平安吸血絵巻【源氏夜叉】~鬼になった光源氏~第五帖 孤独な赤い花 末摘花編(藤壺出産) 

平成吸血絵巻【源氏夜叉】~鬼になった光源氏~ 第五帖
孤独な赤い末摘花編 藤壺出産

〇御所・庭園
行幸(ぎょうこう)の試楽(しがく)
(行幸とは公達だけが楽しむ宴・試楽とは公開練習)

光「(不服そうに)なんで今日は見物人が多いんだ。帝や女御様方(にょうごさまがた)までいらっしゃる」

中将「なんでも帝が藤壺の女御様にもお見せしたいと呼んだらしい」

光「…藤壺様がいらしゃるのか?」

中将「他の女御様もいるようだが…相変わらずお前は藤壺様一筋なのだな(笑)」

光は御簾越しに藤壺の姿を探す

光「あそこにいる…」

中将はそんな光を窘める(たしなめる)

中将「次は俺たちの青海波(せいがいは)だ。いくぞ」

光と中将は舞台に立ち本番さながらの舞を披露する
雅楽の音に合わせて光に心の声の台詞をお願いします
   
光「あれから何度、訪ねても逢っては下さらなかった。お腹の子はきっと…それすらも聞けず…」

光「あぁ御簾越し(みすごし)でも俺を見ているのがわかる。藤壺…もう一度あなたを抱きしめたい」

光「…もしもここであなたの名前を大声で叫んだら…あなたは俺と来てくれるだろうか…」

雅楽の音が止まる
周りから感嘆の声があがる
御簾の向こうに帝に一礼をする

中将「光の君…今日はずいぶんと舞いに力が籠っていたな(笑)」

舞台から降りて控えの間へ移動する二人

光「何が言いたい。俺はいつもと変わらんが」

中将「まあ本人がそういうのであればそうなのだろう」

光「お前は…そうやってなぜ俺の気持ちを逆なでするようなことばかり言うんだ」

着替えをしながら

中将「しかし、帝も五十を超えるというのにお子を授かるとか…まったくこれ以上、後宮(こうきゅう)に政的な争いの種は増やさないで欲しいね」

光「…俺はその政的な争いから外された身だからな…父上が何を考えているかなんて知る由もない」

中将「後宮の女御様方の機嫌が悪くて、こっちまで火の粉が飛んでくるから困るんだ」

光「…まあそれは仕方あるまい」

中将「他人事だな…(笑)そうだ最近気なっている姫がいるのだが…なかなか色よい返事かこなくてなぁ…」

光「あぁ俺も同じだ…うちの命婦が妙に進める姫が居て、これがやはり返事がなかなか来ない。まぁ屋敷の奥から出たことがないという奥ゆかしい姫君(ひめぎみ)らしいのだが…」

