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雲にナイフ

 雲を切ったら赤い血が出た。血はまな板に丸く広がり、どこまでも広がり、ふちまで来ると点々としたたる。生きた雨雲、かつて生きていた雨雲は、ナイフの切れ込みからえも言われぬ甘い匂いを漂わせていた。血を流水で洗い流して、指を入れて中を割くとコロリ、と雷の玉が出てきた。雷の玉はまるで冬の水のように透き通った水晶玉で、照明に透かして見ると、灰色、橙、青、緑と玉の中にうつくしい層を作る。その縞模様は見ようによっては虹のようでもあり、ときおり玉の中で、カンカン、ピッピと虹を崩すように青や黄色の雷が音を立てて光るさまをわたしは見つめていた。

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