思慕一途柳問答 4

「ぐすん、、痛いよぉ、、」

「だから言ったのですよ。貴女には不向きだと。」

「ぐすん、、ですが、私は妻です。旦那様の仇を取る
 のは当然の行いで御座います、、痛いぃ、、」

「そうは仰られましてもね、、それを使いこなすには
 鍛えられた強い精神が必要なのです。現に物の怪は
 実体化しておりますまい。」

「されど、されど!私の力とはなっております故、全
 くの不向きとは言えませぬ!うっ!痛いぃ、、」

「確かに、、もう少し気の済むまでお任せしましょう
 か、、ですがいづれは返して戴きますよ。」

話していた女は、そう言うと煙の様に消えていた。

「私だって少しはお役に立つのです!あっ!話すと痛
 むのです。どうしたものか、、?」

右の顎の下を腫らした女は少し思案した。

「そうですわ!寝酒のひとつも嗜めば、直ぐに眠れる
 筈!私はそんなに強くないのですから。」

いや!
血行が良くなって更に痛む事になると思うのだが、、この秋月の姫と呼ばれる女は、良くも悪くも世間知らずの純粋さで出来上がっている。

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「邪魔するよ。一杯貰えるかい?」

「はあへえぇーーーーーーー!」

勇也を含めた人足衆に、美代や雪、信幸と紫乃も、その女に視線を奪われた。

「綺麗!なんですけど、、てか、冬なのに何でそんな
 に胸元開いてんのよ!後、生足出し過ぎでしょ!?
 厚手の長合羽羽織ってりゃいいってもんじゃない
 でしょ!?」

美代は心の内で一気に絶叫していた。
つまりは男受けのする女が現れたのだ。
また女、、自分や雪とも違う雰囲気の女、、

「勇也、大丈夫なんでしょうねえ!」

美代は誰よりも早く目線を女から離し、勇也を見た。

「えっ!?」

ニヤニヤしてるかと思ったその顔は、妙に真顔で落ち着いていた。

「頭!ありゃあ別嬪ですぜぇい、、へ?頭ぁ?」

「あ?頭、どうしたんでぇい?別嬪過ぎて固まっちま
 ったんでぇい?」

「うっせぇぞ、留!んな訳あるか!」

その騒ぎに女がゆっくりと視線を移す。

「へえ、奇遇だねぇ、こんな所で会うなんてさぁ。」

女は華が咲いた様な微笑みを勇也に向けた。

「え!ちょっと勇也!この人、誰よ!?」

美代も今度は声に出して叫んだ。
ちょっと待ってよ!お雪ちゃんだけじゃなく、こんな色っぽい女の人までも出てくんのぉ!?

「騒ぐなよ!」

「おやおや、可愛い相方には優しくおしよ。」

「たくっ!何が奇遇だよ!あんた、俺に会いにきたん
 だろ?下手な芝居だぜ。」

美代は目眩がしそうになっていた。

「お美代ちゃん!大丈夫!?」

雪がサッと美代の傍らに行き、ふらついた身体を支える。

「勇也ぁ、、何が何なのぉ、、?」

「落ち着けよ、美代。この女はあの侍の、これさ。」

そう言うと勇也は小指だけを立てて見せた。

「あのって、どのよぉ?」

「ああ、美代は知らねぇか。天狗の時に俺を馬に乗せ
 てくれた侍だぜ。」

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天狗と雪が決別した後、女を連れた柳生宗矩と勇也は少ないが言葉を交わしていた。

この女が天狗の鼻を切り地に落としたのだと。

その時の二人に纏わりつく空気は、男女の関係に疎い勇也にもそれと分かるものがあった。

雪は涙を見せたくなかったのだろう。
先にその場を離れていたのだ。

「あんたぁ、、確か澪さんだっけかぁ。ろくろ首の話
 を聞きつけやがったなあ。」

「ふぅん、思ってたよりも上等なのかもねぇ。」

澪はニヤリと笑って見せた。

「あのなぁ、あんたらが物の怪退治してんだろ?だっ 
 たら早くケリつけてくれよ。」

「毎度毎度、頼みもしないのにさ。首突っ込んどいて
 そいつも無いだろうさぁ。」

「あぁ、、何でかなぁ。出会っちまうんだから仕方ね
 ぇだろ!?」

「だったら話を聞かせなよ。」

そんな二人の間に美代が割り込んでくる。

「ホントにろくろ首退治してくれますか!?」

澪はついさっきまで倒れそうになっていた小娘の、振り絞った様な声に少しだけ真心みたいなものを感じてしまった。


つづく





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