田中康介君の日常 1

じわっと熱が生まれて、頬に火の付いた様な感覚が広がる。痛いというより熱いが正解だ。 

毎度思うんだけど、これは味わいたく無い感覚。
何でこんな気分にならなきゃいけないのか、ホントに分からない。

「あ、こいつ殴ってきた。」

それでもふらりとする訳でも無く
勿論倒れたりもしない。

「あ?あぁーん。」

学校のイキがった不良は、何か理由があって暴力を使う訳じゃないらしい。ただ強いとカッコいいと思ってるみたいだ。

カッコ良く見せたい為に、ただ歩いている大人しい生徒を殴り付けたら、最早みっともないと思うんだが。

しかもさ、ふらつきもしない自分に、殴った方が動揺するって?何なんだろうなあ、と思う。

「ふざけやがって!」

不良Aはまたそんな事を言っている。
で、また拳を握り大振りに腕を振ろうとする。

あーあ、それじゃあさあ。

何となくそんな事を思って見ていたら、廊下を走ってくる教師が見えた。

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悪いとか強いが、何でカッコいいになるんだろ?
これは永遠の謎だ。

他人を傷付けて自分の方が上の生き物だと示して、限りある学校生活を自分の好き勝手に振る舞いたい!

つまりは楽をしたいんだな。
そんな風にいつも思う。

カッコいいと自由になれるは、イコールで結び付くんだろうなあ。

つまりは、、子供の甘えに違いない。

「いいなあ、子供らしいの。」

まあ不良Aは、あの後職員室でたっぷりお説教された。
割に合わないとは思わないのかな?

自分には関係ない人だから、わざわざ名前なんて覚えるつもりは無い。

「大丈夫?酷い目にあったね。」

紗代子が心配そうに聞いてきた。

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「男子ってバカよね。気分次第で殴ったりしてさ。
 全然カッコ良く無いのにね。」

「そういうのが好きっていう女の子もいるんだろ。」

「それは同じグレちゃった子でしょ。類は友を呼ぶ
 のよ。」

相変わらずクールだなあと思った。

紗代子は幼馴染の同級生だ。
黒髪をショートに切り揃え、整った綺麗な顔立ちは学校でも人気が高い。
そんな見た目でも空手を習っていて、県大会にも出た猛者だ。

そんな紗代子と親しい自分を羨む奴も多くいる。
あの不良A君も、そんなトコだろう。

「康介はさ、クール過ぎんのよ。」

はっ?思ってた事を返された!

「身体が大きくて運動神経もいいのにさ。」

「いや、だから偉い訳じゃないよ。」

「そうだけどさ。」

「別にひけらかしても、仕方ないよ。」

「ホント地味が好きよね。じゃあ私、稽古があるから。」

紗代子はT字路を右に曲がって行く。
子供の頃から通っている空手道場がある。
部活だけじゃなく道場に行ってまで痛い思いをしたいかなあ?

田中康介君はそんな風に思いながら、背筋の伸びた後ろ姿を見送った。


つづけてみる。

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