【映画感想】『ラストマイル』(2024:監督・塚原あゆ子)

2マイル目してきたので気になった部分とか妄想とか感想です。時系列無視で連書き。
1マイル目はこっちです。

■エレナの仕事ぶり
初回鑑賞時にはどうにも好きになれないキャラだな、と序盤の彼女に違和感を覚えた。しかし最初から改めて観ると、エレナは着任のその瞬間から、発生するトラブルに対して『正しい選択』をしている。デリフォンの差し止め、五十嵐にデリフォンの出荷についての責任の所在を迫る、ほかの商品がまずいとなったときもすぐに対応。迷いがなく、指示を下していく。のちにコウが「ブルドーザーみたいに仕事を片付けていく」と述べるように。その選択はちゃんと「死者をあらたに出さない」ためのものなのに、プライベート(彼女にとっては)での通話では「死んだのは知らない人だから」と言う場面は虚勢なのか、本音なのか判別しがたかったけど、本音かな。

■爆弾の数、マジックワードの数
たぶん誰か言及していそうだけど、爆弾の数とマジックワードの数が同一なのにちょっと戦慄した。
(筧まりかは意図したわけではなさそうだけど)
「『限界は超えられる』『やればできる』。でも、最後に会ったとき、彼が言ってたんです。『ブラックフライデーが怖い』って」
エレナが言う。「爆弾はまだありますよ」
なら、対になる13個目のマジックワードは『ブラックフライデーが怖い』。
13個目の爆弾はそれなのかもしれない。ブラックフライデーに届いた荷物に、お客さんは思い出すだろう。そして開封時にすこし恐れる。爆発したら、どうしよう。
それは日々『レールの上』に乗って生きている私たちの心身もそうだ。爆発したら、どうしよう。

■復讐の道具を購う〔あがなう〕ための代金
前回、爆弾の代金240万円がDF社で2年間で稼いだ金額では? と思ったのだけど、広告制作費96万円、戸籍購入費用、アパートの敷金礼金がかかっているし、山崎佑と住んでいたマンションの家賃や維持費もあるので、筧まりかもかなり根を詰めて働いていたのでは。しかし結婚式のためのカップルの貯金の平均が317万円らしいので、払えない金額ではないという。

■山崎佑の人事評価
優秀なチームマネージャー。でも「D」ランクになっていて「休みが多い」と記述されていた。削除確認ウィンドウで隠れていて、見えた文章の一部が「が付く」なんですけど、おそらく「よく気が付く」でしかなくて、よく気が付く人間は苦労性で背負わなくていいものを背負っちゃうんだよなぁ、うわぁ、と察してしまった。
あと「依願退職」なの、相互の意思確認のもとでの退職だけど、契約書といい本当に落下後の山崎がそんな判断くだせたの? という疑惑しか浮かばなかった。

■復讐の道具を購う〔あがなう〕際の筧まりか
広告枠と広告制作物を依頼する際まりかが「傲慢な態度だった」と言われていたのがとても不思議だったけど、彼女にとってDF社の人間は「そういうもの」だから演じたんだろうか。だとしたら、やはり筧まりかはすごい。
だって爆弾を依頼した相手からは「いい子だったんだよ、ハッピーちゃん、逃げ切ってほしいな」って言われてるんだもの。

■爆弾作成者
もしかしてhinomoto電機の関係者で職を失ったからでは……などと前回の鑑賞後に妄想していました。
機械関係ですからね、単純ですね。
それらしき描写はなかったようだけれど「俺死刑でいいんだ」にはやっぱり泣いてしまった。

■「やっちゃん」が山崎の父疑惑
Xのリポストで見かけて怯えていたんですが、そうかどうかは不明なまま。
でも病気で、昏睡状態のままの息子をおいていく父の気持ちを思うとやるせない。

■山崎の父と筧まりか
山崎の父だって息子を一人置いていきたくなかったに違いない。
そして筧まりかだって、彼を一人病院に置いておきたくなんかなかっただろう。
転落後10日(本当に?)は意識があって誓約書にサインまでできたなら(本当に?)、山崎佑と筧まりかを入籍できたんじゃないんだろうか(本人が記入した届書を、本人以外の人が窓口に持参することは可能だから)※

