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緊急輸血したんだってさ ② (愚痴日記 第7日)

 クレディスイスという世界的な金融機関が経営危機に陥り、政府や中央銀行が救済した。アメリカでもシリコンバレー銀行が潰れたけど、政府が特例措置として、預金を全額保護した。

 『民間企業をなぜ、税金で助けるの?』と、うっかり質問してしたばっかりに、プロデューサーSから特別なレクチャーを受ける羽目になってしまった私。
 
 オンエア後のスタッフルームで、Sは説明を始めた。
「お金は『経済の血液』で、これを循環させる役割を担っているのが金融機関だ。今回、クレディスイスという大銀行が経営危機に陥った。これによって、資金の流れが不安定になる危険性が高くなったんだよ。」

「大けがをして、出血してしまったというわけですか?」
「その通りだ。こんな時、どんな処置が行われる?」
「まず止血し、それから輸血です。」
「今回、政府と中央銀行が行った措置がそれだったんだ。まず、潰れかけいたクレディスイスを管理下に置き、他の銀行に救済合併させることで資金の流出を止めた。その一方で、流れ出した資金を埋め合わせるために、中央銀行が大量の資金供給した。止血と輸血をしたんわけだな。」

そういうことなのか・・・

「もし、出血を放置したらどうなると思う?」
「血流が悪くなり、貧血状態になって、最悪の場合、出血多量で死んじゃいます。」

「そうだ。それが現実になったのが、リーマンショックだ。2008年、リーマンブラザーズというアメリカの投資銀行が経営危機に陥った。でも、政府もFRBも事実上放置した、自業自得だとね。」
「結局、リーマンは倒産した。その結果、大量の資金が銀行システムから流出、アメリカのみならず、世界経済全体が極度の貧血状態となり、倒れちゃったんだ。」

 リーマンショックは記憶にある。なんか急に景気が悪くなったって、パパが嘆いていた。ボーナスが減ったから、私のお小遣いも減らされた。

「その経験があったから、今回は間髪入れずに止血と輸血を行ったんだ。クレディスイスは、麻薬組織のマネーロンダリングに手を貸したり、モザンビークでの汚職に関与したりと、金融界では『素行不良のワル』の烙印が押されていた。その結果、銀行で最も重要な信用力が急速に失われ、経営が行き詰まってしまったんだ。そんなワルが大暴れの末に大けがを負ったわけだから、死んじゃっても自業自得、とに思うるかもしれない。」
「でも、政府と中央銀行はクレディスイスを救急車に乗せ、病院で緊急手術して命を救った。同時に大量の輸血もして、世界の金融システムが混乱しないようにしたんだ。この措置のおかげで、今のところ、大きな混乱は起こっていない。まずはひと安心というところだね。」

「アメリカでシリコンバレー銀行の預金者を保護したのも、同じ理由なんですか?」
「そうだ。金融不安は連鎖する。大切な預金が失われると思ったら、経営不安のある銀行から預金が引き出されることで、たちまち行き詰まってしまう。そして、同じような事態が、他の銀行にでも発生する。こうした不安心理の連鎖を止めるために、アメリカでも特別な措置が執られたというわけだ。」

「経済ニュースは、分かっているようなふりをしている人が多いけど、本質を分かっている人は少ないんだ。オンエアで、素朴な疑問をぶつけてみるといい。それは、視聴者のモヤモヤを、代わりに解消してあげることになるからね。」
こういって、Sはスタッフルームを出て行った。

 お金は経済の血液。銀行が潰れて出血したら、まずは止血、そして輸血が大切。リーマンショックがまた起きたら嫌だ。テレビ局の経営も悪くなり、給料も減らされる。不景気は嫌い。
 政府も中央銀行の皆さんにも、是非、頑張って欲しい。
 でも、まずは銀行の経営者がちゃんとすることが大事よね。クレディスイスの人たち、悪いことばっかりしていたみたいだけど、ちゃんと責任取るのよね。放漫経営して大けがし、死にかけたけど税金で助けてもらって、挙げ句の果てに、高い給料をもらい続けるなんて、絶対に許せない。
 
 もちろん、合コンもなしね。


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