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『カード師』 月1読書感想文7月


『カード師』 中村文則  2021年 朝日新聞出版


本作の主人公は占いを信じていない占い師であり、様々なカードの扱いに長けているため、違法カジノのディーラーを務めることもある。


この作品に限らず、作者の普通と言われる世界から外れた世界・人への強い愛着を感じる。
本作の主人公も幼少期を施設で過ごし、子どもの目で見た人の優しさや残酷さ、寂しさが、今も主人公の心の底からときどき浮き上がる。

主人公の身を置く場所は、常に理不尽と不平等という言葉しか存在しない。
幼少期の施設での体験、主人公に仕事を強制する裏組織(自分はお前の飼い主だと、主人公に言い放つ)強大な力で人とモノの区別がなく気まぐれに握りつぶしていく存在、違法カジノで破滅していく人達…

裏世界から引退したい主人公だが、そのために必要な資金と己の命を守るために、裏組織から強制的に依頼された危険な案件に引きづり込まれていく。

『殺されないためには、どうすればいいのか?』
そんな考えが頭の中に常に行き来する状況を、なんとか泳ぎきりエンディングへと向かう。

途中途中に入る、ポーカーのシーンや錬金術師のシーンは、好き嫌いや理解できるできないが分かれる所だと思う。
人間としての存在が掛かったポーカーのシーンは、緊迫していて読み応えもあるが、疲れていて眠い時に読んだので、イマイチ理解不足に終わってしまった…

作中に出てくる絶望を撒き散らす存在がいるが、実は彼自体が絶望に捉えられたまま、そこから抜け出そうとはせずに、空洞を抱えたまま怪物となった存在だということも興味深い。
終わり方も彼らしいと感じた。

〝人間は、本当は、誰も完全に絶望することはできないんだ。だってそうじゃないか? まだこの世界が、どのようなものかわからないんだから。わからない場所にいるのに絶望なんてできないんだよ“

世の中は、人間は、残念ながら理不尽で不平等。
しかし、誰もが明日のことはわからない。
だからこそ、絶望ばかりしてはいられない。


最後は希望と作者の祈りのような心境を見る。
他の作品にも見られるが、他人から見たら希望とは思えない希望を、主人公が染みるように感じている姿を見るのが好きだ。





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