でもそうはならなかったしできなかったのは、「職場の同僚」による「恋人との結婚で悩んでいた」という情報があるから。刑事のどちらかが「結婚で悩みますかね!?」って言っていたのは割と真理で、DF社にしてみれば余計な敵(山崎の家族)を増やしたくなかった(労が増えるから)という計算もあったんじゃなかろうか。
そして入籍していない、法的な山崎の「身内」としては無力な存在だからこそ筧まりかの苦悩は深まるし、憎悪も増す。
愛する人なのに法律の上では「他人」になる苦しみがここにある。

※意識不明でも入籍できた判例があったので不可能ではない。はず。判例がめちゃくちゃに古くて……
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/015/054015_hanrei.pdf


■羊のおじちゃんと七海ちゃん
松本家の七海ちゃん(ちいさい)が「(羊の)おじちゃん待ってるの」と言ったことでお母さんは激情をあふれさせてしまう。でも2回目に見て、ここでわかるのは「いつも荷物を届けてくれるのは『羊のおじちゃん』」というちいさな女の子の、佐野運送(羊急便)への信頼感だ。佐野父が母へのプレゼントを持ってきてくれる。だから、ベランダで、1階の玄関ホールで、見ていた、待っていた。
だから佐野父もすぐに思い出す。あのちっちゃいお嬢ちゃんがいるとこだ。

そしてその信頼に佐野親子が応えてしまうのが『ラストマイル』だ。ほかの方も言っていたように、佐野父がいたから、松本母は亘さんを家の中に入れた。その結果、母子は救われた。あの、宅配ボックスからウキウキで運ぶ母子のシーン、結果を知っていてもこわかった。おそろしかった。七海ちゃんが荷物を落とした時には心拍が停止しかけた。

そして窓の外に投げようとして(これ、外に投げるのが危ないと判断したんだと思うけど施錠がしっかりしてたのかな)、お腹に抱えて「逃げて」と叫ぶ亘さん。自分の体を緩衝材にしようとしたのか、わからない。でもひとりで洗面所に飛び込んだのだから、そうなのだろう。無私のすさまじさがあのキリキリした場面にある。うつくしいといってはいけないだろう。だけど、うつくしい。

■食べること
コウはよくものを食べる場面があった。じゃがりこ。マクドナルド。おいしい! って顔はしてないのに、まずいという面持ちでもない。岡田将生さんすごいな。食欲だけをシンプルに演じている気がした。

対してエレナは作品中で「いりこ」を食べてたくらいでは? あとはココアかな。
いりこは「カルシウムとらなきゃ」という義務感を感じる。イライラしないように、みたいな気づかい。
でもあのあとのあたたかい飲み物は彼女の安らぎたい気持ちの発露のような気がする。

松本母は泣きながら、夜遅く、くらいキッチンでご飯を食べている場面があった。『生きていく』切なさがあの場面にあった気がする。生活していくという決意とつらさを感じた。つらいけど好きなシーン。

佐野父子。「ご飯を食べる時間を惜しんで働く」父と「休憩しっかりとってご飯はゆっくり食べよう」という息子。
「メシを10分で食って200件配達してたやっちゃんは死んじゃったじゃないか」
ここのやりとり、会話としてはむき出しなのに子からの慈しみがある。

■ハヤブサ便の白井です
きちんとバイトがんばって『生きて』、誰かを『生かす』ためのいい意味の歯車としてくるくる回っている彼を見られてよかった。だって六郎が言われてたじゃないですか。
手術1時間後だよ! 患者さん死んじゃうよ!
そこに間に合わせたエレナもコウもすごいが、ハヤブサ便の白井くんがいるからこそなんだ。
病院のエスカレーターで「はしるなー」って言ってた大人二人組いましたね。

■伊吹と志摩
あまり出ないって聞いていたのにすごく出ていた。むしろ出すぎでしょ!? 
志摩の「爆弾に銃、火だるまになりたいのか」
火だるまになって死んだ女が実際いたので、すごく効く。七味というか、からいような味がした。
伊吹の「きゅるっとしてた」をいやいや翻訳する志摩もよかった。ふたりで報告に来る前から「それ言うのかよ」みたいにもめていたし。でも伊吹のカンをふつうに信じる志摩がいて、よかった。