中将「もしや常陸の宮家(ひたちのみやけ)の姫ではないか?」

光「そうだが?中将、お前が懸想(けそう)している姫というのは同じ姫か」

中将「なんとこれもまた奇遇な…でどんな姫かきいておるか?」

光「髪が身丈(みたけ)よりも一尺(いっしゃく)ほど長く流れる滝が如く豊かで美しいと命婦(みょうぶ)が話していたな」

中将「髪が美しいと…他にはどうだ?」

光「琴のお手前がかなりいいと聞いた。伺う時はぜひ笛をお持ちくださいと」

中将「琴か…一度聞いてみたいものよな。だがなにぶん返事が来ない事には…この際だ夜這いでもかけるか?」

光「おいおい…さすがにそれはあまりに時期早々(じきそうしょう)ではないか(笑)」

中将「しかし待っていては埒があかんではないか。女の盛りは短いのだぞ。どちらが先の落とすか勝負するか?」

そう言いあっている笑い声でフェードアウト

〇常盤の宮邸 
(ここから姫君の名を末摘花(すえつむはな)に統一します)
壊れてさびれた佇まいのお屋敷
庭は雑草が生い茂っている

光「なんと荒れ放題の屋敷ではないか…」

惟光「足元にお気をつけてください」

草に足をとられながら歩く光

光「命婦(みょうぶ)のたっての願いということで会いに来たものの…」

惟光「常陸(ひたち)の宮様がお亡くなりになってからは、頼る相手もいなく寂しい日々を送っているとは聞いていましたが流石にこれはあまりにひどい」

光「ようやく今宵お会いできることになったのに…までの苦労が」

惟光「お戻りになられますか?」

光「いや、せっかく来たのだこのまま」

惟光「これは絶対に命婦に踊らされてますよ。光様」

光「まあそれでもいいではないか。もしも話に違わず(たがわず)美しい姫なら…(小さい声で)血も美味ならいう事はない」

玄関に付き中の女房に声をかける

惟光「光源氏様が御着きなられました。中へ案内(あない)を頼みます」

玄関の扉が開く
光女房に案内されて末摘花の元へ向かう

〇同・末摘花の部屋の前
御簾越しに対面を果たすふたり
   
光「(紳士的に)ようやく会って下さいました。文をお送りしてもなかなかお返事が頂けず、もうわたくしのようなものには逢っては下さらないのかと諦めかけておりました」

後ろ向きで何の反応もしめさない末摘花

光「‥‥お返事がない。どうしたものか。大人しい方だとはお聞きしていたがこれでは先に進まんな」

困り果てた光は琴を弾いてほしいと頼んでみる

光「…姫は琴がお上手だとお聞きしました。今宵のような美しい晩にはぜお聞かせ願いたい。弾いてはいただけませぬか?」

静かに琴の音が響く

光「ほぉこれは、お噂どうり…美しい琴の音色。わたくしも笛を持ってくればよかった…お話しては下さらないのですか?ならばここは…」

御簾をあげて中に入る

光「どうか…琴だけではなく…あなたの可愛い声もお聞かせください」

その場を逃げようとする末摘花
手を掴んで抱き寄せようとした瞬間…

光「‥‥⁈」

末摘花の容姿が行燈の灯りに照らされる
瘦せこけた顔に像の様に垂れ下がった花…その先端は赤くなっている
光は今までに見たこともない醜い容姿に思わず掴んだ手を離してしまう

光「…あっ、いやこれは…申し訳ない」

その言葉に顔を隠してすすり泣く末摘花

光「(心の声)…あまりにも醜い…先程までの無口な態度も大人しいだけではないようだ。ここまで醜いと交わる気もならん。さてどうする…このままというわけにはいかん。さすれば姫の方から断る様に仕向けたいが…」

どうしてもその気になれない光はある提案をする

光「お前は鬼を見たことがあるか?」

首を振る末摘花

光「俺は人の生き血を吸う鬼…そして女に望むのは血だ。」

言われていることが理解できずにいる末摘花

光「俺は今喉が渇いている。お前の血が欲しい。その細い首筋に牙を立て血を吸わせろ。お前はその恐怖に怯え、苦しむがいい。」

【血が欲しい、喉が渇いている】
黙って首を差し出す末摘花

光「…よいと申すか?なぜだ?」

それを光様がお望みなら断る理由がありません
どうぞお好きなだけ血を吸って下さい

光「確かに血が欲しいと言ったのは俺だが…。それだけの理由で、俺のために自分を犠牲にするというのか。なんという女だ。ならば、遠慮なくいただこう。」

末摘花に首筋に牙を立てる

光「‥‥⁈」

その血はまるで人の心を清めるような気がするほど清らかな味がする
末摘花を抱き寄せてさらに血を吸う

光「なんという…これまでには無いほど清らかで純粋な血…」

光は末摘花を抱き寄せる

光「そなたの血からは与えること以外のことを感じられない。純粋で優しい味がする。これが至高(しこう)の血か…」

光「もし、俺がそなたの血を全て吸い付くし命を奪おうとしていたらどうするつもりだったのだ?」

なにも…

光「まさか、考えていなかったのか?そなたには人の悪意を疑うと言う事が存在しないのか?信じる事しか知らんと言うのか?

