平安吸血絵巻【源氏夜叉】~鬼になった光源氏~第三帖 夕顔の君編

平安吸血絵巻【源氏夜叉】~鬼になった光源氏~第三帖
夕顔の君編

〇二条邸
扇を眺めながらを惟光(これみつ)に聞く

「惟光(これみつ)、夕顔の咲いていた家はお前の親類の家の近くであったな」

惟光「はい、西の家になります」

「何か聞いているか?」

惟光「普段、男出入りはないと聞きまする。なにやら主人は地方勤めの役人らしく家にはいないそうです」

「ほぉ主人がいない…扇(おおぎ)に和歌を書いて渡すなどただの女には思いもつかない誘い方…ずいぶんと面白い趣向を持った女のようだ。どんな女かことのほか気になるではないか」

惟光「光様…」

扇で仰ぎながら
「まぁこれも何かの縁(えん)。誘いに乗ってみるのも悪くはない。中将の言っていた中のおんなというものを試してみるにはちょうどいいかも知れんしな」

惟光「(半ば呆れ気味に)…あなた様というお方は…」

「まずは…文を返さねば…誘いに乗るにしてもまずはそこから…焦って事を起こすのは間抜けな男のすることだ」

硯(すずり)を寄せて和歌をしたためる
『よりてこそ それかとも見(み)め たそがれに ほのぼの見(み)つる 花(はな)の夕顔(ゆうがお)』

「この文を届けてくれ」

文を惟光に託す
惟光「…わかりました」

部屋を出て行く惟光

「これでどんな文が帰って来るか楽しみだ(笑声でフェードアウト)」

〇五条・夕顔邸
忍んで来る光
御簾(みす)を上げて寝所に入る

(初めは紳士的に)
「どれだけお会いしたかったか…お願いです顔を隠さないで…文だけのやり取りでわたくしをこんな思いにさせたあなた様は罪作りなお人だ。あなた様からの文をどれだけ心待ちにしていたか…」

抱きしめる光

「この香り…文からいつも香るこの匂いが早くあなた様に会いたいと思わせた。なんという馨(かぐわ)しい…もっと近くで感じたい。ずっとそう願っていたのです。拒まないでわたくしを受け入れて…ここに居るのはあなたを恋い慕う一人の男なのです」

唇を重ねるふたり

「柔らかな肌…白くまるで夕顔の花そのもの…夕顔の君…そう呼んでもいいですか?」

ひもを解く
耳の周りや首筋を舐めまわしながら

「あぁ…なんとも甘く匂う肌…そして汗の匂いまでが甘い…」

「白い肌が紅くなってきて…もう我慢が出来ない…喉が渇いているのです。その赤く流れる血で満たしたい」

首筋に牙を立てる

「はあ…もっと…欲しい」

さらに吸う

(ここから態度が変わります)
「(笑)いい声が聞こえた。血を吸われるのがそんなに気持ちいいか?ならもっと欲しがってみろ。どうして欲しいか望むまま口にしろ…」

そのまま押し倒して関係を持つ

「可憐(かれん)な花とはうらはらに自(みずか)ら乱れる声とその妖艶(ようえん)な姿…これが中の女か…」

事後、横たわる夕顔の肌に顔を寄せて

「…確かに中将(ちゅうじょう)のいうように位の高い女にはないものがあるな…」
  
起きる夕顔

「なんだ…まだ足りないか?そんなに欲しがるとは…まあそれもまた可愛いが…」
   
夕顔から体を離して

「そろそろ夜が明ける」
   
すがりつく夕顔
唇を重ねて

「夕方から咲く夕顔…これ以上、吸っては朝には枯れてしまうかも知れんからな(笑)」
   
着替えて部屋を出る光

「また来る」

〇二条邸
惟光を呼ぶ

「なあ惟光(これみつ)…五条(ごじょう)の夕顔の家はなぜああも騒々(そうぞう)しいのだ」

惟光「光様、庶民(しょみん)とは皆あのような暮らしぶりなのです」

「そうだな、そう少しのんびりしたいものよ。しかし夕顔は俺の素性を知ろうともしない。変わった女だ」

文を差し出す惟光
文を受け取る光
香の香りを嗅ぎ取って

「これは…御息所(みやすどころ)か…」

惟光「六条(ろくじょう)様にはしばらくお伺いしていませんので…そのせいかと」

「…」

中を見ずにそのまま火に燃やす光

惟光「返事は如何(いかが)なさいますか?それでは…」

「(不敵に笑いながら)文が手元に無ければ読みようも返答しようもないであろう…」

思案をした後、思い出したように

「そう言えば北の方に今は使っていない屋敷があったはず。そこなら五条の屋敷よりは静かに過ごせそうだ。惟光(これみつ)、今夜は夕顔を連れてそこへ参る」

惟光「北の屋敷ですね。わかりました」

惟光が部屋を出る

「御息所(みやすどころ)にも困ったものだ。多少の我儘は可愛いとも思えるが…度が過ぎれはただの醜い嫉妬だ…」

〇五条・夕顔の屋敷(夜)
寝所に向かう光

「夕顔の君はもう休んでおられるのか?」

慌てて起きる夕顔

「横になっていたのか」

今宵おいでになるとは思いもよらず

「まあよい。今宵はお前を連れて行きたいところがある。出かけるぞ」

夕顔を抱き上げる光
着替えをと言う夕顔を制して

「着替えはせずともよい。ここより静がな場所へ月を見に行くぞ」

抱いたまま歩き出す

「なにも心配はいらん俺はお前と二人でゆっくり語り合いたのだ」

〇牛車
牛車(ぎゅうしゃ)に乗り込む

「行先はわかっているな。車を出してくれ」

戸惑う夕顔

「心配は要らぬ」

どこへ行くのですか?

