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社員戦隊ホウセキ V/第17話;ピジョンブラッド

前回


 四月二日の金曜日の正午頃、Jojoタウンたるショッピングモールで、スケイリーとブルーたち四人は激闘を繰り広げていた。

 相当の覚悟でスケイリーに挑むブルーたち、拡大する被害、そしてグリーンの切実な訴え。

 これらを全て受け止めた十縷は、意を決してキャンピングカーの外に飛び出した。絶対に出るなという命令に反して。


 その時、ブルーたちは戦いを続けており、杖を輪宝貝に換えたスケイリーの打撃を避けて回っていた。そんな中、視力が高く視野も広いブルーが気付いた。外の駐車場で、十縷が車外に飛び出してきたのを。
    それを見て、彼は息を呑んだ。

「あいつ何を……! グリーン。レッドが外に出た。一時、戦線離脱して、奴を車に戻せ」

 ブルーは即座に、最も俊足のグリーンに十縷を制止するよう命じた。
 その時、グリーンはスケイリーのみを警戒していたので、ブルーに言われて初めて駐車場の様子に気付いた。彼女は十縷の奇行にグリーンは驚き、すぐさま外に向かって走り出す。
    グリーンを行かせる為に、ブルーたち三人は三方からスケイリーに組み付いた。かくしてグリーンはすぐにショッピングモールの出入り口を抜け、外の駐車場に飛び出した。

「熱田君、車に戻って! まだ戦えないでしょ!?」

 グリーンは走りながら、車内に戻るよう十縷に訴えた。その時、十縷は左手を天に向けて伸ばしていた。

(いや、違う…。彼、何かしようとしてる…)

 その恰好を見た時、不思議とグリーンの足が止まった。理由は解らない。何故か彼女は、十縷を引っ込めてはいけない気がした。そんな中、十縷は天に向かって叫んだ。

「来い、ピジョンブラッド!」

 十縷の声は広い駐車場に響き渡り、その次の瞬間にグリーンは見た。
    空に蜘蛛の巣状の皹が走り、ガラスのように割れるのを。空に穴が開いた。そしてその穴の向こうから、巨大な赤い宝石が向かって来た。その宝石は言うまでもなく、赤のイマージュエルだった。

「イマージュエル? 熱田君が呼び出したの?」

 グリーンが驚く中、赤のイマージュエルは穴から外に出て、駐車場の上空に姿を現した。そして少しずつ高度を下げながら、赤い光を全方向に放つ。その眩さに、グリーンは思わず一時的に目を逸らす。するとその間に、イマージュエルは様変わりしていた。

「何これ? イマージュエルが消防車に変わった!?」

 状況はグリーンが言った通り。赤のイマージュエルは光の中で姿を変え、梯子車の形となって地に降りてきた。
    基本的なボディは赤い透明な宝石で、光沢の弱い銀が縁取りに似た装飾と梯子を作り、黒地に金を散りばめた紫金石のような石がフロントガラスやタイヤを作っている。
    これが赤のイマージュエルが変形した【ピジョンブラッド】の姿だった。


 赤のイマージュエルの出現、そしてピジョンブラッドへの変貌は、多くの者たちを驚愕させた。

    一階の出入り口付近で戦うブルーら三人とスケイリーは、一時的に戦いの手を止め、その光景に見入った。

    二階や三階のガラス壁に貼り付いて叫んでいた人々は、一時的に黙った後、期待に満ちた歓声を上げ始めた。
    その中で揉まれながら、ゲジョーは震撼していた。

宝世機ほうせきだと!? ザイガ将軍と同じ能力? これが赤の戦士の力!?」

 ゲジョーはスマホでピジョンブラッドと十縷を撮影するが、その手は震えが止まらなかった。

 そして、この様子は寿得神社にも届く。リヨモが外したティアラは、ちゃぶ台の上でこの映像を空中に投影していた。想定外の光景に、愛作とリヨモは驚くばかりだ。

「イマージュエルを宝世機に変えた……。行けます。あの方なら、勝てます」

 先まで雨のような音や耳鳴りのような音ばかり出していたリヨモが、鈴のような音を鳴らし始めた。
    その隣で、愛作は驚きながら頷いた。

「方針変更だ。レッド、宝世機を使って逃げ遅れた人を救出しろ!」

 愛作は意気揚々と、指環から十縷に呼び掛ける。その声は十縷のブレスに伝わった。
 愛作の声、更にはリヨモの期待を受けて、十縷は叫ぶ。

「ピジョンブラッド、まずは火を消すぞ!」

 ピジョンブラッドの長い梯子は、先がノズルのようになっている。十縷が叫ぶと、そこから勢いよく水が放出された。
    建物の外壁にかかった水は不思議と壁をすり抜け、ショッピングモールの中に雨が降らすような形になった。

