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「タ」バコの煙の細くたなびきたる

「タバコがなければ、買いに行けばいいじゃない」

かつてそう言ったマリー・アントワネットが老衰で死んだ。

俺はマリーの葬式へは行かなかった。

泣き腫らした顔で式場へ行き、さらに泣き続けることをわかっていて、マリーに合わせる顔など無いだろう?
 
だから俺は近所の公園へ行って、一人でマリーへの追悼式をすることにした。

この公園はマリーとの思い出の場所で、二人で初めてモンゴル相撲をしたのも、あそこの砂場でのことだ。

勝てないとわかっていても俺に向かってくるマリーのその闘志に俺は惚れちまった。

結果は俺の全勝だったけど(53戦という激闘!)、疲れ果てた二人仲良くあそこのブランコで食べたほっともっとの弁当(俺はから揚げでマリーはチキンカツカレー!)の味は一生忘れない。

弁当を食べ終わった後、夕焼け空を見上げながら二人仲良く吸ったタバコ(俺はハイライトでマリーは缶ピース!)の煙は今も宇宙のどこかを漂っている、と思いたい。
 
一本タバコを吸った後、ハイライトのソフトパックにはもう一本も残っていないことに気づいて、俺はマリーに「一本くれよ」と言った。

そしたらマリーが

「タバコがなければ、買いに行けばいいじゃない」

と言ったもんだから。

「こりゃ一本取られやした」
と言いたかったが言えなかったので今ここで言う。

初めてモンゴル相撲をしたあの日から63年経った今。

「こりゃ一本取られやした!」

成仏してくれよ、マリー

俺は懐から缶ピースを取り出してひと吸いした。

そして、そのまま砂場に作った小さい山の頂上に突き刺した。

山の頂上から突き出たピースから出た煙は、宇宙の隅まで届くような気がする。

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