「さっき言ったではないか…俺は自分の思うようにする。要らぬ質問をするな。こうしている時は俺の事だけ見ていればいいのだ」

夕顔を引き寄せて唇を重ねる

「どうした…(笑)震えているな。唇を重ねて身体に指を這(は)わせただけなのに…もう我慢ができないという顔」

「(耳元で)その顔が男の心をくすぐるとわかってしているのか?」

〇京の北の方・某(それがし)の屋敷
(旧暦の八月十五日 中秋の名月BGMは秋の夜を思わせて下さい)

牛車を抱いて降りる

「着いたぞここだ」

ひっそりと佇む小さい屋敷の中に入って行く
寝所に入る

「今宵(こよい)は中秋(ちゅうしゅう)の名月(めいげつ)…ここからならば月が綺麗に見える。月明かりに照らされる夕顔はほんとうにこの世のものか?そのように思う程、あまりに儚(はかな)く手折(たお)ってしまっては、こと切れそうなほど美しい」

着物をはだける

「この柔らかな膨らみ…白き肌…ここに牙を立てたらどんなに甘美な味がするのか…」

胸に牙を立てる

「我慢するな。思うままに声を上げろ、その声が…」

さらに血を吸う

「もっと味わい深いものに変えていくのだ…」

着物を脱がせて事…押し倒す

「お前を抱くたびにその声も姿もまるで違う女のようで…もっと欲しくなる。もっと深く…繋がって離したくなくなる」

お嫌ですか?

「(笑)嫌なのではない。ただこんな女がこの世にいたのかと驚いているだけだ」

抱きしめる手に力をこもる

「お前は何故(なぜ)、俺の事を何も聞かぬ…」

あなたが誰でもそんな事は取るに足りない事

「もしも俺がお前の事を…知りたいと…」

夕顔から唇を重ねて光にそれ以上の質問をさせない

「この話になるとすぐに誤魔化そうとする。そんなに知られたくないか?」

私が誰でもあなた様が誰だとしても今私が恋しいのはあなた様おひとり、それではいけませんか?

「俺が誰かとよりも…今、恋しい人か…まったくそう言われたら尚更(なおさら)の事、お前を離せなくなってしまうではないか…」

唇を重ねて…

「本当に可愛い女…もっと俺を求めろ…もっと…」

しばしまどろんでいたが人の気配に身を起こす光

「そこに居るのは誰だ。呼ぶまではここへは入るなと申しつけてあったはず」

青白く揺れる人影…

「…何者だ!もしや…物(もの)の怪(け)の類(たぐ)いか!」

光は大きな声で侍従たちを呼ぶ

「誰か…おらぬか!惟光(これみつ)はどこだ!」

しかし返事はない
   
「おのれ…夕顔から離れよ…だれか!早く魔(ま)よけの弓を持て!」

光は夕顔の上で今にも首を絞めようとしている物の怪に向かって刀を向ける

「早く…弓を…つるをならせ!この物の怪を夕顔から引き離すのだ」

奥から人が走りながら弓の弦を鳴らしてきました

「待っていた。早く…やめろ。それ以上夕顔に手を触れるな!」

その青白い人影がひかるの方を向きます

「この香の香り…あなたはもしや…」

女の高笑いが屋敷に響きます
ニヤッと笑ってその影は消えていきます
夕顔に駆け寄る光
しかしその身体はすでに冷たくなっていた

「夕顔…起きろ…」

夕顔の身体を揺り動かす光
しかし夕顔は起きることない

「いったいこれはどういうことだ。なぜ夕顔が殺されねばならん。この優しくも美しい夕顔…」

屋敷中に弓のつるの音と光もむせび泣く声だけが響く

〇二条邸
惟光が光に夕顔の素性が分かったと知らせに来る

「惟光(これみつ)か…それで夕顔の葬儀(そうぎ)は無事に済んだか?」

惟光「はい、すべては光様のおっしゃる通りに…」

「俺の立場では表立って葬儀を執(と)り行う事も憚(はばか)られたからな…それでわかったのか?」

惟光「はい…あの方は…その…(言いよどむ)」

「(苛立ちながら)はやく言え!夕顔は本当は誰なのだ」

惟光「頭の中将様のご内室(ないしつ)でいらっしゃいました」

その言葉に扇子を落とす光

「まさか…中将の…雨夜(あめよ)の品定(しなさだ)めで話していた中(ちゅう)くらいの女は夕顔だったのか(笑)」

惟光「それで…」

「まだ何かあるのか?」

惟光「…実は…藤壺(ふじつぼ)の女御(にょうご)様(さま)が…」

その惟光の言葉に光はさっきまでの悲しみを忘れて声を荒げた

「女御(にょうご)がどうされた!」

その様子に惟光はひるんでしまう

惟光「…体調を崩されて…お里(さと)下(さ)がりをされていると聞き及びまして…」

「なんと…女御が…五条(ごじょう)のお屋敷に戻っているというのか?」

惟光「はい…」

立ち上がり部屋を出て行こうとする光

「…会いたい…藤壺…」

それを止めようとする惟光

惟光「光様…このまま会いに行かれても…追い返されるだけです」

静止を振り切って

「すぐ馬を準備しろ…五条へ…藤壺の元へ行く」

廊下を急ぎ足で歩く光
追いかける惟光

〇京の街中(夜)
馬で駆け抜ける光

「これも運命…己の手で掴んで見せる…藤壺…」

第三帖 完

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