平安吸血絵巻【源氏夜叉】~鬼になった光源氏~第四帖 一夜の幻 藤壺の女御編 (若紫との出会い) 

平安吸血絵巻【源氏夜叉】~鬼になった光源氏~ 第四帖
一夜の幻 藤壺の女御編 (若紫との出会い)

〇三条邸(藤壺の実家)

馬を下りる裏木戸を叩く

「俺だ、命婦(みょうぶ)…ここを開けてくれ」
(注・命婦とは高貴な人に付く一番格上の女房をいう名称です。乳母の場合もあり
中から木戸が開く

「藤壺様がお里下(さと)がりしたと聞いた。会わせてくれ」

扉を無理やりこじ開けて屋敷に入る

「わかっている。だが…今を逃せばこうして会う事も出来ないのだ。お前は私の気持ちをわかってくれていたではないか…だから」

屋敷の廊下をずんずんと奥へ歩いていく

〇同・藤壺の部屋
部屋の前で立ち止まる

「藤壺様のお部屋は…ここか」

御簾を上げて中に部屋に入って行く
藤壺は光の気配に几帳(きちょう)の影に身を隠す

「隠れないで下さい」

几帳に手をかけて藤壺をみつける光
駆け寄り藤壺を抱きしめる

「ようやくお会い出来た」

抱きしめる腕に力が入る
逃げ出そうとする藤壺
「なぜ…逃げるのです。そんなにお嫌いですか?」

違う…でも私は帝のあなたの父上の妻なのです

(ここからは懇願して哀願して下さい。藤壺に思いを伝える最初で最後の告白になります。女々しくてもいいんです。かっこつけずにお願いします。光の元の性格が出ます)

「あなたが誰のものか?そんなことなどとうに知っています。あなただけをずっと見ていた。初めて会ったあの日から…ずっと…今も…」

顔を見つめて

「今は俺だけを見て…俺の事だけ考えて…」

「ここにいるのはあなただけをずっと思ってきたひとりの男なのです。藤壺様…あなただってわかっているはずだ。この気持ちに気づいていたんでしょう。ずっと知らないふりをしていただけ…」

「お願いだ…こうしている時だけでいい。この時だけでいい。俺をひとりの男としてちゃんと見て…受け入れて欲しいんだ」

懇願する光

「ずっとずっとお慕いしていた。元服した日、御簾(みす)越し(ごし)にあった最後の日、なぜもっと早く好きだと言わなかったのかと後悔した。行き場のない後悔と会えない辛さから俺はこの身を滅ぼしても構わないと高雄(たかお)の山奥深く(やまおくふかく)まで入った」

その言葉に驚く藤壺

「だが…俺はこうしていまあなたの目の前にいる」

そんな事をなぜしたのです…

「それをあなたは聞きますか?こうなる運命(さだめ)だったからではないですか。それほどにまであなたが恋しかったのです」

「そしてようやく、あなたが今、目の前に…俺の手の中にいる。絶対に離さない…藤壺様」

唇を重ねる光

「あたたかい温もり…ずっと願っていた…あなたをこうして腕に抱くことを…愛しい人」

抵抗もせず自ら光を抱きしめる藤壺

「あぁ…あなたの匂いがする。忘れたくても忘れられなかったあなたの匂い。同じ匂いに包まれたくてどれだけの香(こう)を炊(た)いたかわからない」

「このまま…あなたを…」

唇を重ねながら腰ひもを解いて着物を脱がせる
その手を止めようとする藤壺

「だめです。俺は止める気はない。もう諦めて自分の気持ちに素直になって下さい。俺を好きだとどうか…その口で言って下さい」

(ここから性的台詞はありませんがふたりの濡れ場になります。ここが前半のクライマックスで全話通して唯一性描写のあるシーンになります。衣擦れの音とリップ音を台詞の間にいてれ表現してください)

「ずっとこうなりたいと願っていたんだ…あなたとひとつに溶け合いたいと…」

「思っていた通りの白く艶やかな肌(つややかなはだ)」

「赤く染まった首筋も胸も…思った通り美しい…」

「その仔猫(こねこ)のような悩まし気な声も…快感に溺れるその顔も…今は俺だけのもの…」

「…もっと奥深くまで…ずっとこうして繋がっていたい」

「藤壺…いや…あなたの本当の名前が知りたい」

「教えて下さい。あなたの本当の名は…」

日向子(ひなこ)…

「ひなこ…どんな字なのですか?」

ひ(日)にむかう(向)こ(子)

