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1月6日「虚無病」

ああ、明日からまた仕事が始まる。
仕事が辛いなんてありきたりな悩みだけど、僕は仕事が辛くないんだ。じゃあ何が辛いって?僕は怒られるのが怖いんだ。でも不思議なんだよね。僕は仕事に行って怒られることなんてあんまりないんだよ。でも仕事に行くのが怖い。辛い。毎朝腹から気持ち悪さがこみ上げてくるしこの前なんて電車で倒れて救急車で運ばれたんだ。過呼吸だってさ。情けないだろ?でも体が動かないんだよ。本当に情けない。
だからさ、最近考えてみたんだ。何が僕にとって心の枷となるんだろうって。僕は仕事に行って仕事をするのは、多分嫌いじゃないんだ。だってパソコンに向かっている間は楽しいし、なんなら高揚感すら感じることがある。お客様にうちの商品を紹介するときなんて、笑顔でいないほうが難しい。人と話すのは楽しいんだ。だから、きっと僕は仕事は嫌いじゃないんだ。じゃあ何がそこまで辛いのかって言ったら、まあ、人間関係なんだろうね。僕は昔から学校の優等生だったんだ。宿題をちゃんとやって、学級係なんてのをやって、先生の言葉をちゃんと聞いて、みんなをまとめ上げてた。だから、怒られることなんてほとんど無かったんだ。今でも覚えているよ。一度だけ、先生に怒られたことがあったんだ。あれは中学だったかなあ。もともと少し高圧的な人だったけど、もちろん僕はそんな人を怒らせることはしないようにいつも物事に真剣に取り組んでた。だけど、たまたまミスを犯したんだ。今思えば、誰でもやるようななんてことない失敗さ。でもあのとき僕は、心の底からできなかった自分を咎めた。いやアレはもう憎しみかもしれないな。おいお前、お前がそんなだから僕は怒られたじゃないかって。怒られたのと恨みを持ってる僕は同じ僕なはずなのに、今僕の中には二人の僕がいるんだ。僕は自分に苛つくことはあっても、ひとにはいつでも優しくするようにがんばっている。だって、あんな気分に人をするのは嫌なんだ。だから、僕は今恨みの化身なんだと思う。自らを恨み続ける、内側でぐるぐるしてるどうしょうもない化身さ。その恨みと恨みに対する恐怖が、最近体に異変を起こすようになった。朝の嘔吐や過呼吸なんかは、今覚えば僕の僕に対する恐怖心から来ているのだろうね。それに、最近、人に会うのがこわくなってるんだ。とくに、仕事みたいに中期的に関わる人が、とてつもなく怖いんだ。恨みが僕に言ってくるんだ。おいお前、あの人お前のこときっとよく思ってないぞ。おいお前、あの人に怒られないよう、期待にちゃんと答えろよ。おいお前、もう、俺に嫌な思いをさせないでくれよ。って。
ああ、いやだ。いやだ。
もうぼくを一人にしてくれ。
誰にも期待されないのは怖いけれど、僕になにかを望むのはやめてくれ。怖い。そんなに笑顔を見せないでくれ。その下に何があるのか気になってどうしようもなく怖くなるんだ。
ああ、明日から仕事が始まる。
僕の中の化け物が、また大きくなる。
いつか。
僕は、こいつに食い殺されるだろう。
腹のそこから。
這い出てきて。
その時が僕の終わりだ。