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【創作百物語】 一月十日のシェヘラザード 第四夜目『ホワイトアウト』


『ホワイトアウト』 (くだんを喚ぶまで残り九十六夜) 

私の街ではすぐにホワイトアウトになる。
ホワイトアウトというのは、雪が風によって舞い上がり、視界が一面、真っ白になることだ。
私の街では降雪量は多くないものの、田園が広がる平地は風を遮るものを持たず、吹きさらしの風が雪を高く舞い上げた。日によってあまりにホワイトアウトがひどい時は、三メートル先の障害物ですら見極めるのが困難になる。そのため、私の小学校は休校になることがしばしばあった。

ある冬の日、一日中ホワイトアウトがおさまらなかった。

翌日、小学校の校門に二つの大きな雪だるまがあった。
「奈央ちゃん、これ…」
「うん。一昨日はなかったよね」
大人と同じくらいの身長で、真っ白なシンプルな雪玉が二つタテに繋がっている。
「なんだろうね」
昨日のあのホワイトアウトの中、誰かが雪だるまを作っていたというのだろうか。
気がつけば周りに小学生が多く集まっている。
「行こう奈央ちゃん」

その翌日———またホワイトアウトになる。

「まただ……」
校門前には雪だるまができている。一昨日の分と合わせると、四体の雪だるまが出入り口の門扉の前で生徒たちを迎えるようだった。
それからすぐ、子どもたちの間ではホワイトアウトになると雪だるまを誰かが作って置いていくのだと噂になった。

「次は六体だなぁ!」
クラスの男の子が、楽しそうに叫んでいるのを私は聞いた。

ホワイトアウト。
そして、その翌日。

「………あれ?」

私は校門前で複雑な思いになった。
雪だるまは、三体に減っていたのだ。そして、消えた一体が置かれた場所からは、消え入りそうなほどうっすらとした足跡が、田園の中央を渡っている。
「減ったねぇ。奈央ちゃん」
うん、と頷きながらも、その不気味さに私は駆け足で校舎に入っていった。

さらに翌日、晴天にもかかわらず、学校は臨時休校となる。
「えーどうして?」
私は母に聞いたが、母は青い顔を隠そうとせず、何も言わなかった。
その様子を見ながら、私は不思議に思いながらも真相を聞き出せずにいた。本を読み、ダラダラと過ごしていると、お昼時になり高校生の姉が帰宅する。

「午前の授業で下校することになった」
小学校の近くにある私立高校に通う姉が帰宅するなり、冷蔵庫のドアを開ける。

「どうして?」
私は本から顔を上げて姉に聞いた。

「あんたの学校のことでしょ?聞いてないの?」
姉は呆れた様子で、私を見る。少し、面白そうにして、口角を吊り上げながら言った。

「あの雪だるまから、死体が見つかったの」
「……死体?」
「そう、しかも………」

三体全てから、三人の死体が見つかったのだと言う。
身元はわかっていない。

「怖いよねぇ三人だよ?犯人もわからないし…でも、噂になってる…」



———四体目の雪だるまはどこへ行った?



『おやすみ』


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