「ひにむかうこ…なんとあなたたそのもの…ひなこ…」

「(愛おし気に優しく囁く)ひなこ…光と…愛しい人の声で光と呼んで下さい」

光…

「この世で今はふたりだけ…今だけはその名で呼ばせて下さい…」

リップ音でフェードアウト

事後、抱き合ったまま…
藤壺を胸に抱いて…

「どこも痛くはない?」

大丈夫です

「静養に来ていたのをすっかり忘れてしまって無理をさせたのでは?」

今更ですか(笑)

「確かにいまさらか…っイタ…」

あっもしや…ごめんなさい

「(笑)大丈夫。それくらいひなこが俺を求めてくれという証(あかし)」

照れてしたを向く

「照れずとも…この痛みは俺にとって心地いい…痛みがずっと消えなければ、そうすれば離れていても近くに感じられるのに…」

急に喉が渇いてくる

「喉が渇いた…」

水を命婦に持ってこさせましょう

「いや…必要ない…これはひなこ、あなたでなければ癒せない渇き…」

藤壺を抱き寄せる

「あなたにも俺の痛みの跡を…」

何をされるかひるむ藤壺

「そのまま…」

噛むことに躊躇してしまう

「(小さい声で)いいのか…このまま血を吸っても…」

「嫌ダメだ。血を吸ってしまったら…きっと俺は…狂ってしまう」

噛むことを止めて印をきつく付けるだけにする。

(ここから態度が変わります)
「少し痛かったか?だが俺のこれまでの心の痛みを思えばこれくらいは大した痛みではないだろ」

その言葉に驚く藤壺

「父上と一緒に居るところを見るたびに心が叫びそうになった。その度に心が血を流し。だがもうそんな事はどうでもいい。今はこうして俺のもの」

身体を離そうとする藤壺

「ふたりで父上を裏切ったんだ。何もなかった時には戻れない」

絶望したようにうなだれる藤壺

「地獄に堕ちよう…ふたりで…」

唇を重ねてそのままフェードアウト

部屋の前で物音がする

「だれだ…」

命婦がそろそろ日が昇ると声をかける

「そんなに時が過ぎたか…」

そろそろお帰りの支度を
名残惜しそうに藤壺を抱き寄せる

「ひなこ…」

愛おし気に唇を重ねる
悲し気に光を見つめる藤壺

「さっき言っただろう。ふたりで地獄に堕ちると…」

身支度を整えて
和歌を読む

『見(み)てもまた あう夜(よ)まれなる 夢(ゆめ)のうちに やがてまぎるる わが身(み)ともがな』

「また必ず会いに来る」

御簾を上げて部屋を出て行く

〇二条邸

苛立っている光
立ち上がって惟光を呼ぶ

「惟光(これみつ)はいるか?」

惟光が走って部屋にやってくる

「三条からの返事はないのか?」

惟光は言いにくそうに

惟光「はい…使いのものには返事を必ず待つように言ってはあるのですが…」

光は扇を開いたり閉じたりしながら

「ならば、なぜ文を持って帰らぬ。あれから毎日のように文をおくっているのに…三条に赴いても(おもむいても)命婦(みょうぶ)が「女御様(にょうごさま)は御気分がすぐれない」と会わせてもくれないし」

惟光は光を諭すように

惟光「藤壺の女御様は静養のためにお里下がりをされたのです。光様と逢瀬を楽しむ為ではありません」

扇を惟光に投げつけて

「そんことはわかっている。もしも御気分がすぐれないのあればお傍にいて介抱してさせあげたと思っているだけだ。俺がそんなの色狂い(いろぐるい)だとお前は思っているのか!」

扇を拾い光に手渡しながら

惟光「それは存じております。しかし…やはりお立場というものがあるのです。そこはわかってさしあげねば」

光は廊下に出て月を見上げながら

「そんなことぐらい俺だってわかっている。だが会いたいのだ。もう一度この腕の中に…
あの昔とかわらぬ優しい笑顔に…匂いに包まれたいのだ…ひなこ…」

そんな光を見つめる惟光

惟光「光様…」

しばし時が流れる

急におもい出したように

「そう言えば、この間あった幼き頃の藤壺様にそっくりな小姫(こひめ)はどうしているだろうか?あんな山奥で尼のおばば様と二人っきりではさぞ寂しかろうに…」

その言葉に惟光が答える

惟光「そういえば兄の阿闍梨和尚(あじゃりおしょう)が申しておりましたが何やらあの小姫(こひめ)は藤壺の女御様の兄上のお子様とか?ただ母親が正室ではなかったために行き場を失くしてあそこで暮らしていたと」

