思慕一途柳問答 2

「勇也ぁー!大丈夫!?」

流園と勇也の元に美代が駆けて来た。

「ああ!また物の怪だぜ!」

「えっ!?またぁー!」

「ありゃあ、何だ?首の長くてウネウネした奴?」

「ろくろ首で御座んすね。」

「あーそうだ!あの女ろくろ首だ!」

「女!?今度は女なの?ダメだよ!勇也!」

「へ?何がよ?」

「女の相手はダメだって言うの!」

「いや、相手って物の怪だぜ!?」

「もう女に関わんな!この前のお雪ちゃんだってさあ
 ー!もうー!禁止!!」

美代が頬を膨らませて勇也を睨んだ。
その姿に佐納流園は思わず笑い出してしまった。

「勇也ぁ、こちらの人わ?」

「あ?ああ、ろくろ首に絡まれてた人だ。」

「いや、笑って失礼しやした。
 危ねえ所を助けて頂き、ありがとう御座んす。

 すぐ礼をと思いやしたが、どうにも間が取れやせん
 で、遅くなりやした。」

「いやいや、んな事ぁいいんだよ。無事ならそれが一
 番なんだからよお。」

「良かったです!」

美代もニコリと笑った。

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「しかし驚きやした。」

「物の怪かい?そりゃあ、そうだぜ。」

「それもで御座んすが、あんな躊躇いも無く打ち込ま
 れるとは、、」

「ああ、あたしたち、、ちょっと物の怪が続いてまし
 てぇ、、ねえ勇也。」

「河童だとか天狗だとか言ってたのが、それでやすか
 い?」

「まあ、何かなあ、、夏から数えて三匹目だなあ。」

「三匹!?あっしは江戸には寒くなってから来たもん
 で、、江戸にはそんなに物の怪が出るんで御座んす
 かい!?」

「ああ、何か色々あるみたいなんだけどよお、、まあ
 俺たちの暮らしに茶々入れてくんなら、相手にしな
 い訳にゃいかねえって事だけよ。」

「だから相手しちゃダメ!!
 今回は無視すんの!!」

「だけどよお、待ち合わせの人足が何人も行き方知れ
 ずになってんだぜ。あれがやってんなら止めねぇと
 だろ?」

「そうなんで御座んすか!?あっしは何も知らねぇで
 この柳を待ち合わせにしちまいやした。」

「皆んなそうしてんだがぁ、狙われんのは男ばかりで
 よぉ。何でかよく分からねえ話なんだわ。

 とは言え、ウチの美代が狙われねぇとも限らねぇん
 で、こうして一緒に帰ってる訳なんだぜ。」

「何言ってんの!?勇也は遅くまで信幸さんの屋台で
 飲み食いしたいだけでしょ?」

そう言いながらも満更でもない笑顔に、流園はこの二人が好きになっていた。

「今夜はもう遅う御座んす。また改めてその屋台とや
 らに寄らせてもらいやす。あっしは佐納流園と申し
 やす。でわ、また。」

「おう!袖ふれあうも他生の縁さ。待ってるぜい。」

「お気を付けて。」

勇也が手を振り、美代がキチンと頭を下げて見送った。

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「しかしよぉ、女みたいに別嬪な男だったなあ。」

「綺麗な人だったねえ。、、ちょっと勇也!まさか
 男にもなんて無いよね?」

「あるか!何考えてんだよ!?」

「勇也はさあー優しいからさあー
 こっちの身にもなってよお!」

「何がよ!?」

「お雪ちゃん、屋台によく来るようになったでしょ?
 あれ、勇也に会いに来てるんだと思うんだよね。」

「嬉しいじゃねぇか。あんなに一人で抱えてたのが、
 ワイワイやれるようになったんならよお。」

「そうじゃなくてさ!いや、そりゃそうなんだけど!
 お雪ちゃんだって女なんだよ、、、」

「へっ?」

「勇也に気があるんだよぉ、きっと。」

「考えすぎだろ。俺に美代が居るのは知ってんだから
 よお!寒みぃなあ、帰ろうぜ。」

勇也は美代の背に手を回し促した。
美代は勇也が合わせてくれる歩幅で動いた。

「そんな人生激変させてくれた男が、ただの男になる
 筈ないじゃない。勇也は女を分かってないんだから
 さあ、、」

そんな風に思いながら。


つづく


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