‥‥。そなたは美しい」

愛しさなのか哀れみなのか光はそのまま末摘花を腕に抱く
リップ音でフェードアウト

光「ふーっ寝てしまったか…」

着物を末摘花にかけて優しく撫でる

光「あまりの容姿に初めはその気にもなれずにいたが…俺が頷くその姿に絆(ほだ)されてしまったようだ」

光「神というのは時にむごいことをする。清らかな心とは違い過ぎる…この容姿…きっとこれまでもその容姿のせいで傷ついてきたであろう」

光「…ならば俺が一生面倒をみようではないか。(笑)血も美味かったしな」

笑い声でフェードアウト

〇二条屋敷・寝所(夜)
ひじ掛けにもたれている光

光「惟光か?入れ」

惟光が部屋に入る

惟光「こんな夜更けに何用ですか?今宵は出かけないとおしゃっていたではありあせんか」

光「そうではない…末摘花(すえつむはな)の事だ、これから良しなに頼む」

惟光「(呆れたように)末摘花?」

光「常盤の宮の姫君の事だ」

惟光「光様も物好きな…」

光「‥‥⁈惟光!」

惟光「申し訳ありません。今のは失言でした」

光「俺が一生面倒みると決めた姫だ。一度でも契りを交わした姫が笑いものにされるのは堪らん、今後、不自由なく生活できるように計らえ」

惟光「かしこまりました。あとで色々と届けさせましょう」

光「頼んだぞ。必要なら屋敷の修繕も頼む」

少し間を空けて

光「藤壺の女御はそろそろ産み月か?」

惟光「もうお里下がり(おさとさがり)なさっているとお聞きしましたが?」

光「そうか…もう三条に…」

惟光「光様…」

光「わかっている。わかっているのだが…せめて文だけでも届けてはくれんか?」

惟光「…わかりました。文だけですよ」

光は机に向かって文をしたためる

『物思う(ものおもう) 立ち舞うべくも(たちまうべくも) あらぬ身の(あらにみの) 袖うちふりし(そでうちふりし) 心知りきや(こころしりきや)』

光「これを三条の藤壺様へ」

廊下に立ち月を見上げて

光「何事もなく…すこやかに」

〇御所・謁見の間
御簾越しに対面する光、帝、藤壺の三人
深々と頭を下げてお祝いの言葉を

光「帝におかれましては、若宮のご誕生ことのほかお喜びを申しあげまする」

帝「そのようにかしこまらずともよい、早くこちらへ」

帝、御簾を上げて近くに来るように促す

光「では…失礼を」

御簾を上げて中に入る
帝に並んで若宮を抱いて座っている藤壺

帝「藤壺、若宮をこちらへ」

帝は若宮を抱いて光に見せる
   
帝「そなたの弟になる。兄弟とはいえ本当にそなたが生まれた時とうりふたつ。まことに美しい子であろう」

あまりに自分に似ている若宮に言葉も出ない光

光「本当に可愛らしい。私もこのような子を抱いてみたいものです。父上が羨ましい」

帝、若宮を光に抱かせる
驚く光と藤壺

帝「ならば抱いてみなさい。この子の重みをその身で感じておくれ、そしてこの子がこの先困らぬようにお前のその身で守ってくれ」

光「‥‥⁈父上…それは…」

帝「そのままの意味だと受け止めてくれ。のちに正式に後見を頼むが…いずれ東宮にと思っている」

その言葉に若宮が自分の子だと疑わない帝

光「有難いお言葉。この先、若宮のために誠心誠意尽くしましょ」

帝「その言葉だけでもう何も申しことはない。よろしく頼むぞ」

光「はい…」

第五帖完

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