見出し画像

きれいごと

 お母さんは最近「●●様がいちばん偉い」と云って、聞かない。けれどもこんなこと、学校の同級生に言っても信じてくれないし、もし信じても、わたしはあたまの悪い子は好きじゃないから、話さない。
 お母さんが●●様を信じ始めてから、お母さんは洗濯しなくなった。ゴミも出さなくなって、ご飯も作ってくれなくなった。お母さん、と声をかけても返してくれなくなった。いつもなら笑ってくれたことも、笑ってくれなくなった。でもこの前、うちに来た知らないおじさんがわたしの頭を撫でた時、お母さん笑ってた。わたしもつられて笑った。お母さんが久しぶりに笑ってくれたのがうれしかった。
 今日、学校行ったらシュウくんにカルトって呼ばれた。なにそれ、って訊いたら、シュウくん逃げてった。
 どうやらお母さんが正しいと思っていることがあっても、それは周りからしたら正しくないことらしくて、お母さんの意見は、大多数の、多数決で塗りつぶされて、真っ黒にになる。
 正しさってなんのことよくかわからない。偉い人の云うことを云われた通りすること? みんなにからかわれたり、筆箱捨てられたりすること?
 なんだかもう、よく、わからないけれど。
 それが正しさなら、いっそのこと、わるもののままでかまわないから。
 ただ、前みたいにお母さんに褒めてもらいたかった。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?