惟光のその言葉に急に思い立ったように

「それは本当か…だからあんなのも似ていたのか…藤壺様の兄上といえば兵部卿の宮(ひょうぶきょうのみや)…あの男、藤壺様の兄の立場を使ってあまりいい噂を聞かない…そんな男の娘だというのか…」

室内に入り座り込んでなのやら考え込む光

惟光「光様、どうかいたしましたか?」

「暮らしていたとはどういうことだ」

惟光「それは最近。尼のおばばが亡くなったと聞きましたので」

「亡くなっただと?なぜそれを先に言わん」

惟光「‥‥」

「明日。北山へ行く」

驚く惟光

惟光「北山へ急になぜ行かれるのです?」

「(楽しそうに笑いながら)可哀そうなすずめの子を助けてくるんだよ。兵部卿の宮がかごに閉じ込めてしまいそうだからな」

惟光は先程とはうって変わって楽しそうに話す光を見つめていました。

〇北山

【回想シーン開始】
〇同・竹林(ちくりん)
夕顔の墓参りの跡、寺の裏手の竹林を散策する光

「北山の寺に夕顔をひとりおくのは寂しいな。また会いに来るとしよう」

竹林を走り抜けて来る女童

「こんな山奥にあのような女童(めのわらわ)が居ると珍しい」

女童の顔を見て驚く

「藤壺…様。まさか…いやそんなことは…まるで生き写しのようだ」

  上を向いて走って来て光とぶつかる

「そんなに走っては危ないでは無いか?お前はここ寺の子どもか?それにしてもよく似ている…」

光のそんな言葉も無視してすずめに手を伸ばす
その姿を見つめながら

「お前はあのすずめを捕まえたいのか?」

いぬきがすずめの子が逃がしてしまったのせっかくかごの中で飼っていたのに
(注・いぬきとは犬君と書き小さい姫の子守をする子供の名称です)

「かごの中で飼っていただと?すずめは空を飛ぶものだ。それを狭いがごに入れておくなどと…いぬきが逃がしてしまったのもしかたないな」

いいから早く捕まえて…お兄様なら背がお高いから届くでしょ?お願い…

「俺に捕まえてくれというのか?」

そうよ。あっまた飛んでいってしまうわ

「すずめというのは大空を飛ぶもの…諦めなさい。ほらもう行ってしまった」

すずめが羽ばたいていく
泣き出す小姫…

「これでいいのだよ。すずめは空を飛んでこそすずめなのだ」

光は抱き上げて歩き出す

回想シーン終了

〇北山・竹林
離れに向かって竹林を歩く光

「この竹林も季節が変わったせいか、ずいぶんと寂しい感じがするな」

離れから人が出てくる

「あれは…」

出てきた人物が近づいて声をかける

兵部「これはこれはかの光源氏様ではありませぬか?こんな寂びれた寺に何用ですかな?」

光は以下無事気に兵部卿の宮をみつめて

「これは兵部卿の宮(ひょうぶきょうのみや)ではありませんか。先日の御所(ごしょ)以来ですね。わたくしですか?懇意にさせて頂いていた尼がお亡くなりになったと聞き、残された小姫が心配になって様子を見に参ったのです」

光の言葉に驚いた兵部卿の宮は

兵部「うちの母とあなた様のようなお方が懇意にしていたとは知りませんでしたな。生前、光源氏様のお名前を一度も聞いたことはありませんが…ほぉそうですか」

兵部のその態度になぜか違和感を感じる光

「わたくしの名前を出さないかったのは人の口というものには戸が建てられいと知っておられたからでしょう。要らぬ噂を立てないためのお考えだったのでは…私はこれにて小姫に用がありますので」

離れに入ろうとする光に兵部は

兵部「娘の紫は近いうちに名のあるお方に嫁がせるつもりでおります。なのでもうここへはお出で下さらぬようお願い申し上げます」

驚いて振り返る光

「‥‥⁈」

兵部「なのを驚かれる。あれくらいに年ごろであれば何も不思議ではない話。我が家では同じ年の姫が居る為引き取ることはかなわない。であれば力のある方に嫁がせるが世の慣例(かんれい)ではありませぬか?」

