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苦味

口の中が苦く乾いていた。
 心臓に釣り針が幾本も食い込むような感覚がいつまでも抜けず、釣り針はそれぞれ引っ張り合うこともなく心臓の肉に食い込み、かみつき、しまいに肉から針の先が見え、血が滴る。
 寄るべない寂しさやら恥ずかしさが、薄桃色の、ビー玉ほどの大きさの玉になって喉につかえた。心臓に釣り針が幾本も食い込むような感覚がいつまでも抜けきらず、釣り針はそれぞれ引っ張り合うこともなく心臓の肉に食い込み、かみつき、そのうち自然と肉から針の先が見え、血が滴る。
 とうに夜中の二時を過ぎていた。暗い部屋の中、ひらけた冷蔵庫の暖色だけが目に刺さり、自分の痩せこけた頬の翳りとか、目許のくまだとか、こめかみにできたにきびだとか、それらが色濃く影を落とすのを感じ、しばらく冷蔵庫を開けたままでいた。暖房から降りる二十三度と、冷蔵庫から漏れ出る冷気を交互に感じていた。

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