独自で作り出したコミュニティや関係作りでした。
まだまだ私はサービスデザインについて知らないこともあるし、理解しきれていないこともあります。「悪い意味で捉えているわけではない」と言えるほど、私はサービスデザインについて語れるような人間でもありません。
(なので、このようなお話を書くのはとても恥ずかしいのですが…)
ですが、これからの生活の中で「どうしてこの人はこういう行動を取ったのだろう」と違和感や矛盾に気づけるような態度を身につけたいと思いました。
カスタマージャーニーマップではきっと出てこない、人間のおもしろくて人間くさい行動や仕草に敏感になりたいと考えることができました。
今回の旅は楽しいばかりではなくて、いろいろな人の「人間味」を見つけられた旅でした。
最後に
熊本ではたくさんの方々に刺激をもらうことができました。
コロナで大学1年生のときから遠出の旅行に行けなかったので、今回の旅は思い切った旅となりました。
知らない土地を歩き、その土地に住む知らない人々と出会った5日間は、私にとって刺激に満ちた日々でした。
乗るたびに気さくに話しかけてくださったタクシーの運転手の方々や、スーパーで料理のアドバイスをくれた方々、お店で優しく声をかけてくださった店員さん… 温もりのある土地と人々に恵まれました。
直接伝えることができなくて残念ですが、5日間という短い期間を充実した日々にできたのは、熊本にいた方々のおかげだと思います。
この場をお借りしてお礼を伝えます。ありがとうございました!
長い文章でしたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました😊
🐊 雑談
熊本旅をしながらスケッチをしていました。(一部です↓)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?