父とサシ飲み。

父とサシ飲みする。
やりたい事を考えていて、ふと思い付いた。今までやりたいと思ったことはなかった。
まず私はお酒を飲まない。体質的に受けつけないからだ。呑む行為に憧れて缶ビールを買ってみるものの、半分も飲めずに気持ち悪くなってしまう。
姉の結婚式にて、ごく少量の食前酒で顔が真っ赤になり心配された。
それに加えてお酒って苦いし、飲み込みづらい感じがする。これ飲んでいいやつか?って身体が未だに聞いてくる。
だから自分では飲まないし、たまにパートナーの呑んでる酒をちょびっともらう程度だった。

なのに、父と二人で会うとなれば
“サシ飲み”したいなと思った。腰を据えて向き合えるような気がしたのだ。ご飯食べてはいサヨナラ、ではなく。父にその意向を伝えたかったのもある。
両親は私が社会人になってから離婚しており、父と会う機会は多くない。
家族で集まることは奇跡的にあるのだが、私たち子どもは結婚しているのでそれぞれのパートナーを連れて集まる。
父と二人で話す機会はほとんどない。

正直父がどういう人間なのか、何を考えているのか、よく分からない。
そりゃ何となくは知ってるけど、私は一対一で向き合った事がない。
だから話してみたい。
そんな訳で父に声をかけてみた。トントン拍子で話が進み、駅近くの居酒屋で会うことが決まった。

(※ここからグダグダと長いです。
頭の中の整理でもあるので、申し訳ありません。)

普段は車で行くのだが、お酒を飲むので電車移動する。とにかく新鮮で楽しい。
待ち合わせ時刻にギリギリ間に合う電車に乗るつもりだったけど、父が家族で集まると誰よりも早く来ているのを思い出し、一本早い電車にした。
駅に着くと三十分も早かった。駅ビルの本屋に入りぶらぶらして、さて向かおうかなと思った時、父と何を話すか特に考えていないことに気付いた。
一つ話しときたい事はあるが、それ以外何にも決めてない。
もう今更考える頭にもならない。
待ち合わせ場所に向かった。

しばらく待つと父が歩いてきた。
私が行こうと思っていた居酒屋ではなく、その隣の鳥貴族に入ることになった。
鳥貴族ってリーズナブルな印象だ。今日は私が払うつもりなので、安いのは助かる。
それにしても案内された席が二人掛けなのは良いとして、隣のカップルとの距離が近すぎるのは気になる。会話が丸聞こえじゃないか。

向き合って座ると、父が私を見て
「なんか、所帯じみたなー」
と笑った。確かに髪を切ってから自分の主婦感?が増したような気はしてたけど、それ以外にもいろいろあったんですよと。

軽く話してから、近況報告をする。
秋に妊娠したこと。つわりに苦しんだこと。母子手帳を貰う手前で流産したこと。手術を終えて今は体調万全なこと。
父は「そうやったんか」と驚き「まあでも、身体に後々の影響がなくてよかった」と何回か言った。
その流れで弟の子ども(一歳)の話になった。父から孫がほしいという言葉は聞いた事がなかったが、やはり初孫の話をする時はうれしそうで、出来るだけの事をやってあげたいという気持ちがにじみ出ていた。

その後は父の通っていた飲み屋の話になった。子どもの頃はよく知らなかったが父は相当飲み歩いていたらしい。母の立場になると複雑だが、父は武勇伝というニュアンスでもないが若干誇らしげな様子で話した。云わんとするところは分からなくもないが、私は派手に遊ぶ事に魅力を感じない。父は社交的なタイプだったのかなと思った。家でお酒を楽しむ姿をあまり見たことがない。外に飲みに行くのが好きだったようだ。

初めて行った店でも常連のような雰囲気を醸し出し、寿司屋でメニューにない卵焼きを注文して板前の反応を見、飲食店では自分だけのお気に入りの一品を見つけたいらしい。ただの面倒くさい客に思えるが、当人はそれを分かりつつ面白がってやってるようだ。飄々とした雰囲気。これは昔から父に感じる空気。
投げやりとは違うけど、何かに執着して歯噛みして悔しがる姿が想像できない。
それは旦那にも言える。
旦那と父は正反対のタイプだが、初めて二人の共通点を見つけた。

父は飲食店で、どこでも頼めるようなフライドポテトとかソーセージを注文する人が嫌いらしい。私はフライドポテトを注文すると言ったら、父は「お母さんもそうやろ」と笑っていた。
「お母さんは、お父さんにない物を持ってる。だから結婚した」これは父がよく言うのだが、今日も出た。
耳タコではあるものの、私にはこの言葉がこの上ない愛の表現に聞こえるのだがなぜだろう。まあ二人離婚してるんですけどね。

父は話し上手で合わせ上手だ。
楽しく時間は過ぎ、二時間半ほどで切り上げて店を出てきた。
「今日はありがとう。またね!」
駅の改札前で別れた。帰りの電車まで二十分ほどあったが、ホームの椅子に座って待つ時間は苦ではなかった。 

今日はサシ飲みしてよかった。
父方の親戚の近況や、父の仕事場の話も聞けて面白かった。
ただ、父がどんな人間なのか掴めた感じはない。いつも通りの父だった。満足したけど、どこかで拍子抜けした感じもあった。
私は何を知りたかったのだろう、二人きりで会うお父さんに何を見たかったのだろうと考えた。

幼い頃見た父は、どちらかといえば物静かで落ち着いた印象だった。
思慮深く、黙って耐える強い姿。 
それは私の作り上げた、父の理想像だったのかもしれない。
理想の父は全てを察してくれ、私に無二の愛情を注いでくれる。
私は父に良く思われたいのだと思う。
その大元をたどれば、私の良い所に目を向けてほしいとか、姉よりも良く思われたいという、小さい頃からの願望なのだろう。

大人になった今、父にああしてくれこうしてくれと言いたい訳ではない。
私が求めているものは、人からではなく自分自身から受けとれるものだろう。
親に求めていた事を、自分が果たす。
その為に自分が求めていた事をできるだけはっきりさせる。
両親へ出さない手紙でも書こうかなあと思った。 

それはそれとして、また二人で呑みたい。

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