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故郷〜女子の生き様〜

「とうとう、この街から私は追い出されるのだ」と、勝手に思った。父が亡くなり、社宅に住めなくなった私たち家族は、都会から田舎に引っ越すことになった。

友達がお別れ会をしてくれた。しかし、私の中では、この子たちと2度と会うことはないだろうなと感じていた。

恋人でも友人でも、トカゲの尻尾切りのように、縁がばちんと切れる瞬間が見えるときがある。そこまでの関係だったなと思うことが何回もあった。

私は誰も友達のいない土地で、ひとりぼっちになった。

そこで、いろいろな職につき、自分なりに精一杯働いた。

そんな中、東日本大震災が起きる。

見覚えのある風景が激しく揺れるニュースの映像を見た。

ニュースで死者の情報が発表された。見るかどうか、迷ったが、見た。
そこには私が考えつく、友人、知人の名前はなかった。ホッとした。しかし、現実に亡くなった方はたくさんいるので、喜んでいいことなのかわからなかった。

SNSで友達を探した。そして、見つけた。友達は大震災のさなか、子どもを産んでいた。なんだか、それが嬉しかった。

何一ついいことなんてなかったと思った故郷だったが、遠く離れてみると、いいところもあったんだなと思えるようになった。

どんなところに移り住もうと、私の故郷が変わることはないのだなと思った。

クリスマスにみんなでケーキを作って、クラッカーを鳴らしすぎて、火薬くさくなったケーキを残さず食べた思い出とか、友達がいない私をお家に呼んで手話を教えてくれた友達とか、何気ない毎日にいい思い出がいっぱい詰まっていた。

現在、コロナ禍でその何気ない日常がおくれなくなっている。そのような子どもたちは「思い出不足」ということが起きていると聞く。

非常事態を知って、私は「幸せな子ども」だったんだなと思った。

早くコロナが収束して、何気ない日常を取り戻し、宝物のような思い出をたくさん作ってほしいと思う。


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