光は兵部卿の宮に

「ならば、わたくしが後見(こうけん)をお引き受けしても?」

兵部「いやいや、そんな事はもうしておりません。世に名高いお名前をお持ちの方になど恐れ多くて…」

その含みのある言葉に光は怒りを隠せずにいる

「…兵部卿(ひょうぶきょう)…それでもあなたは父親か」

兵部「何をそんなにお怒りになるのです…先程のお言葉といい…それこそおかしな噂が立つのは娘の為にはなりません。わたくしはこれにて失礼いたします。光源氏様」

兵部卿は侍従のところへ歩いていく
光は兵部卿の背中を見送った後離れに入って行く

立ち止まって

「なんという親だ…やはり思った通りこのまま小姫をここに置いておくわけにはいかないようだ…」

〇離れの一室
部屋の中で泣いている若紫をみつけて駆け寄る光

「小姫…泣いているか?」

…お兄様おばあさまが死んでしまったの、それで…泣いて言葉にならない若紫
若紫を抱き起す光

「そのことで泣いていたのか。おばあ様はほんとに亡くなられてしまったのだな…だがもう何も心配はいらない。俺が迎えに来たんだ」

でもさっき父上が…

「あぁお前の御父上にはさっきお会いした。しかし大丈夫だ、安心しなさい」

顔をあげて光を見つめる若紫、お兄様…

「これはお前が決めてのいいだ。父上の決めた男の元へいくか?それとも俺と一緒に来たいか?」

お兄様の元へ行くのですか?

「あぁそうだ。おばあ様からも頼まれていたんだ」

本当に?

「嘘など言ってない。(小さい声で)あぁ嘘なんかついていないさ」

不思議そうに見つめる若紫

「それでも俺と来るのはいやか?」

首を大きく振る若紫

「ならば行くか?」

うんと頷く、そして小さな人形を手に取る

「ではこのまま私に屋敷に行くことにしよう…手の持ったその人形を持っていくのか?」

おばあ様に頂いたのだから…持って行ってはダメ?

「可愛い孫娘がさぞ不憫だったのだろ…それで人形を…ああ構わない。他に持っていきたいものないか?」

はい…という若紫を光は抱き抱えて立ち上がる

「惟光(これみつ)はいるか…これから小姫…いや若紫(わかむらさき)を連れて二条の屋敷に帰る」

廊下に控えていた惟光が驚く

惟光「光様…先程の兵部卿の宮様(ひょうぶきょうのみやさま)の話では…」

その言葉を遮るように

「聞こえなかったのか?俺は二条に帰ると言ったんだ」

惟光「ですから…若紫様をお連れするのは…」

「(苛立って)一人になったかわいそうなすずめの子を連れて帰るんだ。誰にも文句は言わせん」

光は若紫を抱き抱えたまま廊下を歩いていく
不安そうな若紫に

「何も心配はいらない。俺はすずめの子をかごの中から助けただけだ」

すずめの子?私が?

「そうだ。先日会った時にお前が逃がしてしまったすずめの子とお前は同じだ」

私はすずめの子ではないわ。失礼なお兄様

「(笑)ようやく笑ったな。お前はそうやって笑っている方が可愛いぞ」

離れを出て牛車に乗り込む

「二条の屋敷に向かってくれ」

〇二条邸・寝間すやすやと眠る若紫

「よほど疲れていたのだろう。北山を出てからずっと寝ている。二条についても起きる気配が微塵もない」

着物をかけて…起きようとするが…

「まったく着物の裾をこんな掴まれては…起き上がることも出来ん」

愛おしそうに見つめる

「兵部卿とはあとで話をつければいいことだ。今は若紫をここへ連れてくる方が先決だった。他へ行かれてはどうになぬからな…」

「本当に藤壺様にそっくりなこの寝顔…姪というよりも妹だ…このまま大人になってくれれば…」

抱きしめようとした時

惟光「光様…起きていらしゃいますか?」

「何事だ。若紫が起きてしまうではないか」

惟光「…申し訳ありません。しかし…今、御所から早馬(はやうま)が参りまして…」
(注・早馬とは本当に重大な要件の時のみに使わせる使者)

「早馬!どうした…父上なにか、それとも藤壺様に何かあったのか?」

惟光「(言いにくそうにしながら)…」

思わず立ち上がる光

「藤壺様がご懐妊だと…まさかその子は…」

しかし次の瞬間…笑い出す光
笑い声でフェードアウト

第四帖 完

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