山崎の病室で、ふたりが対照的に接していたのも印象深い。
山崎の枕もとのライトをそっと消す伊吹は、彼の眠りがやさしいものであることを祈っているようで。
山崎の点滴薬液に書かれた「ヤマザキ」の濁点をそっと指で隠す志摩は、山崎佑という『名前』を持つ人間を尊重しているようで。

■勝俣くん
陣羽さんとセットで! 現れる! 現着した瞬間から慣れた顔をしている!
MIU404 3話の『分岐点』で彼らが分岐した先に機捜の勝俣くんがいる。
泣くに決まっている。陣馬さんも彼に報告させるようにしてるし。

■五十嵐は『山崎佑』になった
彼は山崎が転落した際の、西武蔵野LCのセンター長だったわけで、「死んでも止めるなって山崎に言え」と叫んだ。
コンベアから降ろした山崎にコートをかけたのは、彼のせめてものやさしさだったのか、あるいはかくしてしまいたかったのか。
エレナがスポーツジムにやってきたとき、彼はランニング用のルームランナー(コンベア)を止め、床に横たわる。
それは山崎がコンベアを止め、床におろされた流れの再現で、これをやる監督も脚本も役者も神がかっている。
あの瞬間、五十嵐は『山崎佑』になったのだ。

■SNSから隔たれた密室
筧まりかが山崎の件をSNSで拡散しようとしたのは、現代ではありがちなこと。
でもセンターの中では、スマホで録音・録画することもなんなら通報さえ容易ではない。完全に遮断された世界。
ブルーパスの人間はただ箱に商品を入れてコンベアに乗せることしかできない。
たとえそのうえに血が流れていても。

■止めたかった/止めた
山崎は『止めたかった』。飛び降りた瞬間の中村倫也さんの演技すごくないですか。
子供が無邪気に「いいことおもいついた!」みたいな笑顔なのに、徹夜明けで頭がハイすぎておかしくなったような目をしている。
そしてエレナは『止めた』。ふたりの違いがそこにある。エレナは『ホワイトパス』を捨てられる人間だった。
パンフレットのインタビューで「エレナは2時間の枠で『知ってもらえる』人間にした」という野木さんの話を見て納得しました。

■世界は罪を贖ってくれますか
筧まりか「世界は私に罪を贖ってくれますか」
エレナ「私たちは少しずつ罪を抱えている」
その罪の累積したものをくらったのが、筧まりかと山崎佑なのかもしれない。
だからといって彼女が彼がそれを理不尽に受け止める必要はない。


あまりに長くなったのであとは箇条書きで。ほんとはもっと書きたいけどほかの方のふせったーにいっぱいあるし。
・坂本さんはもう中堂系の「クソ」を期待している節がある 娯楽か
・あのロッカーの秘密、もう3代くらいのセンター長が引き継いでいるので、おかしなスパンの短さで交代してるんだな……
・中堂系「見上げた根性だ」 ミコト「そんな根性、ない方がいい」はやっぱり深い
・あの焼死シーンが初撮りだったという仁村紗和さん(筧まりか)、よりによってそこから!? ってなった あの涙は「死にたくない」だと思うんだけど、でもそこから迷わず火をつけスイッチを押す覚悟。観ていて目をそむけたくなるけど、でもあの涙は見てしまう。
・山崎佑のまぶた 動いてましたよね……あれが覚醒につながるかは一切わからない(生体反応の可能性もあるから)

■がらくた
何度もリピートしてしまった。当たり前ですね。
歌詞が誰の視点なのか割とはっきりしているのですが、
痛いの痛いの痛いの飛んでいけ飛んでいけ飛んでいけ
の部分、「痛いの」が「居たいの」に掛かってるのかなとは思うんです。
で、英語にすると「居たいの飛んでけ」→I want to go there

英語だと主体が自分で、居たいから飛んでいく、でこうなるのはわかるけどちょっとヒエッてなりました。
おたくのこじつけなんで米津玄師さんはきっと全然こんなこと考えてないです。

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