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National Gallery、Leonard da Vinci、聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ (1499年 - 1500年頃、あるいは1506年 - 1508年頃)

製作年については2説あるようだが、モナリザ製作開始が1503年、ダビンチ50歳、ということなのでこの時期に描かれた円熟期の作品である。マリア(画面右)の微笑み、輪郭をぼかすことで奥行きを表現するスフマートの技法などモナリザとの共通点が見える。作品製作の下絵ということだが、特に顔の表情など細部まで完璧に表現されており、下絵であるとは思えない。
構図は全体として聖母子と聖ヨハネをテーマにした絵画では常套となっている三角構図が用いられているが、注意してみるといくつかの仕掛けが組み入れられていることに気がつく。
この絵の主題はハイライトで強調されているマリアとキリストだろう。誰もが最初に目を止めるのは、母親らしい愛情あふれるまなざしでわが子を見つめる二人だ。そのキリストは自ら祝福を授けるヨハネに視線を向け、ヨハネもそれに答えて祝福を与えるキリストの指に向けられているように見える。その先にはマリアを見つめるアンナに行き着く。つまり、安定した三角構図と逆に、登場人物の視線の流れは動的なサークルを感じさせる。
アンナの左手は天を指差しているが、この形は「最後の晩餐」、「聖ヨハネ」にも登場する。これが意味するものは、例えば、磔刑に処されるキリストの行く末、その後の降臨などと憶測されているが、(モナリザの微笑みと同様)謎でよいのではないだろうか。見る者にある心の揺らぎを生じさせれば、ダ ヴィンチの目的は成就したのではないだろうか。彩色もされず輪郭のみの描写だが、私は彩色さることにより「まなざしのドラマ」が中断されることを回避したのだろうと思っている。
この絵は、光による退色を避けるために照明を落とした部屋に展示されているが、このことが作品をより劇的で、神秘的なものにしている。

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