    二階より上の吹き抜け部分はスケイリーが放った火で激しく炎上していたが、この雨はそれをたちまち消していく。気付けば吹き抜けには、七色の虹がかかっていた。
    その虹を見上げる一階のブルーたち三人は、その美しさに見惚れて言葉を失っていた。
    対照的なのはスケイリーで、上層階から垂れて来る水滴や、霧のように舞い散る微細水滴を体に受けると、苦しそうに床に倒れて悶えていた。

「次は救助だ。ピジョンブラッド、梯子を伸ばせ!」

 鎮火が終わると、十縷は再び叫ぶ。その声に従ってピジョンブラッドの梯子を斜め上に伸ばし、ショッピングモールの二階のガラス壁に達した。乱暴にガラス壁を破壊したものの、梯子が迫って来ると人々は咄嗟にガラスから離れたので、怪我人は出なかった。

    かくしてこの梯子は、エレベーターやエスカレーターを壊された人々に避難経路を与えた。ガラスが割れた後、人々は大挙して梯子に群がり、次々とこれを伝って地上へと降りていった。


 一連の救出劇を、グリーンは呆然と眺めていた。十縷がここまでの活躍を見せるとは、微塵も想像できなかった。
   そんな彼女の目の前で、ピジョンブラッドの梯子から降りてきた人々は、嬉しそうに駐車場を走って逃げていく。

    暫くするとブルーたちもショッピングモールの出入り口から駆け出して来て、立ち尽くすグリーンに十縷と合流するよう促した。このような成り行きで、グリーンたち四人は十縷を交えて一同に会した。

「すご過ぎますわ、レッド君! いきなり大活躍ですわね!」

 マゼンタは興奮していて、開口一番に十縷を称えた。イエローもそれに続き、「グッジョブ」と十縷の肩を小突いた。
    十縷は照れ臭そうに、頭を掻く。

「迷惑掛けたね。みんな、貴方のお蔭で助かったよ」

 グリーンはそう言った。十縷は “ 迷惑掛けた  ”  の真意が読めず、首を傾げていた。
   そしてブルーも彼らに続いて十縷を称えようとしたが、ここで彼らは戦闘中だったことを思い出させられた。

「お前が赤の戦士か? いきなり宝世機を出すとは、一泡吹かされたぜ……」

 スケイリーも外に出てきたのだ。
    ところでピジョンブラッドの水に苦しんだ彼は未だそれが響いているのか、足元は覚束ない。喉から絞り出されたような声怒りや憎しみが籠っているが、それと同時に苦しそうだ。それでも、スケイリーは戦意を失っていないらしい。

「レッド、車に戻れ。後は俺たちが片付ける」

 ブルーはそう言って、一歩前に出た。十縷はまだ戦闘訓練を受けていないので、この指示は妥当である。しかし、十縷はこの指示にも逆らった。

「いえ。僕も戦います。どんな時でも、十縷じゅうるの望みに縋れる! 今、めっちゃインスピが湧いてるんです」

 そう言って、十縷はブルーより前に出た。意味不明な発言をする十縷に半ば苛立ち、怒鳴ろうかとも思ったブルーだが、それより先に十縷は動いた。

「ホウセキチェンジ!」

 今日で十縷に驚かされるのは何度目か。十縷は四人の真似をして、ホウセキブレスを装着した左手を前方に突き出して叫んだ。
    するとブレスに備わった赤い宝石が、更に赤く輝く。その光は十縷を包み、四人と同様の戦闘服へと姿を変えた。

(え!? 変身した!?)

 ブルーだけではない。四人とも、それどころか寿得神社の愛作とリヨモも驚愕した。

 リクルートスーツ然とした黒が基調の全身スーツ、宝石のようなゴーグルを備えた黒いヘルメット。
    額には三角形のセビナッツカットを施された赤い宝珠が輝き、赤の宝石のようなゴーグルは、簡単なカットの細長い台形が二つ、V字のように並んでいる。
    黒いジャケットの胸元に覗くカッターシャツは赤で、襟の形状はイエローに似ているが、彼と違って左前でボタンを閉じていた。
    そして腰に巻いたベルトの赤いバックルには、Vの上に正五角形が描かれた、四人と同じ黒い紋章が描かれている。

『ついにお出ましか。赤の戦士…』

 何光年も離れた小惑星で、ザイガが鈴のような音を鳴らしながら呟く。

 十縷は正真正銘、赤のイマージュエルの戦士・ホウセキレッドに変身したのだった。


次回へ続く!

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