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ギャップを減らせ! 〜イマーシブを得るために〜

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今月は、LARP畑の人間から見た、「イマーシブ(没入感のある)」イベントを楽しむうえで、時に発生してしまう「醒める」現象をいかに減らし、深い没入性を得られるようにするための方法ついての、記事となります。
2023年に入り、没入性の高い体験型コンテンツが、数多く打ち出されてきています。また、来年も「イマーシブ」をテーマとしたテーマパークなどがオープンを迎えるなど、「没入」「体験」「当事者性の獲得」などをうたい、「現実と非現実の境界が曖昧になった空間を楽しむエンターテインメント」が今後ますます発展していくことが伺えます。

LARPーライブアクションロールプレイングも、参加者をイマーシブ(没入感)に導く要素をもった文化活動のひとつであり、より、没入するために。や、より、醒めにくいために。といったテクニックが存在しています。そうしたテクニックを紹介していく中で、読者の皆様が様々なイマーシブコンテンツを楽しむ一助になれましたら幸いです。

イマーシブとは何か?

イマーシブ【immersive】
[形動]没入感のあるさま。その状態にひたれるさま。多く、劇場やゲームの演出や体感装置などについて言う。

デジタル大辞泉(小学館)

デジタル大辞泉からの引用ではありますが、形容動詞をそのままカタカナ日本語にして使う場合、定義が使っている人によってまちまちになりがちですので、見聞きした時は気を付けるようにしています。
ポイントとなる共通項は「その状態にひたれるさま」がもたらされる事にあると思われます。

さらに、かみ砕いてみましょう。

LARPのようなコンテンツにおいて「その状態に」とは、どのような状態でしょうか? これは、現実と非現実の境界を曖昧にし、「非現実側に立っている状態に」とも言えますし、「キャラクターになっている状態に」とも言えます。では、「ひたれるさま」とはどのようなさまでしょうか? これは「その状態に対して醒めることなく反応し続けられる」さまであると言えます。

端的に言えば、イマーシブを深く楽しみたければ、どれだけ「その状態にひたれるさま」になるのかを追及することであると私は考えています。では、どのように、「その状態にひたれるさま」を作り上げていけばよいでしょうか?

LARPプレイヤーがなぜテクニックを必要とするのか?

LARPでは、多くの場合は現実空間を使いながら非現実な空間や出来事を演出するため、主催者は参加者に「非現実的な空間の中に存在する、実在しないキャラクター」として振舞ってもらうように求め、参加者はそうした物事を求めて参加します。

しかし、多くの場合、非現実的な空間として演出している世界観にはふさわしくないノイズが現実空間には溢れており、そうしたノイズは参加者を非現実から現実に「醒ませ」ます。

分かりやすい例を述べるならば、ファンタジー世界の森の中をエルフとして散策していた時、コンクリートの道路が出てきて、大型のトラックが通って行ったとしたら。それまでの幻想的な空間は一瞬にして消え去ってしまいます。

こうした「醒める」現象は細かいものから大きいものまで様々に私たちを非現実から現実に引き戻してくるため、LARPをする人たちは、これらに対応するために様々なテクニックを身に着けていることが多いのです。

LARPプレイヤーに学ぶ、没入テクニック

・キャラクターを理解する。

キャラクターは、参加者がそれぞれに扮する、非現実世界の住人です。参加するにあたって「自らが扮する人物」を理解することは、あなたが「没入」することを助けてくれます。なぜなら、キャラクターとして過ごす中で、行動の選択をしなくてはならない時が訪れたときに、自然な行動の発露としてキャラクターとしての選択を行う事ができるようになるからです。
特に十分理解した方が良い部分は「普段の自分は行わないが許容できる行動原理」になります。ちなみに「自分が根源的に避けたい、許容できない行動原理」を持っている場合、別のキャラクターを再選択できるのであれば、GMや主催者と相談して「調整」することが大切です。
多くの場合、普段の自分は行わないが許容できる行動原理を持っているでしょうから、そうした行動原理を十分に前もって知って理解しておく事で、前述した行動選択の時に没入性を保ったまま行動することができます。

・衣装を身に纏う

キャラクターが身に着けているであろう衣装を身に纏うことで、キャラクターの外見が定まり、没入性が高まります。参加者全員がそのようにすることによって他の参加者との交流がスムーズになり、より楽しむことができます。ファンタジー世界の冒険であれば、鎧やマントを身に着けることで高揚感が高まりますし、刑事もののミステリーであればビシッとしたスーツなども良いでしょう。体育教師だったら・・・ジャージというのもひとつの選択肢かもしれません。タンスの中に普段は眠っている、「なかなか着られない一着」を有効活用できる機会が訪れたなら、それはとても素敵な時間になるのではないでしょうか。

・目標と動機の把握

キャラクターには目標や動機があります。これを把握し、他のキャラクターや物語にどのように結びつけるかを考えましょう。そうした目標や動機にまつわる行動にキャラクターに対する感情を込めることで、イベントがより深みを増します。それにともなって、没入性も向上します。

・協力と相互作用

LARPは協力と相互作用の場でもあります。他の参加者やNPCとのコミュニケーションを大切にし、物語に自分のアイディアや要素を加えていきましょう。協力が深まれば、没入感も一層高まります。

・現実と非現実の連動

イベントに現れた物理的なアイテムや環境(これは、リアルにそのままの場合もあれば、見立てられている場合もある)と積極的に絡んでみてください。現実に存在するアイテムを使ったり、環境に合わせて行動することで、現実と非現実の世界のギャップを減らし、没入感をアップさせることができます。

さて、ここまでのテクニックはいかがだったでしょうか?
主に、参加する側としての「キャラクターとして振舞う」事に関する心得と、他の参加者との関わり方に関する心得と実際に手に触れたり感じとったりする物や環境に対する向き合い方だったりしていました。

要するに、自分自身の体を使って「キャラクターとして行動する」ためには『キャラクターを理解』しなければ行動する時にいちいち「醒め」て『このキャラならどう考えるかな?』と考えなくてはなりません。こうした「醒め」は、没入性をうたったコンテンツでは頻繁におこる出来事ですが、これは「没入性」からは醒めていますから、没入感を阻害する要因になっているとも言えます。
また、積極的に自分以外の存在に対して「キャラクターとして」関わっていくことは、非現実世界へのアクセスを頻繁にし、没入感や体験性を増していく事に寄与します。

なお、そうはいっても完璧に全て「醒め」ないように没入し続けることを目指すのは、かえって窮屈になってしまう場合もあります。没入性が高い状況を望みながら、参加者同士、互いに没入性と醒めとの狭間の揺らぎの中で、いい塩梅で楽しむ。といったラインを引いて取り組むことで、楽しい時間を得られる事が多くなるかと思われます。

是非、様々な機会で没入するときに、お役立ていただけましたら幸いです。

さて、後半戦は「LARP提供者側が参加者の没入性を高めるためにしているテクニック」となります。
とはいっても、上記のことから類推すれば、するべきことはこうだよね。って事が中心に書かれていますので、その点、よろしくお願いします。

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