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庭仕事とジョビ子

うちにはささやかな庭があって、そこに夫が植えた果樹がいくつか育っている。
もともと夫が一人で暮らしていた家に後から住んだ私は、庭のレイアウトに最初から関わることはできなかった。

私が何か新しく大きめの木を植えたりできるほど広くはない。
そこで、果樹の下に少し余白がある土の部分に目をつけた。ここに、小さな花の苗やハーブを植えてみたりして、さらに足りなければ鉢植えを増やし、徐々に陣地を広げていく作戦を密かに実行し始めた。

そして、目的を果たすためには、剥き出しの土に生える雑草との戦いに勝たなくではならない。そんな厄介者をプチプチ抜いたり、なぜかうまく育たない半枯れハーブを整えたり。憧れていた庭仕事のイメージからは程遠いことを繰り返す日々が続いた。
そんな冬のある日、庭に可愛らしい小鳥のお客が訪れた。
私は初めて見る鳥だった。

小首をかしげるジョビ子

グレーの羽に入った白い斑、お腹のオレンジ色が可愛い。ジョウビタキのメスのようだ。
野鳥愛好家の間では通称、ジョビ子と呼ばれている。人懐っこく、スズメほどの大きさで、冬の季節に日本に飛来する渡り鳥だという。
その子がしゃがんだ私のすぐ近くの柵にとまって、小首をかしげている。庭仕事をじっと観察しているようだ。

これまでもハクセキレイやシジュウカラなど、人をあまり怖がらない野鳥を見ていたが、彼らとは比べ物にならないほど近くまで来て、逃げない。
首を振ったり、こちらを見つめたりと、その愛嬌いっぱいの振る舞いは、私が愛するセキセイインコを思わせる。

どうやらこの家の庭先をジョビ子管轄のエリアと認定したらしい。その後も、庭仕事をしていると目の前に飛んできたり、背後から「カカ…カカ…」「ヒッ!ヒッ!」と鳴いたりして、「来たよ」と可愛く存在をアピールしてくれるようになった。
(と都合よく人間は思っているが、ジョビ子的には単に監視しているのかも…)
私がいじった土の上にパッと舞い降りて、「あたちの庭で何やってるの」という感じでチェックすることも。

そういえば、冬の初め頃、ジョウビタキのオス(通称ジョビ男)とメスらしき鳥が一緒に家の周りを飛んでいたのを一度見たのだった。それがジョビ子だったに違いない。
ジョウビタキは日本に渡ってきた時にはすでにペアを解消しており、単独で持ち場を作るという。しかも、人間への人懐っこさとは反対に、自分の縄張りに入ってくる同種の鳥はオスメス関係なく許さない、喧嘩っ早い鳥でもあるらしい。
そんなシビアな自然界でも、ジョビ子には優しい彼氏がいたのかしら。物件の下見まで付き合ってくれるなんて。
「良さそうだし、ここにすれば。俺は近くで探すから!」…みたいな?
群れないかっこいいジョビ子にそんな過去があったなんて素敵だ。

勝手な小鳥のラブトーリーを想像したりして、可愛いジョビ子を今日も冬の小さな庭で待っているのだ。

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