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なの日記「死んだ家族」

男は周囲からはアスペルガーだの発達障害だのなんだのと言われていた。それでも我が子を自分なりに大事に大事に育てている。
男は育休を取り、我が子が産まれてから数ヶ月、家事育児を積極的に行なっている。妻は自分の身体が元気になれば、家のことと我が子を男に頼んで働きに出た。

男は元からどこかおかしい人だとは思われていたが、子どもが亡くなってから、異常になってしまった。
子どもは突然、亡くなったのだ。
男は仕事に戻るでもなく、家事育児から抜け出さないでいた。空を愛で、無にオムツを履かせ、我が子と呼ぶ何かをお世話をしているのだ。
妻は真面目に働いているが、それでも貯蓄もついに底が見えてきた。男はまだ育休を取っていたが、育休をとっている気になっているだけであった。会社からはもうすでに捨てられていたのだ。

我が子が亡くなってから男は外に出て紙を撒き散らし、暴れ踊る。そして家に帰り“我が子”を愛でお世話をする。またふらふらと社会へ出歩き奇声をあげている。
それを見た人々は陰口を言い、男を止めるものは誰もいなかった。社会からも見捨てられていた。

今日も男は空像の我が子を抱きながら散歩をする。
我が子はジャガイモが好きだった。
「はは。またそんなに急いで食べなくても、ジャガイモは逃げないぞ。」
優しく声をかける。
「ほら、服が汚れちゃうよ。」
我が子に与えたジャガイモが、服を通って形を変えずオムツに転がる。それを男は可愛がる。
我が子は太陽さんが好きだった。
日の当たるところで眠るのが好きなのだ。自然の温もりが好きなのだ。
今日も太陽を求める我が子を連れてカーテンの内から外を眺める。ハリボテの太陽に問われる。
「まだ休むのか」
男は我が子を抱きながら答える。
「もう育休も切れるそうです。」
太陽はいつもと違いチグハグな見た目をしていた。
ああもうダメになってしまったのか。男は思う。
それでも腕の中の我が子をあやす。

仕事から帰ってきた妻に向かい男は言った。
「ここを出よう。
 すべて捨てて好きに生きて、共にのたれ死のう。」
そうと決まれば家にあるものをすべて売り出し、捨てるものは捨て、妻と我が子を連れてオンボロハイエースで旅に出た。
直後、爆撃機に打たれた。

今日の夢はそんな夢。   なの


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